第87話
9階層
『うぉおおおおおお』
巨大な金棒を振るうのはジャイアント・・・つまり巨人族。8mを超える巨体によって挑戦者達が次々と吹き飛ばされるが後衛の魔導師による『エアクッション』によってすぐに体制を整える。
このダンジョンで戦闘を繰り広げたことによってヒュウ達の練度は大幅に上昇した。途中から合流とはいえ、それまでは何度もそれぞれがダンジョンモンスター達と戦っていた事もあり実力は折り紙付き。目の前にいる巨人にも臆すること無く立ち向かえていた。
「前衛撤退!デカイのを打ち込むぞ!紅氷拳!」
ヒュウの武器が紅色の氷に覆われまるで巨大な手甲のように巨人の腹を直撃させた。
それは氷塊のミサイルと表現するような勢いで、紅色の氷が散るのと同時に巨人も仰向けに倒れこむ。
巨大な地響きと共に光の粒子となって消える巨人を見ると、挑戦者達は歓声を上げて騒ぎ出す!
「すげー!さすがヒュウ様!」
歓声をあげる冒険者たちだがヒュウは息を荒くしてドロップアイテムを見た。
「・・・予想していたがこれはヤバイな」
ドロップアイテムもだいぶ貯まり、冒険者たちにもドロップアイテムの武具を装備させ強化をした。そのおかげもあってか巨大なモンスターとの戦闘でも被害を大きくせずに攻略を進められた。
だがモンスターとの連戦、宝という誘惑に仕掛けられた罠、複雑な構図となっている迷宮。
いくら歴戦の戦士でもその疲労は隠せなくなっていた。
「ヒュウ8階からもそうだったけど、巨大モンスターと遭遇する率が高くなっているわ・・・大群では無いのが幸いだけど」
ケイトはヒュウにしか見えないように不安そうな顔で声をかける。
そう、8層から巨大モンスターとの遭遇が頻繁になってきていた。これまでも、巨大蛙のジャイアント・トード、巨大猪のジャイアントボア、巨大蛇のジャイアントサーペント・・・どれも巨大がつく魔物ばかりだ。決め手が先ほどの巨人族・・・
「・・・明らかに遭遇するモンスターに統一が見えている。多分だがそろそろ大ボスとかが出てきそうだな」
「大ボス?」
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管理室
「やはり、気付きましたね」
「まあ、あんだけ巨大モンスターばかり遭遇しているからそう考えるのが普通かな・・・そういうヒントを含めて出てくるモンスターは巨大モンスターばかりにしてあるし」
管理室でヒュウ達の攻略を監視している俺とタマモはいつも通り彼らからのデータを採取していた。挑戦者達がどれくらい成長したのか、どう戦って魔物を倒しているのか、実に面白いデータがとれている。
「このペースなら明日か明後日ぐらいには11階層に到着しそうですね」
「そうだな、グラムにはそろそろ準備してもらわないとな」
11階層、フロアボス・グラムの初の挑戦者となるんだ。ここで脱落されると正直こっちが困る。
そんなわけで俺はフロアボス達を会議室へ集めるのだった。
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会議室
会議室に集まったフロアボス達に現在のダンジョンの状況と挑んでいる挑戦者達の報告するとやはりというべきか真っ先に反応を見せたのはグラムだった。
「ようやく儂の出番というわけですな!」
やる気で満ちた声で立ち上がるグラム。
今まで街づくりの方に集中していたわけだが、本職の方の役目が来たことで戦闘モードに入り始めている。
「まあグラムの活躍には期待しているし俺としてもグラムの戦いを見るのは初めてだからら」
現状、フロアボスの戦いを直に見たのはエドワードのみ。だが彼の戦いも俺が設定した奴の数割しか見せていない。
フロアボスとしての戦いは正直貴重なデータを取るチャンスでもある。
「グラム、戦い方はお前の自由にしていいが決して相手を舐めるような事はするなよ」
「了解です!このグラム、全身全霊で相手を叩きのめしましょう!たとえ相手が英雄の仲間だろうと!」
まあやられたら入口に転送させられるだけだし、グラムがどのようにして戦うのか楽しみだ。
「現在9階層には15人が移動中。人数こそ少ないがどれも粒ぞろいと考えていいと思う。まあグラムの所に到着する頃には10人を切っていそうだが」
「何人だろうと問題ありません!」
「そうだなまあ特に注意して欲しいのは二人。テオプアの王国騎士団の団長のヒュウと宮廷魔導士長のケイト。現状この二人が集団を纏める要役となっている」
「ん?宮廷魔導士長っちゅうことはジェコネソのギルドにあった魔法具を開発した人物っちゅうことやな」
ゾアは思い出すように言うとケイトに興味を持ち始める。
「ゾア、分かっていると思うが今回戦うのはグラムだし、挑んでくる以上問答無用で相手をするぞ」
「・・・了解です」
一応ゾアには釘を刺しておくとしてこれでいよいよ本格的にダンジョン運営が始まる訳か。
「グラムの存在が知られることになった時外がどのような反応を見せるか分からない・・・ただ向かってくる相手は容赦しない事!」
『御意!』
グラムには11階層にいつでも行けるように準備しておくように伝えた後、会議は終了した。
そして会議室に残った俺とエイミィはというと。
「なぁ以前ヒュウはシンの部下だって言っていたけどあれってどういう意味なんだ?」
「言葉通りヒュウは元天使族で以前シンの部下として世界の管理の仕事をしていたわ。あと光輝がジェコネソで会ったスイちゃんもね・・・彼女ヒュウの妹よ」
ちょっと待て!何か衝撃がデカすぎて思考が停止しかけたぞ。
えーと、ヒュウは天使族で彼の妹がジェコネソで会った才の秘書のスイだと?
って事はスイも天使族なのか?
「そんな人物がなんでこの世界に?シンって確かこの世界じゃない別の所で管理の仕事をしていたんだよな?」
「そうよ、彼とスイちゃんもそこで仕事をしていたんだけど・・・ヒュウって以前光輝の世界に行った事があるのよね・・・異世界人の調査として」
おいおい、なんか言葉の爆弾魔が隣にいるんだけど。
「それでその世界の文化にどっぷりハマっちゃったみたいで、仕事をほったらかしで遊びまくったそうなのよ。今まで遊べる環境じゃなかったせいか反動が大きくてね」
何となく気持ちは分かるが・・・面白い物がありすぎて歯止めが効かなくなったわけか。
「まあ仕事をほったらかしたってのもあるけど、その後一度シンに対して殴りかかったそうなのよ」
「はぁ?!神様を殴りかかるとか正気なのか?」
「傍から見たら常軌を逸しているけど彼の気持ちを考えたらある意味正気なのかも。そのせいもあって神に仇なした彼は天使から堕天使になったわけ」
「元天使っていうのはそういう事か・・・じゃあヒュウは神を恨んでいるのか?」
場合によってはエイミィを狙う可能性も・・・
「それは無いわ・・・今はシンと和解しているし、彼も堕天使になった事を喜んでいたわ『堕天とかカッコよくね?』とか言っていたし」
なんだろう、気持ちは分かるけど『堕天使』じゃなくて『駄天使』って呼びたくなってきた。
「とにかく彼が私達神と敵対する事は無いわ・・・どちらかというとこのダンジョンを楽しんでいるかもね」
そう言えば初めてなのに妙にダンジョンの攻略法を分かっているなと思ったが、あっちの世界の知識を持っていたからか。
「多分才と同じくらい話が通じると思うわよ・・・彼ゲームやアニメとか大好きみたいだし」
「ハハハ・・・機会があれば話してみるよ」
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おまけ
管理室
「ああ・・・そういえば、タマモ達が考えたトラップは実装させたがどんな感じだ?」
「はい、見事に引っかかっています」
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とある下層フロア
洪水トラップ
「ぎゃああ・・・助けてくれ!」
「鎧が重くて・・・・ぶくく」
ミミックトラップ
「お、宝箱発見・・・『ガブ』・・・ぎゃあああ!腕が!俺の腕が!」
フラッシュ&落とし穴トラップ
「目が!・・・目が!・・・・『ヒュ!』・・・うぁあああああああああ」
トリモチトラップ
「『ベチョ』・・・うぉ!脚が動か・・・ぎゃあああ・・ゴブリンが!」
蜘蛛の巣トラップ
「・・・・・・・(何も話せない状態)」
・・・・・・・・・・・・・・・
管理室
「意外とえげつないな」
「そうでしょうか?コウキ様がお考えになった罠の方が掛かる率が高いですよ」
キョトンとしたタマモは黒い笑顔を見せながら下層フロアの冒険者たちの断末魔を楽しそうに見ていた。
この娘の将来がマジで心配になってきた
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