第86話

7階層


8階層へ続く階段を発見したヒュウ一行。だがそんな彼らの前にまるで門番と言いたげな青い肌を持ったオーガ、見た目通りブルーオーガと呼ばれる魔物との戦闘に入っていた。


「ニック!スティーブ!先制攻撃だ!」

「「了解!」」


ヒュウの指示に従い先頭にいた二人組が急加速でブルーオーガの角に斬りかかる。


かつてたった数体でとある街を半壊まで追い詰めたと言われているブルーオーガ。

強靭な肉体は体当たりで城壁を破壊したと言われている。

しかし、そんなブルーオーガにも『角』という弱点を持っていた。


切りつけられた角は折れることも無く傷一つつかなかったが、衝撃を与えたことでブルーオーガの身体がよろめく。ブルーオーガの弱点、それは角に衝撃を与えることで脳震盪を起こす。


「よし、たたみかけろ」


ヒュウの号令と共に残りの者達が一斉に襲いかかる。

さすがのブルーオーガも実力ある者達が束になってかかればひとたまりもない。


力尽きたブルーオーガはそのままドロップアイテムを残して光の粒子となって消えた。


「気を抜くな、援軍が無いかを確認しろ!」


多くの者達が歓声をあげるもの、ヒュウの叫びで警戒心を最大限まで高めあたりを見始めた。


「前方、敵はありません!」

「後方も同じです!」


索敵スキルに優れた者からの確認を取った後、ようやく警戒を解きドロップアイテムを確認した。


「ヒュウ、ドロップアイテムは宝石類と斧だね」

「分かった・・・安全エリアで分配をするぞ」


ヒュウは同盟を組むことになった時あるルールを決めた。

それはドロップアイテムの数が全員で分けられなかった場合ヒュウが一度全部高値で買い取って現金でそれぞれに配るという仕組み。もちろんどうしても欲しい場合はヒュウから買い取ると事も可能。


意外な事に武器や貴重な物では無い限りお金がすぐ手に入るのならそちらの方が揉め事は少ないと理解していたためか、ヒュウの提案はすんなりと受け入れられた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

管理室


「だいぶ、挑戦者達の動きが良くなってきましたね。あのブルーオーガを脱落者無しで仕留めるとは」

「ブルーオーガの弱点を知っていたのが大きなポイントだね。彼はそれを知っていたから一番俊敏な冒険者たちに先制攻撃を仕掛けたんだ」


いつものように管理室には大量のモニターでダンジョンにいる冒険者たちを監視していたがここ最近は最前線組の動きに注目していた。俺は司令官のような少し立派な椅子に腰掛けながら隣にいるエイミィと話し合っていた。


今回挑戦者が7階層を突破しそうって事をエイミィに伝えたら、彼女も興味を持ち管理室に来て一緒に監視をしていた。そして意外な事に前線で闘う褐色肌の男性と魔法具で闘う女性は才の仲間である事を教えてくれた。


「しかし、宝石とか全部買い取るとか、ヒュウって結構金持ちなんだな」

「当然です。彼はテオプアの王国第三騎士団の団長であり、元シンの部下の天使ですから」


はぁ?!


なんかエイミィが爆弾発言をしたんだが。


「ちょっと待て!シンってあの神のシンか?」

「そうよ・・・今この世界にいる天使と違ってれっきとした『神の使い』という意味も持つ天使。まあ色々とあって、今はその使いは辞めて自由に生きていたはずなのに・・・」

「どういうわけか才の仲間となったと」


正直才の回りにいる仲間って結構訳アリの人多いんじゃないか?


「最前線組、もうすぐで安全エリアに到着します」


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8階層


「や、やっとたどり着いた」

「ブルーオーガに遭遇した時は終わりかと思ったが意外と何とかなったな」


安全エリアに到着すると全員安堵の表情を見せて力が抜けたように座り込んだ。


安全エリアはダンジョンの中にあるモンスター不可侵エリア。壁の色がダンジョンと異なるため一目瞭然なのだ。更に目印としてダンジョンの入り口まで転送できる魔法陣が描かれている。


「よーし、今日の攻略はここまでにしよう。それじゃあ今日の戦利品を取り出すぞ」


ヒュウはマジックバッグから今日の戦利品を一つずつ取り出した。

大半は鉱石だったが中には拳サイズの原石、武器や鎧などもある。


「相変わらず、便利なバッグですねどれくらい入るのですか?」

「そうだな。大型コンテナ船並の容量はあるな」

「コンテナ?」


何のことか分からないが、とにかくかなりの容量が入るのは理解できたみたいだ。


宝石類を全てお金に変えた後、ヒュウは平均にして全員にお金を支払い、武器などはお互いに話し合って誰が装備するかを決めていた。


「しかし、ヒュウさん達がいて本当に助かりましたよ。俺達これまで何度もここに来ているんですが、いつも5階辺りで負けてしまうんですよね」

「そうそう、異様に連携が取れたゴブリン集団とかとぶつかって・・・あれは並の兵士よりも断然に練度が上だったな」


これまで何度も視線を超えてきた仲なのか皆ヒュウやケイトに対してはかなり気軽に話せるくらいの信頼を寄せるようになった。


「このダンジョンに生息するモンスターの強さは明らかに外より上だ。だが、戦い方次第ではブルーオーガの時のように強敵にも勝てる。要は戦術が鍵を握るんだ。今までの冒険者が脱落しているのはそういうところが欠落しているからだ。しっかりと連携が取れるようになれればもっと上の階にいけるだろう」


ヒュウのダンジョン講義はその後も続くのであった


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8層 翌日


「さて、朝食も済ませたし攻略を再開するか」


朝食はドロップアイテムの肉から作った簡単なハムサンド。火属性魔法を使って軽く炙った肉を挟んだかでの物だが、意外と美味い。


警戒をしながら進んでいくと巨大なカマキリモンスターがやってくる


ジャイアント マンティス2体にポイズン Gギガンティック マンティス1体が彼らの前に立ちはだかる。


「ジャイアントマンティス・・・数は3。やつのカマと牙に気をつけろ!特に赤いやつは致死性の猛毒を持っている!」

「よっしゃ!なら先にアイツを潰すぞ」


気合の入った挑戦者が手に持った大鎚でジャイアントマンティスに殴りかかる。


バランスを崩しジャイアントマンティスが倒れ数人の冒険者たちが攻めるが、ジャイアントマンティスが倒れた真上・・・つまり天井に魔法陣トラップが仕掛けられているのを見つけたヒュウは慌てて叫ぶ


「やばい!下がれ!」


だがすでに遅い、ポイズン Gギガンティック マンティスが倒れた真上から鋭い岩が落下しポイズン Gギガンティック マンティスを貫く。言葉でいえばトラップがモンスターごと巻き込んだかのように言えるが最悪なのはここからだった。


「うぉ・・危な・・・(ぷじゅう)・・・え?」


ポイズン Gギガンティック マンティスが持つ毒袋、それが岩によって破裂したのだ。毒は血と共に近くにいた挑戦者達に降り注ぐ。


一滴でも肌に触れれば大火傷、それを身体全体に浴びてしまってはもう助からない。トラップを避けた冒険者達も返り血までは防げず数名が光の粒子となって消えてしまった。


「こんなトラップもありかよ・・・くそ!全員!地面の血に気をつけて残りを撃破だ!」


ヒュウの言葉に集中力を高める冒険者。なんとかジャイアントマンティスを撃破に成功するヒュウ一行。


だが彼らが本当の地獄を見るのはこれからだった。

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