第85話

「現在、挑戦者約40名が7層目に到達しました」


とうとう7階が開かれたことに俺は少し嬉しいと思ったが、予想していた通りのプレイスタイルの挑戦者もいて正直複雑な気持ちでもあった。


「これ、明らかに不正ではないでしょうか?」

「これも攻略の一つだ。俺達がどうこう言えない」


ヒュウ達が攻略している途中、色んな挑戦者達が利害の一致で協力し合いながらダンジョンを攻略し始める。実力者のヒュウを筆頭に力のある者達が連携しながら強敵なモンスターを攻略していき、その集団は徐々に勢力を拡大していった。

だが、中には戦いに参加しない者も出始める。


一見するとヒュウ達テオプアグループを中心に勢力を拡大させて一軍となって攻略していくように見えるが。戦っているのは殆どヒュウと前線部隊。

後ろはセコセコとドロップアイテムを回収していった。


つまり、ヒュウや前線以外は完全に寄生プレイをしていたのだ。


「ああいう攻略が存在することは予想できたし、こういうのは挑戦者同士で解決してもらわないと・・・ほら、もうひと悶着起きた」


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「ちょとあなた達!さっきから後ろで隠れて道具ばかり拾い集めて。戦う気あるの?」

「ひひ、そんなことありませんよ。俺達だってちゃんと戦ってますよ・・・さっきだっ戦っていましたよ・・・ちゃんと見ていなかったんじゃないですか?」


ケイトが注意をするもニヤニヤ道具を眺めている寄生冒険者は涼しい顔でいる。


「私達が必死で戦っているのに・・ここでぶっ飛ばして『やめろ!』・・・ヒュウ?」


ケイトが今にも魔法具をぶっ放そうとするところをヒュウが止める。


「こんな奴らに無駄な体力使うな・・・ダンジョンの攻略に集中しろ」

「だけど、こんな奴らがいるほうが足手まといよ!それに攻略と調査のペースも悪くなってきているし」


正直、ヒュウも同じ気持ちではあった。こんな奴らといたらペースは落ちる。

事実、寄生冒険者達のせいで避けていたトラップが作動したり、声をかけられて足止めされることが何度もあって攻略のペースは格段に下がっている。


特に酷かったのが、誰がドロップアイテムを手にするかもめていたことだ。

明らかに倒したのはヒュウだが『自分達も貢献した!』と言い出してドロップアイテムの分配を請求したり、ネコババするものまで出ている。


「こういう問題はギルドに報告が必要だな・・・よく聞けお前ら!気付いていると思うがこのダンジョンは上がるたびに攻略の難易度が上がっている。お前達の心配をしている余裕は無い。よって例えお前達が魔物に襲われていても助けることはしない。いいな!」


ヒュウの発言に不満の声を上げる寄生冒険者たち。未だにまともな宝を手に入れていない者をいるためその不満が毀れている。


「ちょ、ちょっと待て!じゃああんたは俺達を見捨てるのかよ!せっかくここまで一緒に来た仲間だろ?王国騎士団の団長がそんなのでい『黙れ寄生野郎』・・・ぐふ!」


「てめぇらなんか、鼻から仲間とは思っていない!」


まるで裏切りキャラが言うセリフだ。


「戦う意志の無い奴らはとっとと安全エリアの帰還魔法陣で帰りな!それは自力でやれ」


そう言い残してヒュウ達は前へ進む。


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管理室


「どうやら、問題は解決したみたいですね」

「ああ、各国でもこの問題が知れ渡るだろうから何かしらのルールは決めそうだな」


ダンジョン内での暗黙のルールみたいなのが出来たらそれはそれで面白そうだ。

基本的に俺達の目に留まらない限りダンジョン内は無法地帯に近い。


ある程度はダンジョンの法則システムとして対処は出来るが今後の事を考えると下手にルールをこっちで作るよりは挑戦者同士で決めていって欲しい。


そして再びヒュウたちの攻略が開始される。寄生プレイヤー足手まといがいなくなったおかげでヒュウ達の攻略は再びスムーズに進む。


残された寄生組は距離をとってヒュウを追いかける者もいれば安全エリアを探すために別行動し始める者も出始めた。


だが、寄生組の殆どが安全エリアに到着する前にモンスターと遭遇して脱落する。元々レベルもスキルも、統率力も低い集団が7階層のモンスターに勝てるはずが無い。

脱落した冒険者たちは光の粒子となって強制的に入り口に送還される。


「前線組、移動床ベルトコンベアトラップにかかりました・・・後ろから追跡していた寄生冒険者数名もかかっています」


タマモの報告を聞き再び彼らの行動を観察する。


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7階層


「こんなトラップまで仕掛けているのかよ!まてよ、このパターンって」

「ヒュウ!後ろにあいつらが走ってきてるよ・・・このトラップももしかしてあいつらのせいで『ヤバイ全速力で走れ!』・・ヒュウ?」


ヒュウ達が振り向くと寄生組み十数名が走ってくるのが見えた・・・だがその瞬間、唯一ヒュウだけがこれから起きる展開を理解し仲間達に猛ダッシュで走り出すように指示をだす。


寄生組の後ろには見事なトゲがついた壁がゆっくりと迫っている。

ヒュウ達が必死に走るが床の速度が徐々に加速していき次々と挑戦者達が壁の串刺しになって光の粒子へと変わっていく。


その光景は挑戦者側から見たら絶望としか見えなかった。


・・・・・・・・・・・

管理室


「ははは、凄い凄いこれってコウキ様が考えたトラップですか?流石です!私もあんなトラップを作れるよう精進します!」


タマモは寄生組の断末魔を楽しそうに見て、何か恐ろしい計画を立て始めた。


デューオやフライもタマモに影響されてきているせいか、挑戦者・・・特に寄生組が泣きべそかいている姿を見てスカッとしている


・・・悪魔だ、悪魔達がここにいる


「ちなみにこのトラップを突破する方法は少し先にあるボタンを押せば停止するよ・・・多分彼はそれに気付いているね」


画面に映し出されるヒュウはいたって冷静に周りを見始め、ボタンのありかを探していた。



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7階層


「お、俺もうダメ!」

「こら!引っ張るな!・・・ぎゃあああ!」


文字通り足の引っ張り合い。

一人が力尽き、他の冒険者の足を引っ張り、芋づる式のように挑戦者達が串刺しになって消えていく。


「ヒュウ様・・・俺達もそろそろ限界です!」

「・・・見つけた!あのボタンだ!」


天井を見たヒュウは赤いボタンを確認し、タイミングよく跳びボタンを押す。

床の速度は徐々に減速していき、ようやく停止した頃にはトゲ壁も光の粒子となって消えた。


後ろにいた寄生組もかなり脱落していた。


「な、なんなのよあのトラップ・・・物凄い殺意を感じたんだけど」

「いやダンジョンのトラップで移動床は鉄板だろ?」

「どんな鉄板よ!」


息を切らせながらツッコミを入れるケイトであるがヒュウはどこかワクワクとした気持ちで先ほどのトラップを見ていた。


「いいね、ここからが本番って感じがしてきたぜ」

「ヒュウ様・・・報告です我々の調査隊が二名と戦闘員一名が脱落しました」

「そうか。戦闘員も脱落したのなら調査隊の護衛として先にジェコネソに戻っているはずだ。俺とケイトはこのまま上を目指すがお前達は次の安全エリアでジェコネソへ帰還してくれ」

「わ、分かりました」


ヒュウが仲間達に指示を出した後、それ以外の挑戦者達を見る。


「さて、そんじゃダンジョン攻略を再開しますか」

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