第84話

「さて、受け入れ態勢も着々と進んでいるのはいいが本職を疎かにするわけにはいかないよな」


ここ最近ダンジョンの運営はタマモを中心に任せていたので管理室に来るのはなんか懐かしい。そう思いつつ部屋に入ると・・・


『ぎゃあああ!助けてくれ!』

『スライムは!スライムはもう嫌だ!』

『だからあの宝は罠だって言ったじゃないか!』

『うっせー!宝箱があったら中身を確認したくなるじゃないか!』


とまあいつものように挑戦者達の阿鼻叫喚の叫び声が聞こえる・・・初見なら拷問部屋と勘違いしそうだ。


「あ、コウキ様いらしていたのですね?」

「タマモ悪いなダンジョン運営を任せてしまって」

「いえいえこれも仕事ですし・・・愚か者達が泣き叫ぶ姿を見るのは楽しいですから」


・・・タマモ、もう少し別の事に楽しさを見出そうよ。やっぱり娯楽で息抜きは必要だな。


「ダンジョンに異変とか無いね?」

「はいギミックなどは全て正常に稼働しています。報告するとしたら気になる人達が4日前から挑んでいるくらいですね」

「気になる人?」


タマモが指を指したモニターの先には10人くらいの集団が順調にダンジョン攻略をしていた。


「現在7階層を攻略中。いままでの中では最高到達記録ですね」


7階層まで到達か・・・とうとうここまで来たか。


「これまでの戦闘でもこれと言った被害を出さずに進んでいます。もちろん私が指示を出していれば何人か脱落させられますが」


言い訳みたいにタマモが言うが彼女にはあまり指揮に集中しないように言っている。マジでタマモが指揮取ったら誰も上の階へ行けなそうだし。


「特に強いのが先頭を歩いている男です」


タマモが指を指した先には褐色肌に白髪短髪の男性。随分と鍛えているようで筋肉質なのがよく分かる・・・なんというかスポーツ選手みたいなイケメンって感じだ。


「戦闘は殆ど彼が行っておりそれ以外が回収、または周辺調査などをしています」


「どこの国の挑戦者か分かるか?」

「はい、全員の服にテオプアの紋章があるのを確認しました。おそらくテオプアからの挑戦者です」


そう言えば才がテオプアからもダンジョンに調査を向かわせるとか言っていたな。それじゃあアレがそうなのかな?確かによく見ると年配の人も何人か混ざっており明らかに戦う服装はしていなかった。


「戦闘は彼だけ?」

「四名ほど戦闘に参加していましたが殆ど彼一人で対処しています。参加していない残りは周辺の調査や採掘などしていました」


戦闘と調査の半々か。調査隊の護衛と考えるのが自然だがそれにしては戦闘参加の人数が少なくないか?


「それと彼らに追随して数十人の挑戦者達も上の階へ来ていますがどうしましょう」


まさかの寄生プレイヤーか。

あまり好きな攻略法じゃないがこれも手段の一つだな。

ドロップアイテムとかは手に入れられていないようだし仕方ないか。


「後ろの連中とかの邪魔もしないように。ようやくグラムへ挑戦する可能性が出てきたんだ。このまま見守ろうじゃないか」

「了解しました」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「よし!戦闘終了!」


ダンジョンモンスターとの戦闘を終えて一息つく青年、ヒュウ・ガカロは辺りを見渡す。戦利品の槍や宝石を手に取るとニヤリと笑いながら眺めた。


「いや~いいねダンジョン。未開の地への探求と迫ってくる魔物達。倒すと報酬と言わんばかりに武器や宝石を落とす。女神エイミィはどういう理由でこんな仕組みを作ったのだろうな」

「ヒュウ、あまり浮かれないで。明らかに上の階層へ行くごとに相手が手ごわくなっているわ」

「へいへい分かったよケイト。それでこのダンジョンの事は分かったか?」


ヒュウは軽口を叩きながらこそこそと魔法具を使って周囲を見渡す女性、ケイトを見る。


「倒した魔物が消えるのを見る限り魔力溜りから生み出されるタイプの魔物だと思うけどあんな綺麗な消え方はしないわ。おそらくダンジョン特有の法則で出たり消えたりするのだと思う」

「なるほどね・・・それじゃこの戦利品は?」

「それについては理解できないわ。倒した魔物の所持品が残ったって言いたいけど明らかに持っているのがおかしい宝石類とか説明が出来ないわ」

「だよな・・・女神エイミィはどういう意図でこんな仕組みにしたのやら。どう考えてもゲームだろ・・・」


ヒュウは小言で口に出しケイトの後ろで調査している集団を見た。


「やれやれ護衛じゃなければもっと先に進みたいんだがな」

「仕方ないでしょ、それが国からの依頼なんだし。あなたの仕事でしょ??」

「つーか何で研究所に籠っているであるお前まで付いて来るんだよ・・・才からなんか設計図を貰っていなかったか?」

「それよ!私がここに来た理由!サイから出所を聞いてアレを設計した人物に文句言いたいのよ!」


不機嫌そうな顔をした後ケイトは一枚の紙を取り出す。

それは彼女達の仲間、地天才があるルートから貰ったギルドカード発行用の魔法具の改善設計図である。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数週間前


宮廷魔導士長であるケイトの一日は大半を研究所で過ごしている。

理由は彼女の趣味で『魔法具の研究』の為である。


数年前までは一人の魔法具研究家であったが、地天才と出会った事で彼女の人生は大きく変わる。才の提案で様々な魔法具を生み出した彼女は国に大きな貢献を果たし、宮廷魔導士長という地位にまで就いたのだった。


魔法具への探求心だけならテオプア随一とでも言える彼女。そんな彼女の下にある一枚の設計図が届いた。


「ねぇサイ・・・これ何?」

「ああ、ジェコネソで会った例のダンジョンの関係者から貰ったやつだ。ケイトが開発したギルドカード発行魔法具の改善点をまとめた設計図らしい」


ケイトは手を震わせながら広げた設計図を見る。

それは彼女にとって今まで考えもつかなかった設計方法かつ効率的な仕組み。

『目から鱗』とでも表現したくなるくらい彼女にとってこの設計図は画期的な物だった。


そして同時に敗北という言葉が彼女の頭に直撃したのだった。


「そのダンジョン関係者は今どこに?」

「んー、今頃ダンジョンに戻っていると思うが・・・ってケイト?何荷物を纏めているんだ?」

「確かヒュウがダンジョン調査隊の護衛に行ったのよね。私も行ってくるわ」

「ちょっと待て!お前研究はどうするんだ?」

「戻ったらやるわ・・・そういう事だから姫様にはしばらく出かけてくると伝えておいてね!」


そう言い残しケイトはダッシュで城を出ていく。

だが、ここで彼女は痛恨のミスをする。


彼女が探し求める人物、ゾアは確かにダンジョンにいる。

だがどうやってそのゾアに会うのかまでは考えが及んでいなかった。


もし彼女が落ち着いて才の話を聞いて会いたいとお願いすればジェコネソで会うという方法が取れただろう。


だが彼女はダンジョン調査隊へ合流したことでと会うには地下22階層まで進む必要となるのだった。


「・・・やらやれ、というか夜会に光輝と会えるんだからその時まで待てばいいのに」


才の小言は空しくも誰もいない研究所に響くだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る