第83話

「グラムの建設にリンドの警察、あと重要となりそうなのは・・・」


そう口に出しつつ目的の場所、研究所エリアにある一つの白い建物に入る。


「ミーシャいるか?」

「コウキ様・・・あ、失礼します」


俺が来た事に気付くとすぐに俺を結界で囲み【清浄魔法】をかける・・・相変わらず徹底しているな。


「研究の途中だったか、悪いな」

「いえいえ・・・それで何か御用でしょうか?」

「ああ、住民の受け入れでかなり人が増えるだろ?だから居住エリアに『診療所』を建てようと思っているんだ」

「『診療所』ですか・・・確かに住民が増えれば必要になりますし、効率を考えたらそういう医療施設で患者を分散させるのはいいねですね」

「それでミーシャの教え子達に仕事として診療所に勤務して欲しいんだ」


現在ミーシャは何人か医療技術を教えている。回復魔法から解剖手術などファンタジー世界には意外な医学的技法など・・・正直どこでそんな知識を身に着けたのかと疑問に思う程。


「なるほど・・・しかし少し悩みますね」

「悩む?もしかしてまだ任せられる人はいないのか?別に今すぐというわけじゃないぞ」


医療ともなれば失敗は許されない・・・しっかりと知識と技術を身につけてから働かせるべきだ。


「いえ・・・極端なことを言ってしまえば医者は殆ど必要ないんですよね」

「・・・どういうこと?」


俺が問うとミーシャは奥の棚に置かれていた一つの瓶を取り出した。


「実はこの前『エリクサー』の開発に成功しましてゾアの協力の下、量産も可能であることが判明しました」


エリクサーってどんな瀕死な状態でもたちまち治すという万能薬だよな?ゲームによっては不老不死になるとか・・・


「流石に不老不死とまではいきませんが部位欠損なども元の状態に出来る代物です」


おいおい医療部隊さん・・・なんかとんでもない物生み出していないか?


「正直9割近くの患者はこれで治せます」

「だろうね・・・残りの一割は?」

「人によっては回復薬が効きにくい体質の人もいたりしますのでそういう人相手は専用の薬か手術をしなければなりませんね」


まさに万能薬・・・患者の殆どをこれで事足りるわけか。

だが・・・ミーシャの顔は少し暗い。


「ミーシャはこれをあまり使いたくないようだな」

「ええ・・・自分で生み出しといてなんですが、これに頼りきる事はあまり良い未来を生まないような気がします。結果的に私が担当する医療部門はあまり必要なくなりますから」


万能すぎるのも悩みどころだな・・・


「必要な時は必ずあるだろうから作っても良いが数は制限しておこう。俺としては以前ゾアが使った治癒包帯みたいな便利品があれば十分だと思う」

「了解しました。では診断できる人材を確保しておきます。診療所に置いておく薬の種類もある程度揃えておきます」

「ありがとう・・・それと問題が起きたら報告を頼む。正直な所、ミーシャの医療部門が動くようなことが無いのが良いんだけどね」

「あら?私達から仕事を奪うのですか?・・・同感ですけど」


クスクスと笑いしばらく計画を詰めた後、彼女に見送られて出ていく。

ちなみに彼女が開発したエリクサーは俺に押し付けられた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ったくミーシャの奴とんでもない物作りやがったな・・・フロアボス達の中では一番まともだと思っていたがやはりフロアボスは全員規格外だな」


貰ったエリクサーを眺めつつ居住エリアを歩いていると何やら綺麗な音色が聞こえる。


「これはハープかな?」


弦楽器特有の爪弾く音を辿りついた先は居住エリアで建てられた大型の食堂。

たしかショーとか出来るようにステージを作ったんだっけ。


食堂に入るとそこには多くの住民達が集まっており、ステージの方を見るとガウスが演奏をしていた。そして彼の演奏に合わせるようにステージ上でアルラが踊っていた。そして彼女の後ろでは下位精霊達が楽しそうに宙で待っている。精霊の光のおかげなのかステージライトのような感じでただの木製ステージが随分と華やかになっていた。


ガウスが演奏していたのも驚きだったがアルラの踊りはもっと驚かされた。もしかしてこっそり練習していたのか?そう思うくらいアルラの踊りは素晴らしく、ガウスが音で表現したいものを彼女が踊りで体現していく。


俺も他の住民同様彼女の踊りに釘付けとなり、気が付けば演奏が終わる。そしてアルラは応えるかのように笑顔でお辞儀をすると全員が拍手して歓声をあげる。


「あれ?光輝様じゃないですか」


アルラが俺に気付き名前を呼ぶと他の住民達もようやく俺の存在に気付いたのか一斉に跪いく。いや止めてくれ主役はあっちだから!


とりあえず俺は全員に頭を上げさせ、食事を楽しむように伝えると全員途中だった食事を再開させた。


「アルラとガウスはここで演奏をしていたのか?全然気づかなかった」

「ははは、お恥ずかしい。ここでしっかりと自信をつけてからお披露目したかったのですが」


ガウスは照れくさそうに言うが正直ガウスの演奏はとても良かった。


「ガウスは元々演奏とかできたのか」

「はい・・・父が教えてくれた故郷の曲です」


ガウスの父って事はエルフの国の曲か・・・エルフにハープ。

うん、定番な組み合わせだな。


「アルラとも一緒にやっていたのか?」

「いえアルラちゃんは今日たまたまの飛び入り参加でステージで踊っていたのですが、いやはや素晴らしい踊りでした・・・精霊様達も凄く楽しんでいらっしゃいました」

「いえ・・・ガウスさんの演奏が良かったからです。私もとても楽しかったです」


その後時々ガウス以外にも楽器を持ち込んで食堂で演奏会が開かれるようになったのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「意外な発見だったがやっぱり娯楽は必要だよな」


俺は島の北の部分・・・つまりまだ手を付けていない『娯楽エリア』を見渡す。

まだ何も手を付けていない広大な土地。


実現させようと思えば多分出来る。

最近は忙しくてやっていないが空いた時間にコツコツと設計していた


「ここもいつか完成させたいな」


未来の光景をイメージしやる気を出した俺は作業部屋へと向かったのだった。

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