第33話

「我が名は『マスク・オブ・オリジン』!この『オリジンダンジョン』の安寧を望む者!」


管理室でエドの宣言を聞いていた俺は蘇る黒歴史を必死に抑え込んでいた。あのポーズ・・・MMORPGで使っていたのとまんま同じであった。


原初の魔術師・エドワード・・・その人物は俺がかつてMMORPGで使用していたアバターを元にデザインした人物。人間でありながら膨大な魔力を持ち、あらゆる魔法、武器を駆使して戦う


問:ダンジョンの守護者のデザインを自分のアバターにした理由は?

答:かっこいいと思ったから


問:原初の魔術師という二つ名を付けた理由は?

答:かっこいいと思ったから


問:あえてラスボスにせずラスボスの前のボスにした理由は?

答:かっこいいと思ったから


問:今でもエドワードのデザインはかっこいいと思っていますか?

答:はい、かっこいいと思っています


『さぁ!貴様らの記憶に後悔という名の恐怖を刻んでやろう!』


やめろ!そのセリフを皆に聞かせるな!絶賛俺の記憶に後悔という名の羞恥が刻まれているから!何故言動が当時遊んでいたロールプレイのままなんだよ!


俺は必死にあふれ出す感情を内にしまい込みエドの行動を見守った・・・正直とっととそいつらを倒して戻ってこいと言いたい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1階層


「マスク・オブ・オリジンだ?ふざけんじゃねぇ!」

「魔法が使えないからなんだ!お前らやっちまうぞ!」

「「「応!」」」


兵士達は一斉にマスク・オブ・オリジンに襲い掛かるも、当の本人は呆れていた。


「やれやれ、完全にチンピラに成り下がったな。いやチンピラでも学習はするか、我は2度も同じことを言ったのに。3度目だ『この辺りはすでに我の支配下』だ」


マスク・オブ・オリジンが手を向けると兵士達の動きは一斉に止まる。


「身体が動かない」

「うぁ!体が石に!」

「再現魔法【メデューサの瞳】」


マスク越しで顔は見えていないが現在マスク・オブ・オリジンの瞳はまるで蛇のように変わっており彼が認識した人物に対して石化状態にすることが出来る。


再現魔法・・・それはエドワードが認識した魔法を行使する、いわゆるコピー魔法である。この魔法の大きな特徴はコピーできるのが魔法だけでなく【スキル】や特性も対象になっている事。挑戦者が使用する【スキル】や魔法をコピーして翻弄するのが原初の魔術師・エドワードのの戦闘スタイル。そしてこの魔法の最大の利点は覚えた魔法や【スキル】に上限が無いということ。


つまりエドワードは戦えば戦うほど技の範囲が広がる。ある意味ラスボスよりも厄介な存在でもある。そして今回使用した【メデューサの瞳】も彼が担当フロア確認時に習得したものである。


兵士達の顔以外の箇所が石化したのを確認した後、【メデューサの瞳】を止めてゆっくりと奴隷達の方へ歩いて行った。


「まずはその邪魔な首輪からだな【強奪スチール】」


マスク・オブ・オリジンがそう唱えると奴隷たちの首輪が一瞬で彼の手元に集まった。


「これでお前達は自由だ・・・ついでに【完全回復パーフェクトヒール】」

「傷が!あ、ありがとうございます!」

「凄い火傷の後まで!痛みがなくなった!」

「うぉお!持病の腰痛まで無くなったぞ!」


マスク・オブ・オリジンの回復魔法で傷口や汚れが、痛みなどが消えていくのを確認した奴隷たちは次々とお礼を述べていく。


「さて、提案だが我の隠れ家に来てもらえないだろうか。君たちの事情を聴きたい。むろん強制はしないし、願うのであればダンジョンの入り口まで送ろう」


マスク・オブ・オリジンの口調はさっきまで兵士達に対する威圧的とは打って変わって落ち着いた口調で奴隷たちに提案をする。


むろん彼らにとって選択するのは前者である。


「もちろん貴方様についていきます!」

「うむ、では参るか」

「っちょっと待て!俺達はこのままか!というか勝手に奴隷を連れていくとかどういうつもりだ!」

「そうだ、忘れ物だ」


マスク・オブ・オリジンは手に持っていた奴隷の首輪を兵士達に取り付ける。


「このダンジョンでは装備品は身につけていれば死んでも一緒に戻る・・・責任持って持ち帰りな【アクアレーザー】」

「な!ちょ!」


兵士達が叫びきる前にマスク・オブ・オリジンの魔法によって頭を貫かれ、そのまま入口へ送還された。


「では行こう、我らの楽園へ」


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管理室


「流石エドワード様ですね・・・見事な救出劇でした」

「しっかりと恐怖を刷り込ませることも出来ている・・・ある意味効果的ですね」


管理室ではエドの活躍に称賛している声で盛り上がっているが俺は内心色んな感情を押し殺すのにいっぱいいっぱいだった。どうやらエドの言動に冷ややかな目を送られるという最悪なシナリオは回避できた。


「とりあえず保護した人達は地下33階層に集めているみたいだな・・・ところでゾア、封印具の方はどうなった?」

「抜かりなく、そちらもちゃんとやっとるで・・・封印されている精霊達もすぐに解放できるで。ただエイミィ様の準備が整ってからの方が良いと思いますんでまだ解放はしていません」


そういえばエイミィの準備があったな。なら封印具はゾアに任せて先にエドワードの方に向かうとするか。


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地下33階


地下33階は簡単に言えば超巨大な図書館である。壁は全て本棚であり一つ一つが飾りではなくちゃんと読める本が収納されている。ステージの設定を作る時に『世界中の本が集められる』と設定したせいか現在もいたるところに設置されている魔法陣から本が送り込まれ妖精達がせっせと本を本棚に収納している。


本来であればこの妖精達もギミックの一部だったのだがダンジョンモンスター同様生きており、普通に喋ってきたり食事もする。ちなみに好物は甘い物。


「エド、お疲れ様」

「コウキ様、我の活躍を見ていただけだでしょうか?」

「お、おう流石だな。管理室の皆も驚いていたぞ」


かつて自分が使っていたアバター似ということもあり、どう褒めていいのか分からないがとりあえず凄かったという事は伝えた。


「それで救助した人達は?」

「よほど疲れていたのでしょう、安心したら全員眠ってしまいました」


エドに案内された先には6人の元奴隷達はスヤスヤと眠っていた。


「これは食事の準備をした方が良いかな・・・メリアスに頼んで栄養価の高い食事を『光輝今どこにいる?』・・・エイミィ?今地下33階層で保護した人達の様子を見に」


『そう、精霊の環境作りは整ったので封印具を地下45階層の大樹の前に持ってきてくれる?精霊達を解放するわ』


どうやらエイミィの方の準備は整ったみたいだ。

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