第32話

フロアボス、それは女神エイミィを守る8人の守護者達。ユニークモンスターを含めすべてのダンジョンモンスターよりも隔絶した強さを持つ存在。


そんなフロアボスの一人、原初の魔術師・エドワードが数名の兵士から装備を奪い、奴隷たちを救助することに名乗り出た。


「集合!」


俺はそう言ってエドワード以外のメンバーを集める。


「なぁ、エドが出た場合どうなると思う?」

「エドワードの様子からして相当怒っているはずね、やる気も満ちているみたいだし」

「『やる気』というか『殺る気』だと思います・・・まあ死なないんですけど」

「ホーンラビット相手にリーガル・レオを向かわせるようなものですよ」

「正直ダンジョンに被害が出ないかの方が心配ですね・・・近くのダンジョンモンスター達を避難させた方がいいわね」

「だよな、コンビニ強盗相手に特殊部隊100人と戦車10両を送りつけるようなもんか」

「こんびに?というのは何か分かりませんが過剰戦力でしょうね」


とまあエドがいく事に不安を見せる全員であるが、その会話に参加せずに何かごそごそと物を用意している人物がいた。


ゾア君?君は今何をしているのかね?


「エドワードはん、自分の気持ちはよぉ分かるで。せやけどワイらはフロアボス、まだ正体を知られてはいけないんやで」


お!ゾアがエドワードを止めに入るとは予想外だったがこれは良い援護射撃だ。

皆もゾアに賛同するようにうなずいている。


「ゾアの言う通りだ。ここは俺のスライム達に『せやから、これを使うとええで!』・・は?」


俺の話を遮りゾアは皆に見えるように一枚の仮面を見せびらかす。なんというか某ヒーローの頭部っぽい感じのフルフェイスタイプの仮面だ。


「ゾア、これは?」

「ふふふ、ええやろこれはワイトと一緒に開発したやつでしてね、認識疎外や音声変換、暗視機能、視覚サポートなんかが搭載されておるんや!これなら目の前に現れても誰か分からんはずや」


ゾアは自信満々に説明するが認識疎外がどんなものなのかはよく分からない。まあ音声変換や暗視機能とかはかなり高性能なのは分かるし、正直俺がそれ欲しいっと思ってしまった。


俺とエイミィに加え、管理部門メンバーも言葉が出なかった。


「なるほどゾア、礼を言う。なら我は遠慮なく愚か者共を相手をしよう」

「ほなダンジョンを壊さない程度に頑張り~」


ゾアのサムズアップで見送られエドワードはそのまま1階層へ向かい。彼が出て行った後に俺は無言でツッコミ君でゾアを叩く。援護射撃じゃなくてフレンドリーファイアだった。


はぁ、もう好きにしろ!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1階層


「ったく、なんで俺達の部隊はこんな奴らと一緒なんだよ」

「別にいいだろ?荷物持ちがいた方が楽じゃないか。それにいざとなれば囮にできる」

「他の部隊は順調だろうか?早くこの武器を試したいぜ」


意気揚々と話している兵士達に対し後ろで荷物を持っている奴隷達は無言のままただ歩いていた。


「それにしても女神エイミィが自衛のためにこんな場所を作るとは・・・神の力ってのは本当みたいだな」

「バーカ、女神エイミィの力は『創造の力』、俺達が普段使っている【スキル】なんかも全部女神エイミィの能力なんだよ・・・ここのいるモンスター達だって厳密に言えば女神エイミィの力で誕生した奴らさ」

「つまり女神エイミィの力を独占できればどの国にも負けない国力を手に入れられるわけか・・・いいね、奴隷の種類とか増やしたいし早く手に入れちまおうぜ『あの・・・そろそろ休憩しませんか?』・・あ?」


兵士達が振り向くと一人の奴隷が息を切らせて発言していた。


「お前、ふざけているのか?まだダンジョンに入ったばかりだぞ?」

「お願いです、せめて子供たちに水をお与えください!ルヌプからここまで来るのに殆ど飲み物をもらっていません!」

「しつこい!てめえらは奴隷だ!奴隷なら奴隷らしく俺たちの荷物運びをしてろ!」


兵士が怒鳴ると手に持っていた杖で奴隷たちに向ける。


「どうせデータを取るならモンスターよりもこっちの方が良いかもな!」

「ひぃ!す、すみません!」

「それとも首についている魔法具で爆破してやろうか?どうせ死んでも入口に戻るわけだし」

「馬鹿それだと誰かが一緒に入口に行かないといけないだろ?それは囮にも使えるんだふざけていないで行く・・・お前ら武器を構えろ!」


先頭の兵士が全員に指示を出すとすぐさま他の兵士達も武器を構えた。


「・・・何者だ!」

「我はこのダンジョンの秩序を守る者。そして我らの至宝を狙う愚者に鉄槌を下す者」


兵士達の前に現れた黒いローブに黒いフルフェイスヘルムで顔を隠した男。これ以上ないくらい怪しさを醸し出していた。


「秩序だ?!うなもん、このダンジョンにあるかよ!食らいやがれ!」


兵士の一人が杖を向けて魔法を放とうとするがそれは空しくも不発に終わる。


「っは?!なんで?失敗作?!」

「俺のもだ!どうなっていやがる?」


何が起きているのか理解出ていない様子の兵士達、そして次の瞬間まるで金縛りにでもあったかのように身動きが取れなくなる。


「結界を張ったこの領域はすでに我の支配下・・・【強奪スチール】」


仮面の男が手を伸ばすと地面に次々と武器が現れる。


「あれって、俺の!いつの間に!」

「武器が無ければ貴様らはゴブリン以下・・・奴隷を置いて逃げるなら見逃してもいいが?」

「っち!そんなに奴隷が欲しけりゃくれてやる!」


兵士がそう叫ぶと子供の奴隷の腕を掴み仮面の男の方へ突き飛ばす、そしてすぐさま水晶を取り出した!


「奴隷もろともくたばれ!」


しかし兵士の叫びは迷宮内を響かせるだけで何も起きなかった。


「言っただろ、この辺りはすでに我の支配下だと」

「っち!こいつやべぇぞ!貴様!いったい何者だ!名乗れ!」


兵士の問いに仮面の男はッバっとローブを羽ばたかせ右手を掲げる。


「我が名は『マスク・オブ・オリジン』!この『オリジンダンジョン』の安寧を望む者!さぁ!貴様らの記憶に後悔という名の恐怖を刻んでやろう!」


地下33階層の守護者、『原初の魔術師・エドワード』改め、『マスク・オブ・オリジン』はそう高らかに名乗ったのだった。

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