第31話
1階層
「よし戦利品は回収したな?今の火力はしっかりとデータに記録しておけ。今回はこの武器の試運転を兼ねているのだからな」
「「「っは!」」」
指揮官らしき男が部下たちに指示を出すと不敵な笑みで自分が握っている杖を見た。
「以前はあんなに苦労したゴブリン達を一撃で・・・軍事部門も素晴らしいものを開発してくれたものだ」
「そうですね。ですが回数制限があるのは問題です。あと4発ほど放ては封印した精霊ごと砕け散ります」
「まあ砕けたら砕けたでそれも貴重なデータになる」
隊長とその部下がそんなやり取りをして回収班の部下達がいた場所へ目を向けるとそこには倒れている兵士達の姿が映った。
「な!奇襲か?一体どこから」
「隊長!何か霧みたいなものが上から!」
「上だと?!・・・しまっ!」
隊長と部下は上に顔を向けるとそこには複数のスライムが天井に張り付き霧状のものを撒き散らしていた。すぐに杖を向けようとするが2人の意識はすぐに途絶えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「いよーっし!作戦成功!」
モニターから観戦していた俺はガッツポーズを決め、後ろでは皆が歓声を上げていた。
「流石です光輝様、スライムをあのように使われるとは」
「スライム達の【調合スキル】がまさかこんな形で役に立つとは思わなかったが」
作戦はかなり単純で俺はスライム達の【調合スキル】を使って天井の上から睡眠薬をばら撒かせた。以前ミーシャに【調合スキル】が使えるスライムの話をしたら色々と実験に必要と言われて何体か貸したのだ。そのおかげか貸したスライム達は【調合スキル】が上がって上級の毒薬や眠り薬の制作が可能になっていた。
またスライムはどこでも移動可能の為、天井を移動して奇襲も可能なのだ。相手はドロップアイテムに夢中になっていた。奇襲するには絶好のタイミングだった。
そして作戦は見事成功し、兵士達はなす術もなく眠りについた。
「なぁこの兵士達はどうする?」
「眠っている相手にトドメを刺すのアレなので、とりあえずそれぞれナイフ一本だけ残しておきましょう。後は彼ら次第という事で」
タマモはそんな眠ったまま退場させるよりも過酷な提案を出しゴブリン達に追い剥ぎ、もとい装備の回収を行わせ、パンツ一丁姿にした後に数本のナイフだけ置いて撤退させた。
このダンジョンでパンツ一丁ナイフ一本ってどんな変態プレイだよ・・・色んな意味で。無論、あの装備が無い彼らがこの後どうなったのかは言うまでもない。
その後、フライにはルヌプの兵士が他に来ていないかを確認してもらう。広いダンジョンと言えどフライにかかれば大量のモニターを駆使してルヌプ兵を発見するのはそう難しくなかった。数分でダンジョン中にいるルヌプ兵たちを見つけ出し俺はスライム達に同じ手口で回収させた。
「無事に回収できてよかった」
アルラは大量に積まれた装備を見て安堵していた。多分この中で一番精霊の事を心配していたのは彼女だろう。
「それでこの魔法具はどうやれば精霊を解放できるんだ?」
「それは専門家に任せましょう。ゾア、エドワード管理室に来てもらえるかしら?」
エイミィがゾアとエドワードに連絡を入れると10秒もしない内に管理室にやって来た。
「エイミィ様、何かあったのでしょうか?」
「ワイらに要件という事は魔法道具関連でしょうか?」
「ええ・・・実はこの封印具に囚われた精霊達を解放して欲しいのです」
2人はエイミィの視線の先にある装備品の山を見ると二人はすぐに頷き、封印具を調べ始めた。
「精霊を捕らえる封印具か。こりゃ随分と効率の悪い粗悪品やな」
「ゾア分かるのか」
「ええコウキさん、魔法具には必ず刻印魔法が施されておるんです。刻印の線一本一本に意味がありそれを組み合わせ、魔力を流すことではじめて魔法が発動する仕組みなんです・・・そんでこの封印具に施されている刻印は『捕獲』と『出力』しか無いんです」
「本来精霊は大気中にある魔力を吸い取れば回復できますがこの封印具がその吸収をできなくしてしまっている・・・つまり精霊達は回復できないまま封印具から強制的に魔法を発動させられる仕組みなのです・・・実に気分を悪くする道具だ」
ゾアとエドワードはそんな風に評価した。エドワードは精霊に対する扱いに苛立っており、ゾアは封印具の性能に不満気だった。
「それで、精霊は解放できるのか?」
「ええ、刻印魔法の『捕獲』の箇所を使えなくしてしまえば解放できます。ただこの封印具、作った人物が複数いるみたいで刻印の形が結構バラバラなんですよ・・・全部となるとちと時間はかかりますがええですか?」
刻印魔法にも製作者のクセみたいなものはあるらしく機能上は問題なく作動するが形や形式などは若干違いがあるみたいだ。
俺もデータの引継ぎとかで色んな人が手を加えたデータを見た時はデバッグに苦労したっけな。データの入れ方が違うせいで不具合の原因のようで原因じゃなかったり、確認が面倒だった。
「ああ頼む、精霊の安全が第一だ」
「了解や!エドワードはん人命救助・・やなくて精霊救助っといきますか」
そしして二人は黙々と作業を進めその間、エイミィ達は精霊達が元気になれる環境づくりをすると言って出て行った。環境づくりとはどういう意味か分からないが精霊が元気になるように動いてくれているみたいだ。
「コウキ様、ルヌプの兵士がまたやってきました・・・ただ今度は少し違うみたいで」
フライの報告を聞きすぐに彼が指を指したモニターを見ると確かにルヌプ兵が映っていたがその他にもボロボロの服を着た男女も一緒にいた、中には10歳くらいの子供までいる。明らかにダンジョンに挑む装備ではない・・・さっきのナイフにパンツ一丁集団はノーカンだ
「これってアレかな・・・奴隷ってやつ?」
「だと思います荷物持ちでしょうか?」
確かに荷物持ちがいればダンジョンの侵攻は楽になるだろうけど。
「なんや、コウキさんどないしたんです?」
「コレがあの装備を持っていた国の兵士か?奴隷まで連れてるとは実に腹正しい」
小休憩と言わんばかりにゾアとエドワードが話に割って入ってきた。
「ああ、今回もスライムで奇襲をして回収をするよ」
「コウキ様、奴隷はいかがなさいますか?」
エドワードの言葉に俺は悩んだ。
正直助けたい・・・だが奴隷を助けた場合このダンジョンの秘密を知られることになるのはリスクだ。ここで助けた後どう対応するかも決まっていないし、奴隷がいなくなった事でルヌプがどう動くかも分からない。何よりエイミィの危機となるリスクはなるべく避けたい。
俺は無言のまましばらく考えるも答えが浮かび上がらなかった。
「光輝の好きなようにしなさい」
まるでお告げのように響く言葉に俺は顔をあげた。そこにはエイミィが真直ぐ俺を見ていた。
「エイミィ戻っていたのか・・・いや、それよりいいのか?」
「構わないわ・・・あなたが私を守ってくれるのでしょ?」
エイミィが自信満々に言うと頭の中の靄が晴れたかのような気分になる。さっきまで悩んでいたのがアホらしく思えるくらいハッキリとした答えが出ていた。
「分かったなら遠慮なく助けるよ・・・ついでにルヌプ兵にもお灸をすえてやりますか」
俺がそう告げるとエイミィは満足そうに笑っていた。
「コウキ様・・・では装備の回収及び奴隷の救助は我にお任せください!」
「「「・・・え?」」」
自信満々なエドワードの名乗りに管理室にいた全員がそろってそんなアホそうな声を出してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます