ルヌプ侵攻編
第30話
ダンジョンの管理室は俺が特別に用意した新たな部屋でこれは地下44階層に設置している。俺の許可が無いと入れない仕組みになっており、ダンジョンの住民が勝手に入らないためのセキュリティも兼ねている。
部屋の内部は結構俺の趣味にしてありどこかの秘密基地の管制室風になっている。ゾアにはあれだけ偉そうな事を言ってしまったがダンジョンの管理のためここにある設備は全部俺が用意した。
この部屋には大量のモニターが配置されておりそれぞれが防犯カメラのように冒険者やダンジョンモンスターの動きを把握できるようになっている。
「デューオ、現状は問題ないか」
「コウキ様、今のところダンジョンに異変はありません」
俺が声を掛けるとデューオは一礼して報告してくれる。デューオは俺の世話役兼、護衛役兼、ダンジョン管理部門の一員として働いてくれている。正直多忙すぎじゃないかと言ったのだが『これが自分の仕事ですから』とキッパリと言われエイミィからも信頼できるからと言ったため管理部門でも働いてもらう事になった。
そしてこの管理部門にはデューオ以外に2人が働いている。ダンジョンに住民が増えたことで俺はダンジョン管理の人手を増やすことにした。正直最初はダンジョンの根幹に関わるものの為下手な人材は入れない方針だったが、俺の負担を考えてくれたエイミィ達が厳選な審査を行って2人ほど俺の部下としてダンジョン管理手伝ってくれる事になった。今後は住民の適正を見てさらに増やしていく予定らしい。
「コウキ様3階層のエリアCとGが今誰もいませんので隔離するなら今が良いかと思います」
「ああ、分かったありがとうフライ。グラムたちに鉱石の採掘可能だって伝えておくよ」
大量のモニターを見ながら俺に伝えてくれたのが蟲人族・蜻蛉種の青年フライだ。一見すると普通の人間と変わらないが蟲人族特有の複眼と蜻蛉の羽を背中に生やしてる。彼はその目を使ってモニター一つ一つ見て情報を集めてくれている。
元々はスピリット・ドラゴンフライと呼ばれる蜻蛉型の魔物だ。最速の魔物とも呼ばれており、その動体視力と思考処理能力はずば抜けている。ダンジョンの管理でもその眼と頭脳を活用して大いに貢献してくれている。意外なことに彼はメリアスが担当するフロアのモンスターで、戦闘力も非常に高い。
そしてもう一人、頭脳でずば抜けているのが・・・
「3班そのまま走って突き当たって右に行きなさい、7班は3班と入れ替わりで挑戦者の部隊を迎撃。4班はエリアHに移動して戦利品の回収。1班は怪我を治した後、2班と交代」
次々とダンジョンモンスター達に指示を出している狐耳に9本の尻尾を持つ女性。妖人族・九尾種のタマモである。彼女もまたずば抜けた頭脳でこの管理部門に配属となった。彼女の凄い所は戦術を考える所で何手も先を読んでダンジョンモンスター達に指示を出している。そのおかげでダンジョンモンスター達は飛躍的に生存率が上がりかつ戦利品の回収も効率的に行えるようになった。
「あ、コウキ様いらしていたのですね」
「ああ、相変わらず見事な指示だな。タマモのおかげでダンジョンの被害がかなり減ったよ」
「いえいえ、こんなのまだ序の口です。私が本気を出せばエイミィ様を狙う愚か者は1階層から上がれなくしてみせます」
「いや、それはやりすぎだから」
俺が却下するとタマモはシュンと落ち込み耳は垂れ下がり上がっていた尻尾も力なく下がる。なんというか狐なのに小動物っぽい所があるな。
「まあ世の中ゲスなやつはいるだろうしそういう奴が現れたら容赦なくやってくれ」
「はい!お任せください!」
俺がそう言うとタマモは元気よく返事をしてやる気を出した。
「あの~、コウキ様タマモさん・・・ゲスなやつか分かりませんが、こいつらを見てくれませんか」
そんなやり取りをしているとフライが何か見つけたかのように報告をしてきた。
フライが指を指したモニターには数人の兵士っぽい集団が映し出されていた。
「あの兵士達、以前も1階層で探索していましたね。ゴブリンたちにあっさり負けたのに懲りていなようです」
デューオが呆れながらそう言う。彼はダンジョンに挑む挑戦者のデータを管理してもらっているため挑戦者達の装備や顔を覚えてもらっている。機甲人にとっては記録する事は得意分野らしい。正直羨ましい。
そんな事を思っているとエイミィ、メリアスとアルラが入ってきた。一応彼女たちもこの部屋に入る権利は持っており、俺が多忙の時はエイミィとメリアスがこの管理室の指揮権を持っている。
「光輝何かありましたの?」
「ああ、今ちょっとフライが気になる兵士達を見つけたから確認しようと」
俺は三人にも見えるように例の兵士たちのモニターを大きくする。
「この鎧についている紋章はおそらくルヌプの兵士のようね」
「ルヌプ?」
どこかの国の名前っぽいが聞いたことが無い名前だな
「ルヌプはこのダンジョンがある森に隣接している小国よ・・・ここ数年は色々と怪しい動きをしているらしいわ」
小国ではあるがエイミィは妙にその国を警戒しているみたいだ。ダンジョンに近い国なわけだし身近な脅威とも言えるけど。
「それでフライこの兵士た達がどうしたのですか?」
「見てほしいのはこの兵士達が持っている武器です。コウキ様兵士が持つ武器を拡大できますか?」
俺はフライの言われるままにモニターの一つを兵士が持つ武器にズームインする。すると杖にはやか大き目な宝石っぽいのが取り付けられているのが見えた。
「随分と兵士が持つにしては豪華ですね」
「他の兵士達も皆色は違うけど似たようなのをつけいるわね」
デューオとタマモはそんな感想を述べているが、エイミィとアルラは何かに気付いたようで非常に険しい表情を見せていた。
「光輝今すぐあの武器を回収をして!」
「え?どうして?」
「予想が外れていて欲しいけどあの武器は危険よ!」
「分かった・・・タマモ近くにいるゴブリンたちをあの兵士達に向かわせてくれ」
「了解しました」
俺は言われるままにゴブリン達を兵士達がいる方へ向かわせ、3分もしない内に兵士達と対峙するのだが勝負は一瞬だった。兵士の一人が杖を向けると凄まじい豪炎がゴブリン達を包み込み、残ったのはゴブリンたちのドロップアイテムのみだった。
俺は急いでモニターを確認しゴブリン達が無事に指定されたエリアに転送されているのを確認し胸をなでおろした。
「デューオ本当にあの兵士たちはゴブリン達にあっさりやられた奴らたのか?随分とあっさりとゴブリン達を倒していたみたいだが」
「はい、間違いありません。凄く情けない負けっぷりだったのでよく覚えています」
デューオも驚いた様子だが先ほど言っていた兵士で間違いないそうだ。
「そうなると原因はあの杖か・・・エイミィ、あの杖は何なんだ?随分と焦っていたけど」
「・・・おそらくあれは精霊が封印されている封印具。あんなものを開発していたとは思わなかったわ」
「精霊を封印?精霊使いとは違うのか?」
【テイムスキル】がある訳だし魔物使い以外にも精霊使いとかもいてもおかしくはないが。
「精霊使いは存在するわ。ただそれは精霊と契約することで使役できるもの。あれは精霊を閉じ込めて無理やり精霊の力を出す装置よ。封印されているのはおそらく下級精霊のはず。あんな火力を連続で発動したら消耗して消えてしまうわ」
そう聞くとかなり非人道的なやり方だなと思えるし、エイミィやアルラの表情が険しくなるのも理解できる。
「でもここがダンジョンなら死んだら外に脱出とかできるんじゃ?」
「光輝さん、精霊は魔力生命体、言うなれば意思を持つ魔力です。そしてこのダンジョンは拡散した魔力を吸い取る機能が備わっています」
「あ!」
アルラがそう説明して俺は理解できた。エイミィがわざわざ『消耗して消える』と言ったのも精霊は魔力の塊であるためダンジョンが吸収してしまう・・・つまり本当に死んでしまう訳だ。
「・・・相手にあの武器を使わせずに無力化しつつ武器を回収か・・・あ!いけるかも!」
「本当ですかコウキ様?」
「ああ、まあ上手くいかなかったら次の手を考えよう」
そう言って俺は黒い笑みをしながらモニターを操作した。
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