第10話
ダンジョンにはお宝が手に入る。そんな噂が各国に広まり現在ダンジョンには兵士以外にも少数のグループで挑む人たちが徐々に増えてきた。
「これってやっぱり冒険者って奴かな」
そんな感想を溢しながら俺は作業室でダンジョンの内部を監視していた。ダンジョンの運営を開始してから数日、現状順調と言える。ほぼ毎日どこかしらの国の兵士たちが挑んではダンジョンモンスターにやられたりドロップアイテムを発見したりしている。
ダンジョンの魔力も着々と集まってきており、グラムが担当する10階層までのフロアはもうリポップの制限を解除している。つまりようやく俺が作ったダンジョンの一部を解放できたわけだ。
「光輝、楽しそうだね」
「まあやっと、解放できたわけだしどうたどり着くか見もの・・・」
俺はそう言いかけた瞬間エイミィが置かれている状況を思い出した。
「大丈夫だエイミィは俺たちが守ってやる。いざという時は初見殺し、鬼畜ステージを作っておくからさ」
「そこは心配していないわよ。少なくともこのダンジョンを見る限りは」
エイミィの視線の先には多くの挑戦者たちがモンスターたちに追い回されている姿が映っていた。
「ふふふ、私を狙う王族たちが今頃どう兵士を派遣するか頭を抱えていそうね。いい気味だわ」
エイミィは黒い笑みをしながら笑っていた。この女神、結構根に持つタイプなんじゃないか?そう思っているとモニターが出現しメリアスが映し出された。
『コウキ様、今よろしいでしょうか?』
「メリアスかどうした?」
『コウキ様から頂いた野菜の種が育ちましたのでその報告に』
ちょっと待て?メリアスに種を渡したのは数日前だよな?野菜ってそんなに早く育つもんか?
俺は急いでメリアスがいる地下44階層へ向かった。
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地下44階層
地下44階層のフロアのデザインはかなりシンプルだ。広大な大地に一本の大樹があるだけのフロア。このフロアでラスボスであるメリアスと戦う・・・そのはずだったのだが。
「なんじゃこりゃ!」
広大な大地に一本の天をも貫きそうな巨大な樹があるのは設定どおりだ。だがその周りにはある筈の無い農園が出来上がっていた。
「コウキ様、お待ちしておりました」
「メリアスこの農園はいったい」
「コウキ様から頂いた種を育てたら立派に育ちました」
「立派に育ちすぎだろ!なんだよこの人参!一本2mくらいはあるんじゃないか?」
メリアスに渡した種は普通の種のはずだ。もしかして俺が思っていた野菜って異世界だとこのサイズが基準なのか?ゲームとかだとレア食材とかでこんなやつ見たことがあるけど。
(エイミィ、この世界だとこのサイズが基準なのか?)
(そんなわけないでしょ、明らかに突然変異レベルよ)
メリアスに聞こえないように小言で話す俺とエイミィ。やはりこのサイズは異常なのか。
「メリアス、どうやって育てたんだ?俺が渡した種だとこんなに大きくならないはずだぞ」
「はい、コウキ様から頂いた種ですが私が品種改良を繰り返して育てました」
「品種改良って、そんな時間一体・・・」
そう言いかけて俺はあることを思い出した。確かメリアスには10のチートレベルの能力を持つ最強のフロアボス。その中にたしか『最適化』と『時空魔法』を備えた覚えがあった。
「『最適化』と『時空魔法』を使ったのか!」
「流石コウキ様、ご名答。コウキ様が授けてくださったこの能力。コウキ様のために使わせていただきました」
『最適化』は彼女が振れたもの全ての性能を最高位にまで引き上げる能力。本来は武器の性能を引き上げる能力なのだが、食べ物に使うとこのような変化をもたらすとは思わなかった。
『時空魔法』はその名の通り時間と空間を操作することが出来る魔法。一定範囲の時間をゆっくりにしたり早く進めたり、瞬間移動する魔法として備えた能力。この魔法で野菜の成長を速めたわけか。
「ところで大きいのは良いが味はどうなんだ?」
「はい、そちらも問題ありません。試しに作ったものがこちらで」
そう言ってメリアスの手の先には立派な料理がズラリと並べられていた。野菜のサラダにシチュー、揚げ物でフライドポテトまで用意されていた。
「油も抽出できましたので、ジャガイモを揚げてみました。エイミィ様曰く、フライドポテトというのがとても人気らしいですね」
フライドポテトとかジャンクフード系は俺の大好物だからな。こうして地球での料理を出してもらえると次々と食べたいものが出てきてしまう。
「塩で味付けしましたがこちらも作ってみました」
「ケチャップまで!メリアスお前は万能神か!」
「いえ、ただのフロアボスです」
俺は目の前に置かれている山盛りのフライドポテトを手に取ってケチャップをつけて口に入れる。程よい塩加減のサクサクフライドポテトに酸味のあるケチャップソース、美味くない訳がない!
口いっぱいに広がる味に思わず涙を流しそうになった。異世界に来たら地球の料理は諦めていたから、なおのこと嬉しく感じてしまった。
「メリアス、美味いよ!メッチャフライドポテトだよ!」
「ふふふ、そう言ってもらえると作った甲斐があります。オレンジジュースも用意していますのでどうぞ」
脂っこい料理にさっぱりとしたオレンジジュースもまた格別である。欲を言えばコーラが飲みたいがメリアスに頼めばいつか作ってくれそうだ。そうなると温泉と一緒に炭酸が湧き出る泉とか作るのもアリだな。
その後もメリアスの料理を堪能し俺は至福な思いに浸っていた。メリアスが育てた野菜はどれも問題なし、むしろ地球で食べていた野菜よりも美味しく感じた。隣にいたエイミィも平然を装って食事をしていたが時々足を大きく揺らして美味しい気持ちを抑えているのを俺は見逃さなかった。
「メリアス、本当に美味しかったよ。これからも食材の栽培と研究を頼むよ。俺たちだけでなくフロアボス、ダンジョンモンスター達も飢えさせてはならないからな」
「かしこまりました。ダンジョンの食料管理は私にお任せください」
「そういえば、今回料理に使わなかった食材とかもあるのか?」
「はい、さすがにアレをコウキ様達にお出しするのはどうかと思いまして」
「「アレ?」」
俺とエイミィがそろってお互いの顔を見ると何か嫌な予感がしてきた。
メリアスがモニターを操作して出したのは山積みとなった大量の植物型の魔物。見た目は巨大な野菜に狂暴そうな顔が付いたようなものだった。
「実は植物に大量の魔力を注ぎ込みすぎると魔物化する現象が起こるようで、コレはその結果です。魔核はすでに取り除いていますのでこのまま食べることは可能です。」
「メリアス!まさかそれ食ったのか?!」
「はい、味も普通の野菜と大して変わりませんし、むしろ美味な方です。流石に私一人では食べきれませんからダンジョンモンスターたちにおすそ分けしましたが。皆美味しそうに食べていましたよ」
おいおい、ダンジョンモンスターたちにコレ食わせたのかよ。食中毒とか状態異常起こしていないだろうな?
「メリアス、頼むから植物系の魔物の料理は出さないでくれよ」
「はい分かりました」
こうしてダンジョンの食料問題は解決したが、新たにメリアスによって何かやらかさないか心配の種が増えてしまった。
頼むからこの種は立派に育てないでくれよ。
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