第9話
さて皆から食材を納めてくれたのはありがたいがここで問題が発生した。
「誰が料理するんだ?」
俺がふとそんな事を言うとメリアス以外のフロアボスたちは一斉に目を逸らした。ちなみに隣にいるエイミィも視線を逸らしている。
「料理でしたら私にお任せください」
「メリアスか・・・それじゃお願いしようか」
メリアスは余裕の姿勢で料理担当を引き受けてくれたが、実は料理下手だったりしないよな?自信満々に料理出来ると言って激マズ料理が出てくるとかお約束な展開は勘弁してほしい。
「それでは早速」
「え?ここでやるの?」
そもそもこのダンジョンに厨房なんてものは存在しない。ゾアに頼めば作ってくれそうだが今すぐは流石に無理だ。プログラミングで作ることも可能だが温度調整とか設定しないといけないしこちらも時間がかかってしまう。
「ふごふご!」
「ごめんなさいね」
メリアスはそう言った瞬間、数匹の猪の首に大きな切れ目が入り一瞬にして猪の命を刈り取り、すぐさま水の球で猪を包むと血抜きをすぐに済ませる。そして風の魔法で毛皮をはぎ取り手際良く解体を済ませてしまった。
そして解体した肉を空中に浮かせると、次に火の玉を出現させてまるで太陽を回る惑星のように肉が回転して焼き始めた。元居た世界じゃまず見られない調理方法だな。
「焼き加減はこんなものでいいでしょう。カルラ、お皿を用意してもらってもいいですか?」
「了解した。グラム鉱石をもらうぞ」
カルラは先ほど山積みされていた鉱石を手に取るとすぐさま粘土のように形を崩し始めた。
カルラの能力は二つ名の通り元素を操る力。今彼女がやっていることは錬金術の分解と再構築に近く形あるものの造形を自由に変えられるのだ。その力を使えばあらゆる武器を触れただけで形を変えさせたり、有毒物質を生み出すことも出来ててしまう恐ろしい能力なのだ。
そんな能力の初披露が食器造りとはちょっと残念な気持ちはあるが、今は彼女の能力に感謝だ。
カルラはすぐに人数分の食器を用意して皆で使っていた会議室に運んで行った。意外と彼女は手先が器用なのかもしれない。そしてメリアスも焼いた豚肉をカルラが作った食器に乗せていく。
「さぁ、皆さん一緒に食べましょう」
異世界で初の料理。これは楽しみで仕方ない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結論から言って異世界初の料理はシンプルかつワイルドであった。
まあ食材が焼いた猪肉で味付けは塩のみ。少しサバイバルをしている気分ではあるがこういうのも悪くない。味も意外にも美味しく、リンドが用意してくれた果実ともかなり合う。
「申し訳ございませんコウキ様、初の料理がこのようなもので」
「いや、謝る必要はないさ。それにこれはこれでアリだと思ってるし」
塩で味付けしただけだからやや獣臭さがあるが贅沢を言うつもりはない。せっかくメリアスが作ってくれた料理だし美味しくいただく。
「だがこのままこの類の料理を出し続けるのはマズイと思うぞ。味の意味ではなく」
「そうですね、栄養もこれでは偏りますし野菜は欲しい所です」
グラムとミーシャが感想を述べると他のフロアボスたちも頷く。
「野菜か・・・そういえばドロップアイテムの中に野菜系とか無かったけ?」
俺はモニターを操作してアイテムドロップのリストを確認するといくつかの野菜の種を見つけた。
「お、これならいけそうかな」
試しに出現させると種が入った小袋がいくつか出現した。種の状態のため実った状態よりも魔力消費が低めだ。
「メリアス、この種の栽培を頼んでいいか?」
「お任せください。素晴らしい作物を作ってみせます」
メリアスは嬉しそうに種を手に取りやる気を見せていた。
そんな時モニターが急に出現しダンジョンの内部が映し出された。
「どうやら新しい挑戦者が入ってきたようだな。数は50人か」
「早速魔力補充者が来てくれたみたいねんな」
魔力補充者って・・・まあ確かにそうなんだが。
俺たちは期待しながら50人単位の部隊がどう進むかを見守った。
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第1階層
「隊長何なんですかこの建物・・・内部が洞窟じゃないですか」
「分からん、これが女神エイミィの御業なのだろう。これほどの力を持つとは、是非とも我が国が手に入れたいものだ」
「隊長!前方から魔物が接近してきます!」
「む!相手は何だ?」
「ゴブリンです!数は10!」
部隊に突撃してきたのは10匹のゴブリン。片手には短剣のみでいかにも序盤で現れる雑魚モンスターって感じであった。
「フハハ!ゴブリンごとき我らの敵ではない!盾部隊押し返してしまえ!」
隊長らしき人物の指示に従い、10名の大盾を持った男たちが前陣に立って迎え撃つ準備に入った。だがここで予想外のことが起こる。
「な!このゴブリン大きくないか?!」
「っちょ!なんだこの力、どこからこんな力が!」
ダンジョンの外にいるゴブリンと同じと思った兵士たちは予想外の力に崩れ始めた。
キャシャ―!!
ゴブリンの咆哮に兵士たちは怯み前陣が崩れだしたのだ。そして一匹のゴブリンが盾の隙間を通るように入り込み持っていたナイフで隊長らしき男に襲い掛かったのだ。
「このゴブリンまさか特殊こ・・ぐ!」
ナイフを脇腹に差し込まれ激痛に耐える隊長。
「隊長!」
「この舐めるな!」
ここで隊長が男気を見せたのか。ゴブリンのナイフを持った手を掴みそのまま壁に叩きつけて持っていた剣でゴブリンの胸に剣を突き立てた。ゴブリンは痛みに苦しみだすがすぐさま力尽きて霧状になって消えてしまう。そして残ったのはゴブリンのドロップアイテムである小さな短剣だけであった。
「流石隊長!」
「油断するな!まだ9匹もいるんだぞ!」
その後50人部隊vsゴブリン10体という一見すると圧倒的な状況にも関わらずゴブリン10体を倒すのに10名の犠牲者に15名の負傷者を出してしまった。
「っく、まさか10体とも特殊個体だったとは。女神エイミィ、それほどまでに我々を拒絶するか」
「隊長!ご覧くださいゴブリンの死体があった所にこんなものが」
一人の兵士が隊長に見せたのは大きな宝石だった。それ一つでかなりの金額で買い取られるのは容易に想像できた。10匹のゴブリン相手に運良くレアドロップを引き当てた兵士たち。先ほどまで疲弊していた顔もその宝石を見た瞬間疲れがどこかへ行ってしまった。
「もしやここで魔物を倒すとこのような宝を落とすのか?」
「必ずという訳ではないみたいです。実際、ボロい短剣や布切れだけ残っているのもありますし」
「ふむ、色々と調べる必要があるな。消えた仲間も気になるがこのまま進むぞ」
『っは!』
その後、40名の部隊は鉱脈を発見し鉱石を採掘するなど順調に進めるもオークの集団に出くわしてしまい見事に全滅してしまったのだ。
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「っぐ、ここはあの塔の外か?」
「隊長!ご無事ですか!」
「ああ、なんとも不思議な体験だったが。そういえば我々が見つけた鉱石やタカラはどうした。まさか、夢だっとか無いだろうな」
「いえ、夢ではありません!見てください!」
兵士が見せたのは間違いなくダンジョン内で見つけた宝石だった。
「一度、本国に戻るぞ。この情報を持ち帰らなければならない」
「そうですね」
その後部隊は本国に戻りダンジョン内で起きたことを報告し、次第にエイミィが隠れ住む塔には財宝が手に入るという噂が広まるのだった。
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