第8話
俺とエイミィがダンジョンの打ち合わせをしているとエイミィが何か気付いたのか、扉の方に目を向けた。
「コウキ様!ただいま戻りました!」
元気よく俺の部屋に入り込んできたのは純白の獣耳の女性、33階層のフロアボスのカルラだった。
彼女の背中には2mはありそうな猪が担がれていた。
「お帰りカルラ、収穫はその猪か?」
「いえ、これだけじゃありませんよ!入りきらないのでとりあえず玉座の前に置いてあります」
「「え?」」
俺とエイミィは急いで玉座の部屋に向かうとそこには大量の猪が紐で縛られていた。ざっと20匹はいそうだ。その隣には大きな桶みたいな物が置かれておりそこには見たことが無い魚たちが泳いでいた。
「カルラ、これ全部お前が捕まえてきたのか?」
「はい!この身体で色々と試すのも兼ねていたためあまり集めることが出来ませんでした。申し訳ございません」
「いやいや、十分だって!」
カルラは自分が不甲斐ないと反省している様子だが正直こんなに集まるとは予想外だった。本気を出していたらどうなっていたんだ?
「カルラ、食料調達ご苦労様です。とても素晴らしい働きです」
「っは!ありがとうございます」
エイミィは女神モード(俺命名)になってカルラを労った。この切り替わりも馴れないといけないのか。
「それでは早速他のフロアボスたちも呼びましょう。表ダンジョンの調査も区切りが必要でしょうし」
「そうだな・・・しかしどうやって呼ぶか」
「モニターを操作すればフロアボスたちに連絡を入れることが出来ますよ」
「そうなのか?」
俺は言われた通りにモニターを出現させるとフロアボスたちの項目に【CALL】という文字が見えた。俺はその文字を押すと目の前に八枚のモニターが出現する。すると目の前にはフロアボスたちの姿が映し出された。
目の前にいるカルラの前にも同じようにモニターが出現したのでおそらくテレビ電話みたいな機能のようだ。
『コウキ様、どうかされましたか?何か問題でもあったのでしょうか?』
11階層のフロアボス、グラムは真っ先に心配した顔で質問してきた。
「いやそうじゃない。今カルラが帰還して食料を持ってきてくれた。グラムたちの報告も聞きたいし一度集まってくれないか?」
『御意!』
俺が指示するとすぐさま他のフロアボスたちが頷き玉座の方に現れた。もしかしてフロアボスたちってダンジョンの中を自由に移動できるのか?
「おいカルラ、随分と遅かったじゃないか。ってか食料ってそれだけか?俺だったらお前の半分の時間で倍の数は集めてこれたぜ」
「森を舐めるなリンド・・・コウキ様とエイミィ様ならともかくお前には言われたくない!」
リンドはまたカルラに突っかかるように話しかけ、カルラも喧嘩腰て睨みつけていた。本当に仲が悪いなこの二人。
「コウキ様、こちらダンジョンの調査を兼ねて鉱石を採掘してきました。お納めください」
そう言ってグラムがモニターを操作すると俺の前に大量の鉱石が出現した。そういえばダンジョン内には採掘エリアをいくつか設置していたな。
「鉱石は問題なく採掘できるみたいだな。どれくらいの価値があるかは分からないがあって困ることはないだろう」
「あコウキさん、ならワイがその鉱石を使ってもええですか?」
思わず声がする方へ顔を向けるとそこには褐色肌に長い耳の少年がいた。地下22階層のフロアボス虚無の皇帝、ゾア・・・種族はダークエルフだ。
というかゾアってこんなしゃべる方するのか。関西弁のダークエルフとかどんなジャンルだよ。
「ダンジョン内で魔力の節約を考えるならワイらで何かを作った方がええと思いますし。ワイ、こういうモノ作りとかは得意中の得意なんや」
ゾアが担当する地下12階層から22階層は確かSFをテーマにしたステージだったはず。『虚無』つまり宇宙の皇帝を冠するゾアはSF世界の技術力を全て持った超人ダークエルフという設定だった。その代わり魔力という力はそこまで高くなく、フロアボスの中では一番保有魔力が少なかったはず。
確かに俺がプログラムで物を作るのは可能だがダンジョンの魔力をあまり使えない今そういう節約方法もあるか。
「ゾア、この鉱石を使ってどんなものが作れる?」
「せやな、この量なら小型のアイアンゴーレム10体は作れそうやな。動物や作物の管理なんかに使えるはずや」
「そうか、ならゾアは生活をサポートする道具の開発発明を任せる」
「了解や!コウキさん、必ずええもん作ってみせます!」
元気よく返事するゾア。こういうモノ作りが好きなやつとは仲良くできそうだ。敬意を持ってくれているのは分かるし、話しやすいタイプだ。
「コウキ様、俺の階層ではまだ魚とかは泳いでいなかったのですが必要になると思いこれを用意しました」
次に挙手したのは22階層のフロアボス、深海の覇者カーツだ。特徴的なのはゾアのような褐色肌ではないが健康に日焼けしたような肌色に魚のヒレのような耳だ。怪魚人と呼ばれる魚人の中でも超人的なパワーと魔力を持つ種族。いうなれば魚人族の戦闘民族バージョンだ。
カーツがモニターを操作して出したのは山のように積まれた綺麗な白い粉。
「もしかしてこれ、塩か?」
「はい、エドワードと協力してダンジョン内の海水の一部を塩に変えました」
「現在我には役割が無い。なので主のためにと思いカーツの要望に応えました」
カーツが隣にいたフードを被った青年、地下33階層のフロアボス原初の魔術師、エドワードが淡々と答えた。なんというか中二病くさい雰囲気の男だが、実はこの人物の外見とか昔俺がオンラインゲームで使っていたアバターを元に設定した人物なのだ。名前も俺のミドルネームのエドワードだし。
昔から魔術師キャラとか好きだったからラスボスの一歩手前に自分の好きなキャラを入れようと思って作ったんだよな。種族は人間だけど魔力はマジでバケモノクラス。フロアボスにふさわしい強さを持った最強の人間なのだ。まさかそれが目の前に実際に現れるとは作っているときは思いもしなかったが。
「そうか、塩は料理とかに絶対必要だからな。カーツエドワードお手柄だ」
「「っは!ありがとうございます」」
「コウキ様、俺からはこれを」
リンドが持ってきたのは大量の色鮮やかな果実だった。形はひょうたんっぽくて青かったり紫色だったり見たこともない果実だ。
「リンドこれは?」
「俺の担当フロアの一部の場所で入手できる果実です」
「ふん、あんた随分と偉そうなこと言っていたけど大したことないじゃん」
「お前にはこの果実の価値を理解していないようだな」
「「ああぁ?!」」
この二人は喧嘩しないと話を進められないのか?
「あら、これは龍酒の果実ですね」
「エイミィ知っているのか?」
エイミィは興味深くリンドが持ってきた果実を手に取った。
「ええ、龍の国スーザでのみ実っている果実です。中身はほどんど水分ですが、栄養価と糖度が高く果実というよりもジュースが詰められた水風船と言った方がイメージしやすいと思います。ただこの果実の特徴は発酵しやすくすぐに酒へと変わるため『自然界の高級酒』なんて呼ばれています」
自然界の酒か。うちには酒好きが何名かいるみたいだしこれはあった方がいいな。
「リンド、お手柄だ。これがあれば楽しみが増える」
「ありがとうございます」
リンドは満足そうに頭を下げると勝ち誇ったかのようにカルラを見たのを俺は見逃さなかった。一方カルラの方はリンドが持ってきたものが彼女も欲しがっている品のため我慢している様子だ。
「コウキ様、そちらの龍酒の果実私にいくつか研究材料として譲ってもらえないでしょうか?」
ミーシャはそう言って龍酒の果実に目を向けた。
「龍酒の果実は栄養価が非常に高いものです。一般的には酒として使われているようですが薬にもなります」
「確かに龍酒の果実なら強い効果を持った薬もできるでしょうね。確かエリクサーの材料にもなっていたはず」
エイミィは思い出すように俺たちに説明してくれたが、なんか物凄い単語が聞こえたぞ。
「エリクサーってあの万能薬か?」
「ええ、部位欠損すら治してしまう完全回復薬。長い歴史の中でも完成させた人は数える程度ね」
そんな物まで存在していたのかこの世界には。
「分かったミーシャには薬品の開発及び医療関連の研究を頼む」
「お任せください。皆さんの健康は私が保証します」
まあフロアボスたちが健康被害が出るとかあまりイメージできないが、医療の研究を進めるのは悪くないはず。
「グラムたちの細かい報告とかも聞きたいし、あとは料理を食べながら報告を聞くか」
『っは!』
さて次は異世界初の料理体験だな。
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