第5話

フレイバーテキストとはトレーディングカードゲームのカードの文章欄に書かれている、ルール文章でない文。雰囲気や世界観をあらわすために使われる。


俺がダンジョンを作っているとき、このフレイバーテキストはすでにいくつも書き込まれていた。元々エイミィが作っていたプログラムを俺が完成させていたため、彼女が書き込んであるものはそのまま残した状態にしてある。


そういう裏設定があるのも面白いと思い、俺もフロアボス達の。趣味や戦闘スタイルなどのフレイバーテキストを書きこんだ


そのボス達が俺の目の前に現れるとは思いもしなかったが。


全員が着席すると俺はテーブルの中央にスクリーンを映し出した。


「今回、初めてのダンジョン挑戦者がきた。その映像を皆に見てもらいたい」


映像には今日入ってきた兵士達の戦いっぷりが映し出されている。


「軟弱だな」

「こんな弱さでよく、ここに挑もうとしましたわね」


リンドとカルラがそれぞれ兵士たちの戦いに呆れながらコメントしている。他のボスたちも思っていることを口に出しては真剣に見ていた。そして、最後の兵士がサラマンダーに倒されて光の粒子になって消えたところで映像が切れた。



「とまあ、こんなところだ。それぞれ思うことがあるだろうがまずは聞いてくれ。正直言って、俺はこの世界のこと、ダンジョンのことを知らなかった。知らないでお前達を生み出した。だからまずは謝らせてほしい。自分の身勝手でお前達を作ったことを本当にすまなかった」


俺が皆の前で頭を下げると全員が驚いた顔で動揺していた。


「コウキ様!コウキ様が謝ることはございません!むしろ我々は感謝しています。コウキ様に授けてくれたこの命、そしてこの住処を与えてくださったことを」


代表としてメリアスが言い出す。


「そうです!私達がここにいられるのはコウキ様のおかげです。どうか顔を上げてください」

「我々は常にコウキ様と共に歩むことを誓っております。ですからそのようなことで頭を下げないでください」


カルラとリンドも頷きながら言い出す。


「コウキ様。コウキ様はこのダンジョンを作るとき何をお考えになったのですか?」


俺に質問してきたのは地下11階層のフロアボス、魂魄の悪魔姫ミーシャだった。ヴァンパイアのような白い肌に真っ黒いドレス。二つ名を考えるとき、悪魔か吸血鬼にするか迷った。


「私にはこのダンジョンに込められた感情、想いなどを視ることが出来ます。このダンジョンはコウキ様、エイミィ様の思いが込められています。私達はコウキ様、エイミィさまの望むダンジョンへ近づけるお手伝いがしたいのです」


魂魄の悪魔・・・その二つ名のとおり精神と肉体を司る悪魔で、彼女には特殊能力として『心眼』という目に見えないもの、主に感情、心、想いなどを見透かすことができる。そういうフレイバーテキストに書き込んでいるのを思い出した。設定のつもりだったが、まさかこんなチートスキルになるとは思わなかったが。


ミーシャの言葉に再び全員が頷く。


「俺はゲームプログラマーとしてこのダンジョンを作った。エイミィを守るためのダンジョンである以上、クリアされるのは困る。だが作った側としては多くの人に全力で挑んで欲しいという気持ちはある」


元居た世界でゲームを作成する時、たまに開発側が自由に難易度を設定していいステージの案件が出ていた。こういう時が一番楽しく、プレイヤー側がどう攻略するのか、勝ち筋をどう見つけるのかなど楽しみで作っていた。いうなれば開発側からの挑戦状である。


そしてこのダンジョンは途中参加とはいえ俺にとって最高傑作の挑戦状でもあるのだ。これに挑んでどう進んでいくか見てみたい気持ちはある。


「なるほど、確かにそれは難しいですね」

「挑戦者の目的がエイミィ様である限り、攻略はさせたくはない。かといって手を抜くのも・・・」

「それに敵の強さを理解しながら挑み続けるほど愚か者はそうそういないだろう」


確かに難易度が無理ゲーレベルと分かると挑む人は減っていく。相当な挑戦者じゃないと挑みには来なくなる。無理ゲーレベルのステージを作ってヘイトを集めたこともあったな。ネットで大炎上したっけ・・・


「ですが、挑戦者がここに挑まないと困ることがあります」

「どういうことだエイミィ?」


そう言ってエイミィが俺たちに見えるように大きなモニターを出現させる。そこにはこのダンジョンの全体図が表示され上半分と下の一部が赤く点滅していた。


「ダンジョンが誕生したことは大変喜ばしいことですが、問題はこのダンジョンを維持するために魔力が必要になるという事です。ダンジョンは合計で88階層ですが、現在稼働出来ているのは表ダンジョンの44階層とフロアボスたちが担当する4階層、計48階層のみです」


つまり半分近くはダンジョンとして形は出来ているけどギミックなどは稼働していないっていうことか。俺、結構頑張って作ったのに動いていないのかよ。


「またモンスターも何体か出現していますがダンジョンからモンスターが生まれるのにも魔力が必要です。本来であれば一定数に達するまでモンスターが出現するはずですがこちらも最小限の状態です」


ゲームでいうリスポーンもこのダンジョンでは機能しているみたいだが、節約のためにそれも抑えられているわけか。


「ちょっとまて、維持費がかかるなんて聞いていないぞ。それを知っていたらもう少しダンジョンの設定を考えていたぞ」

「光輝さんには最高のダンジョンを創ってもらいたかったのであえて、そこは伝えませんでした」

「だがそのせいでダンジョンの半分近くは機能していないじゃないか」


俺は涼し気な顔をするエイミィに反論するが彼女は意を返さないように平然としていた。そしてその光景を見ているフロアボスたちも沈黙し、かなり重い空気になってしまう。


「エイミィ様、先ほどおっしゃっていた挑戦者が来ないこと魔力はどういう関連があるのですか?」


沈黙を破ってくれたのはメリアスの質問だった。


「そうでした、このダンジョンはある仕組みがあります。それは挑戦者とモンスターが戦うことで発散される魔力を吸収するのです」

「つまり、より多くの挑戦者がダンジョンのモンスターたちと戦えば魔力がたまり、ダンジョンの維持だけでなく発展も可能という事でしょうか?」

「ええ、ダンジョンの魔力がたまれば光輝さんがこのダンジョンをさらに改造する事ができます。例えば、酒が湧く泉とか・・・」


ガタ!


エイミィの言葉に真っ先に反応したのはグラム、カルラとリンドだった。つまりこの3人は酒好きで間違いないな。というかそれ、養老の滝じゃないか?作れるのマジで?


「他にもどんな傷を治す治癒の泉や、あらゆる知識が集まる施設など光輝さんが生み出そうと思えば作れます。もちろんそれ相応の魔力が必要となりますが」


エイミィは次々と俺が作れるものを述べていきそれを聞いたフロアボスたちの顔はやる気で満ちていた。


こりゃ魔力が貯まった後は報酬として作らないとな。

その後、フロアボス達と色々と話し合い、まとめに入った。



「さて、話をまとめるが。俺たちはダンジョンを運営していかないといけない。そのためにも多くの冒険者たちがここを目指す必要がある。それと同時にエイミィを狙う輩を排除しないといけない。今のところ、ここはエイミィの住処と認識されている。危険な行為ではあるがダンジョン運営のためより多くの挑戦者を呼びこもうと思う」


「具体的にはどのようなことをするのですか?」



俺が話すとミーシャが申し訳なさそうな顔で質問してきた。



「まずこのダンジョンには財宝があると広める」


「財宝・・・ですか?」


「ああ、このダンジョンにはエイミィではなく宝や貴重な鉱石が出ることを広めるんだ」


ここのモンスターは倒すとアイテムをドロップするようになっている。どうやってアイテムが落ちる仕組みなのか分からないが、エイミィ曰く、ゲームと同じように倒されたモンスターは消えて、アイテムをドロップする仕組みだ。落ちるアイテムも俺が設定した通り物と倍率なのでこれは調整可能らしい。


たしかドロップアイテムの中にはレアな武器や鉱石も設定していたはずだ。



「それはどうやって広めるのですか?」


「もちろん、この教会発信機で広める」


俺がエイミィの顔をチラッと見ると全員が納得した表情だった。当の発信機はキョトンとした顔でいたが。


「・・・・はい?」

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