第2話
気がついたら俺は玉座に座っていた。宝石で装飾されたような椅子ではなく、シンプルな木でできた椅子。だけどどこか芸術性が感じられ高級感はある。
「ここってまさか本当に俺の作ったダンジョン?」
周りを見渡すと俺がプログラミングしたダンジョンと内装が似ていた。中世の時代をイメージしたお城のような敷き詰められた石畳、部屋の中央には立派な赤い絨毯、天井には豪華なシャンデリアが吊るされていた。
「気が付きましたか、光輝さん」
隣に顔を向けると俺をここに連れてきた自称神のエイミィが立っていた。金髪ストレートにスレンダーな体型、そしてローマ神話に出てくる神が着ていそうな純白な服。街で歩いていたら間違いなくモデルと勘違いしそうな美貌の持ち主。
「光輝さん、改めてお礼を言わせてください。このような素晴らしいダンジョンを作っていただき本当にありがとうございます」
「いや、だけど・・・本当にこれ俺がプログラミングしたダンジョンなのか?・・・・信じられないんだが」
「もちろんこのダンジョン全てコウキさんが作ったものですよ・・・ほら、地図をみてください」
エイミィが何かを念じると、俺達の前に青く透き通った円柱が現れた。SF映画などで登場する立体映像と言ったら想像しやすいかもしれない。
「『オリジンダンジョン』、階層は上に44階層、地下44階層、合計88階層。形状は円柱。空へ続く天空の塔と思いきや、裏ダンジョンとして地下のダンジョンを用意、なかなか面白いですね」
エイミィは俺が設定したプログラムの説明を淡々と述べた。
「なあ、エイミィ・・・なんで俺にこのダンジョンを作らせた?説明してくれないか?」
「ええ、そうですね。創って貰った後に言うのも変ですが、光輝さんには知る権利があります。まずこの世界についてお話します」
この世界の名前はジューニ。俺の中では馴染過ぎているファンタジーの異世界だ。文明も定番のファンタジーらしく中世レベルの文化。少し前までは大きな戦いが続いていたらしいが、今は終戦して落ち着きを取り戻しているらしい。
エイミィはこの世界の女神として人々から信仰を受けており、人々に魔法の能力、つまり異世界定番の【スキル】を与えている。
厳密に言えば彼女はこの世界の【スキル】全般を管理している存在であるだけで、彼女の慈悲によってスキルが与えられている訳ではないらしい。ただ彼女の権限で強力なスキルなどを与えることは可能とのこと。
そしてここが問題なのだ。
平和を取り戻した人々は次第に強力な【スキル】を自分たちの物だけにしようと考え、『神狩り』が始まった。彼女を自分たちのものにすれば最強になれるのだと。
その噂は次々と広まり、ついにエイミィ争奪戦が始まった。これまでもいくつかのダンジョンを作ったらしいが、プログラミングスキルが低いせいかバグだらけのダンジョンで、すぐに倒壊してしまったらしい。
「・・・つまり、このダンジョンはお前を守る砦ってわけか?」
「・・・はい、申し訳ございません。勝手に作らせてしまい。説明したら断られるかと思いまして」
「じゃあ、なんでこの世界にいるんだ?逃げるんだったら、ずっと別の異世界にいれば良かったんじゃないか?神狩りなんて一時的なもんだろうし。神の感覚からすれば数百年経っても別に平気なんじゃ?」
「そんな、無責任なことはできません!いくらあの人たちが私を狙っているからって、世界そのものを放置するわけにはいけません!それに神狩りをする国だって世界中から見ればほんの一部です。私を純粋に信仰してくれる方は大勢います!」
どうやらエイミィは思った以上に真面目な性格らしい。
「そういえば、俺にプログラミングさせた時、あれって自分で作ったのか?」
「はい。私なりにダンジョンを作ったのですが上手くいかず。そこでダンジョンを作れる光輝さんを見つけ作って貰ったのです」
つまりこの世界でダンジョンを作る=ゲームのプログラミングってことか。
ビー!ビー!
部屋中に響き渡る警報音のような音で俺は椅子から跳ね上がった。
「なんだ?!」
「どうやらさっそく、敵が来たようですね」
エイミィがそう言うと、巨大なモニターが俺達の目の前に映しだされた。映像はこのダンジョンの入り口で、扉の前には20人くらいの武装した兵士たちだった。
「女神エイミィよ!我々は誇り高き聖・メゾン共和国の兵士!我が国の繁栄のためにご同行を願いたい!もし拒否する場合はこちらから強制的に連れて行くよう命じられている!」
兵士長らしき人がそう叫んでいた。一応エイミィのことは神として丁寧そうに言っているが。要するんに無理やりにでも連れて行くってことだろ?
「・・・あんなこと言っていますが、どうします?」
「コウキさん・・・やっちゃってください」
なんだろう、エイミィの笑顔がものすごく怖い。
「とりあえず相手の実力がどれくらいかは分からないし小手調べってことで」
そんなこと言いながら、俺はモニターを見た。扉は全員が入った瞬間に閉じるようになっており、その瞬間ダンジョン攻略の開始の合図でもある。
「た、隊長!あれ!」
兵士の一人が叫び壁に張り付いている魔物に剣を向けた。
「ま、まさか!サラマンダー・・・だと!馬鹿な!あの化け物は火山大陸にしか生息していないはず!」
第一階層の突破方法は、単純に広い部屋にいる10匹のサラマンダーを倒すことだ。火のブレスにさえ注意しておけばなんとかなるだろう。
ダンジョンのプログラミングをしている時、モンスターの設定資料みたいなものが用意されていた。何百種類もある膨大なデータの中から俺がダンジョンモンスターにピッタリなのも選んで配置したのだ。
一応モンスターの設定にもステータスの下限と上限はあるみたいで、例えば普通のゴブリンのステータスをドラゴンより高く設定することは出来ない。逆にドラゴンを最低値まで設定しても一定の強さを保っている。まあもちろん例外設定は出来るのもあるのだが。
ともあれ、今出現したサラマンダーたちはこのダンジョンに見合った高ステータスに設定してある。
「ひ、怯むな!かかれ!」
兵士長が先陣を切って突撃し、サラマンダーに突撃する。サラマンダーの動きはけっこう鈍く、すぐに間合いに入られた。
「はぁああ!」
兵士長の剣はサラマンダーの額に直撃するが、サラマンダーの鱗には傷ひとつついていなかった。それどころか攻撃されたことに気付いていないかのように平然とした表情をしていた。
「な!どうなっている!」
困惑する兵士長を見た俺は疑問に思った。
「あれ?固く設定しすぎたかな?一応無茶ぶり設定にはしていないはずだが」
「ねぇ、あのサラマンダー私が知っているサラマンダーよりかなり大きくない?
」
「そうか?一応ステータスはこんな感じにしているが」
俺はそう言ってサラマンダーのステータスをエイミィに見せると、次の瞬間彼女が一目瞭然で顔を青ざめていた。
「っちょ!何よこのステータス!完全に特殊個体レベルじゃないの!それが10体って!大国が軍を率いて討伐するレベルよ」
「軍隊ってそんな大げさな・・・」
俺はそう思ったが現実はそうではないみたいだ。
状況はまさに蹂躙。勝ち目がないと悟った兵士たちはすぐさま扉に向かって出ようとするが非常にも扉は閉ざされたままで彼らを閉じ込めた。
そしてそんな兵士たちをサラマンダーたちが襲いかかる。
逃げまわる兵士たちに追い打ちをかけるようにファイアーブレスを放ったり、閉まった門を必死に叩く兵士を背後から切り裂くなど・・・見ているこっちが気持ち悪くなる。
ちょっとしたホラー映画を見せられている気分だ。
そして兵士長たちが息絶えると、身体は光の粒子となって消えた。
「っちょ!まさか殺したの?いくら私を狙っているからってちょっとあんまりじゃ!」
焦るエイミィだが光の粒子となって消えたのを見て俺は設定していたプログラムが作動したのを確信した。
「ああ、大丈夫。あいつらなら・・・たぶん」
画面が切り替わると、そこはダンジョンの入り口だった。門前には気絶した兵士たちが横たわっている。さっきまでの戦闘で負った傷は無くなっており、失った体の一部も元通りだった。
「どうなっているの?」
「俺はゲームプログラマーだよ。戦闘不能になったら五体満足で入り口に戻るのが定番じゃん。入り口に戻ったら元通りになるように設定してあるんだ」
「え?じゃあ、あの人たちは無傷ってこと?」
「まあ、精神的なダメージは残るけど、肉体的には元通りだね」
それを聴いた瞬間、エイミィはホッとした表情を見せた。
「しかし、難易度調整が必要だな・・・これは無理ゲーだろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます