第8話 開戦
大きな倉庫の前に一組の男女が居る。男は建物を見上げており、その横で少女が俯いている。
少女は外套で体を覆い、頭には黒い布をかぶっていた。男が一つため息を吐き、前を向き直した。
その吐息に気が付いたのか少女も頭を上げた。二人の目線が重なる様を倉庫の角にあった世界の眼は映し続けていた。
「行くか。」
「はい。」
あの夜の後に二人で話し合い、町長と会うためにハクウを連れて建物の前に来た。ふと、これから起こる事、やる事は正しいのかと思う。だが考えた所で答えが出る事は無い。何よりも。
「すまないな。」
「いえ、仕方ありません。」
二人で決めた事だ。薄れた孤独が脚を前に進ませる。
「しかし改めて見ると随分と大きい建物だな。壁も見たことのない材質だが。」
「これは大昔の倉庫が元ですね。外壁は改めて塗装をしたようで綺麗に見えますが。」
ふむ、機械を使って大きく建てたのかと思っていたが違うようだ。
「こんな大きな倉庫に昔の人は何を入れていたんだ?」
「大きなコンテナ、ええと家のような荷物か、乗り物や兵器も入るのではないでしょうか。」
「ヘイキとはなんだ?」
「兵器はそれ一つで沢山人が殺せる物ですよ。それも簡単に。見た目は我々を連れ去った方達の手足をさらに大型にしたもの、という感じでしょうか。」
「そんなものがあったのか。」
「下手すれば、この先にあるかもしれません。」
「そうか…。」
町長の体躯とその腕を思い出す。変わった形だったが、武器らしき物はなかった。だが腕は黒光りする金属でできていた。あの大きさの物が無駄についているとは思えない。
息を飲んだ後に、俺はゆっくりと扉を開けた。建物の中を以前来た時と同じ通りに進む。前回は通路に面した部屋に人がいたが、今は不自然なほど誰もいない。
そして町長の居る部屋にたどり着いた。自動で開いた扉は開けっ放しになっており、奥の鉄扉の前で立ち止まる。俺はハクウと一緒に扉を開けようと彼女に目配せし、二人で押し開けると扉は大きく軋む音をあげて開く。前を見ると町長は背を向けて立ち、腕に何かを取り付けていた。
「おお、よく来てくれた。」
そう言った後に、がちんと大きな金属音をたててからこちらを向いた。
「そいつが天使か。」
そう言いながら腕につけた物を振るう。恐らく固定を確認しているのだろう。それは今までの機械化した兵士とは一線を画す大きさで、形はハクウから聞いたヘイキそのものに見えた。
町長自身の体躯の大きさもあるが、武器をつけて正面に立つ彼の大きさは縦横両方大人二人分ある。ふと気が付くと町長の後ろに大きな扉があった。以前きた時は大きすぎて壁だと思っていたが、あれは町長がああなった時用の出入り口なのだと直感で感じた。
改めて町長を見直すと、鋭い目線で一歩後去りしてしまう。その足はハクウに軽くあたり、ハクウはそっと俺の腕を握った。それに気が付き改めて町長の眼を見て答える。
「ああ、そうだ。」
「顔の覆いを取って見せてくれないか。」
「すまないな。道中目立ちたくなくてね。」
「確かにこの町とはいえ元天使がうろつくのは大騒ぎになるからな。」
「ああ。」
そういって俺はハクウの黒い布を取る。ハクウは明るくなった目に慣れる為に、ゆっくりと顔を上げた。
「お前は!」
ハクウの顔を見た瞬間町長の顔がこわばる。
「お前はスミスを殺した、あの時の!」
ハクウはその勢いに恐れ目を背ける。町長は先ほど腕につけた武器の先端をこちらに向ける。その意味が俺には一瞬わからなかったが、これが話しに聞いた物だと気が付きハクウを抱き寄せる。
「待て!町長、待ってくれ!」
「止めるなマビダ!この仇だけは確実に取る!」
「だめだ!撃つのなら俺は降りるぞ!」
俺と町長はにらみ合う。しばしの沈黙。そして横のハクウが口を開く。
「私に記憶はありません。なのであなたの息子を殺したかは定かではありませんが、私は量産品です。同様の容姿の天使は多数います。」
町長はその声に反応しハクウを睨みつける。だが少ししてゆっくりと武器を上にあげた。
「確かにてめえのしゃべり方はあの時の天使の声じゃあねぇな。感じも違う。しかたねえ、今回は引いてやる。」
町長は舌打ちをし、目を伏せた。目線が外れた瞬間にハクウは俺を優しく押しのけて、少しだけ俺を見つつ頷いた。俺は一抹の申し訳なさを感じつつ、一歩下がる。
「ったくクソが。それに今はそれどころじゃねえんだ、しかたねえ。」
「それどころじゃないとは?」
「ああ、今になって急にレジスタンスが動き始めたのさ。それであちこち爆破騒ぎで避難だ捜索だで人を出払ってる。ここも爆破の危険があるから一般職員は避難させた。あいつらは爆破なんぞする奴らじゃあなかったんだが。教会の手引きかもしれんので俺も出る事にしたんだ。」
そう言うと大きな音をたてながら腕の武器が背中に移動し、町長は手持無沙汰故かゆっくりと腕を組んだ。その瞬間、空気の振動と共に破裂音が辺りに響いた。
町長はその音に体を跳ねさせ辺りを見回すが、俺はその間に息を吐きゆっくりと腰の剣に手をかける。すると町長の使う机の上の白い置物が音をたてた。
たしかあれは電話と言ったか。町長は大きな手で器用にそれを押した。するとブツという音の後に人の声がした。
『東部の検問付近で爆発、北部でも爆発が起きています!』
「なんだと?あそこに人はいないはず。あいつら何が目的だ。わかったこちらも向かう。」
そう電話に語り掛けた町長は電話から指を話すとこちらに向き直る。
「すまないな、詳しい話はまた後にしてくれないか、俺も行かなきゃならねえ。」
「ああ。」
そう答えて、俺は剣を抜いた。ゆっくりと音をたてて、分かるように。
「・・・なんの真似だ?」
「こちらこそすまない、俺は町長の戦争に賛成だ。だが。」
恐怖が、後悔が、家族が、剣をより強く握らせる。だが目線の少し横のハクウと目を合わせると、少し力みが取れる。
「止めさせてもらう。」
言い切るとほどなくして町長が腕を広げると、大きな音をたてて背中の武器が腕の横に移動する。町長の武器、確かガトリングとやらがこちらに向けられていた。
「後悔するぞ。」
五秒前の俺なら確実に動揺したであろう。しかし今は少し笑い、答える。
「沢山したさ。」
皮肉のつもりだったがすんなりとその言葉が出た。そして薄暗い銃口を一目見て、構える。町長の体が強張った瞬間にハクウが叫んだ。
「盾よ!」
俺は頭を下げ横に飛ぶ。手首が急激に痛くなる。しかし痛みすら吹き飛ばすような爆音が響いた。
ガガガガガガガガガガガ!
滅茶苦茶な音をたてながらハクウの前の机がみるみるうちに削り取られていく。これが銃か。一発でも当たれば肉を貫き骨を砕く弾が見えないうちに無数に走る。
野盗討伐で向けられた矢の数十倍を一瞬で放たれたのを理解して、殺意よりも奇跡の一種かと感じる。
しかし、その銃弾をハクウは盾で凌いでいる。それを見て自分の手首の痛みを自覚し直し、今度は痛みが爆音を越えて手首に刺さる。
あの破壊力を凌ぐのだ、尋常じゃない力を使っているのだろう。肘から先の感覚が消えながらも横の長机を影にしながら低く飛び、机の影に隠れながら町長の側面に向かう。ハクウは盾を出しながら下がり、入り口の大きな扉に滑り込む。
「クソが、丈夫にしたのが仇になったか。」
町長は弾を止める。手首はハクウが扉に隠れた後すぐに痛みが引いた。あれほどの力を使いながらも気を失わなかったのはランズにもらった薬の効果だろう。機械化の際に使う痛み止めとの事だが、かなり効く。
(平気か?)
(四肢にいくらか当たりましたが致命傷はありません。動けます。)
ハクウに通信を試みる。今回、町長の無力化の作戦を立てる際に試行錯誤の末に見つけた能力だ。
通信はかなり燃費が良い。その上で耳鳴りしかしない今でも鮮明に聞こえる。ランズにこの能力を話した時に絶賛していた理由はこれか。横に並ぶ机の影から町長を見るとこちらに気が付いていない。順調だ。
俺はあの日の夜、泣いて、悩んで、結局戦争の回避を選んだ。葛藤はあったがそれ以上に屍の山の上に立つ覚悟がなかった。そしてハクウの意見を飲む交換条件として俺は町長を殺さずに無力化すると決めた。
町長を否定するだけなのならば、俺はただ全てを投げ出しただけのように思えてしまい、俺自身はそこから何もできなくなるように思えてしまったからだ。ハクウはそれを聞き何か言おうとしていたが、俺の顔を見直した途端小さい声で答えてくれた。
ランズには二人で町長の無力化は無理だと止められたが、失敗しても死ぬのはよそ者だけだと交渉した。事前に作戦を練り、複数人で対処されぬようにと爆破陽動作戦を行ったが、その場合町長の武装は確実との事で事前に相手の武器説明を受けたがその時は誇張表現だと思っていた。
実際目の当たりにするとあの時の説明はむしろ控えめな表現だったと思える。我ながら馬鹿な選択をしたものだ。しかし。
(事前情報通り、あの銃は威力を落としているようです。次回から盾は出力を落として対応します。)
ハクウの通信は冷静だ。あの銃撃に曝されて平然と説明をしている。どうしていいかわからない時は子供のようだが、やる事が決まった今は戦場をよく見ている。堕天をしても天使という事だろう。
(しかし対人では十分な火力です。当たり所次第で私も死にますし、盾を使い続ければあなたが持ちません。突撃して、首をはねるのが最も勝率が高いです。)
(分かった。だが、すまないが計画通り殺すのは無しだ。)
通信越しにハクウの感情が流れ込む。それは恐怖と悲しみ。そしてその恐怖は自身に向けてではなく俺が死ぬ事についてで、更に俺が危険を冒さなければならない悲しみの二つである事がわかる。銃撃に曝されてなお人を心配する彼女を悲しませたくない。
しかし、暗い決意で突き進む彼は俺だ。彼を大義で殺すなら、俺は自分自身のすべてを否定しなければならない。町長を殺した方が勝率はあがるだろう。だがそれでも、俺は絶望的な戦力差の前でなお決意を固めた。
「出てこいマビダぁ!お前も教会に恨みがあるんだろう!お前を撃ちたくない!一緒にあいつらを殺してやろう!」
町長の声が耳鳴りを貫く。その瞬間俺は行くぞという思いを乗せ、ハクウは了承の感情を乗せた。そして俺は叫んだ。
「俺は仇だけを殺したいんだよ!そんな雑な戦争できない!」
「ぬかせええええええ!」
そう叫んで町長はガトリングで周囲を薙ぎ払う。鉄扉以外に穴が開くが床に伏せていた俺には当たらなかった。義足の高さや町長の体躯の大きさから下方向の射撃には甘かったのだろう。
とはいえ体を起こす際に左腕に痛みが走る。痛みに怯まぬために、突撃に備えて布きれを奥歯に詰める。そして思い切りそれを噛みこみ机を影に低い姿勢で走り出す。同時に後ろでも破壊音がした。
「天使!貴様あああああああああああああ!」
ハクウが鉄の扉を持って町長に突撃した。盾を作るよりも腕力を上げる奇跡の方が燃費が良い。それでも左手にくすぶる痛みを無視するため、更に歯を食いしばる。町長の側面をとった瞬間に方向を切り替え剣を前に突き出して更に床を蹴る。
「俺の決意が鉄扉一つで防げると思うなよ!」
町長は銃声の中ですらわかる声を上げて両腕にあるガトリングをハクウに向けて撃ちまくっている。扉はみるみる変形して、だんだんと手首の痛みが強くなった。
扉を奇跡で補強したのだろう。歯を食いしばっていたおかげか俺の足取りは変わらない。彼我の距離は数歩のはずだが、舞い散る薬莢と閃光がゆっくりと目の前を過ぎる様から数分かかるような距離に感じる。飛び出して後半分といった所で更に左手首の痛みが増す。
(限界が近いです、下がります)
頭の中に声が響く。瞳を動かすと鉄扉の穴のいくつかからハクウの姿が見えた。この痛みは盾に切り替えたのだろう。
更に歯を食いしばり、膝を上げる。切先をガトリングの中心やや下に合わせ、あと少しの所で町長と目があった。
「そこかああああああ!」
肩を器用にまわして側面の俺に銃口が向く。だがそれよりも俺の方が早かった。剣を回る銃に突き刺すとがきんと音がした瞬間に剣が手から強引に引きはがされる。
上手く隙間に差し込めた。片腕のガトリングの回転が歪に止まる。一つ破壊した。
(よけて!)
頭の中に痛いほど声が響く。しかしその瞬間衝撃で俺の体が浮いた。壊れた銃身で殴られて吹き飛ばされた。息が無理矢理吐き出されながら硝子の戸棚にたたきつけられる。
「盾よ!」
ハクウが町長と俺の間に入るのが見えた。文字通り盾となって弾を止めるつもりだろう。手首の感覚はもはやなくなりつつあるが握力を戻すために必死に歯を食いしばるもうまく力が入らない。もがいていると手に何かが当たった。赤い色をした斧だ。
(長くは持ちません!)
ハクウから血が見える。近距離であるが故貫通力が増しているのだろうか、盾の位置を体に絞っているようで腕や足から赤い筋が走る。俺は斧を握り低く這うようにハクウを追い越し町長の側面に回りこむ。
「しまっ!」
「ぐううううう!」
ガヅン!
全身の痛みを噛み殺しながら思いきり斧を叩きつける。ものすごい衝撃が返ってきて思わず斧が吹き飛ばされてしまう。しかし砲身の回転方向と逆方向にたたきつけれたようで銃の回転が止まった。
「くそがああああああああ!」
町長は曲がった銃身と共に左腕を一振りする。それは胸の前を素通りしたが、後の右腕の銃身が横なぎに飛んできて吹き飛ぶ。しかしその衝撃は先ほどよりは弱い。床に転がりながら伸びた体を必死に縮め、起き上がる。
無意識に腰の短刀に手を伸ばすと驚くほどすんなりと手のひらに来た。前を見るとハクウが膝を突きうなだれていた。町長を見直すと俺に覆いかぶさるように腕を振りかぶっていた。また歯を食いしばり前へ出ようとしたがもう無理がきかなかった。倒れるように転がると後ろで大きな音がした。
攻撃を避けた?目の前にある黒い膝にしびれる腕で短刀を突き刺す。関節だからか、思ったよりも深く刺さる。
バギン!
目の前で短刀は膝に噛みこみ折れた。するとその足は急に動きこちらに迫ってきた。
「うおおおおおおおおおお!」
ガツ!
またも吹き飛び地面に転がる。意識が瞬間飛び、地面に転がる事で戻ってこれた。
「マビダ!」
ハクウの叫びが聞こえる。前が暗く、よく見えないがハクウの手元が光っている。光の剣だろうかひどく小さい。町長が膝まづきながらもハクウを横なぎに吹き飛ばした所で俺は意識が消えた。
「邪魔だああああああ!」
とびかかったハクウが吹き飛ばされる。
「町長!ご無事ですか!」
入口の方からベルトがやってきた。
「俺はまだ生きている!周りはどうだ!」
「二名ほどと交戦中です!」
「気を抜くな!中央に警備をあつめろ!」
その会話が終わった瞬間、屋根の上から爆音とともに鉄の塊が降ってきた。
「な、なんだ!」
「こいつは!」
屋根が抜けて太陽が部屋にさす。
「よう、ガンズ。」
そこには異形がいた。足一本が人の身ほどあるものが二本、間接が逆さについていた。そしてその上にアサルトライフルを持ったレジスタンスリーダー、ランズがあった。
「町長!」
「ここは待っただ!」
そういって天井の穴から降りてきたアクスがベルトを壁に吹き飛ばす。
「ラアアアアアアンズ!貴様かあ!」
「ああ、そうだよガンズ。しかし、手ひどくやられたな。」
「やはり、やはり貴様がレジスタンスのリーダーか!」
「ああ、そうだ。すまないが、戦争は止めてくれないか。」
「断る!」
ガンズは腕ごと銃を叩きつける。しかしランズはそれを鉄の足で軽々そらす。
「無理だガンズ。お前の制圧力、そして俺の機動力、二つでこの町を守ってきたんだ。銃を失ったお前に勝ち目はないぞ。」
「だが!それでも引けん!あいつの仇を取るんだ!スミスの仇を!」
「たのむ。やめてくれ。戦争はしないでくれ、ガンズ。」
「駄目だ!戦争をしなければ!そうじゃあなければあいつらは!俺らの子供の死はなんなんだ!」
「たのむ、俺は孫を戦地に送り出したくないんだ。」
「それはお前の勝手だろう!何もない俺は!そんなものは関係ない!」
「それじゃあ私にとってのお前がお前にとっての教会になってしまうんだよ。」
「う、うあああああああああああ!」
ガンズは壊れた銃身を何度もランズに叩きつけるがランズは足でそれをさばき、遂にはガンズを蹴り飛ばした。
「うお!」
ガンズはあおむけに倒れる。マビダ達に脚の関節を破壊された影響か片足がうまく動かずすぐに立てないようだった。
ガシュン、ガシュン。
ランズが町長に歩いて近づく。その一歩一歩は歩みと思えぬ振動を放っていた。銃を構えながら悠然と歩くランズを見て、ガンズは脱力し仰向けに倒れた。
「どうすればいいんだ。」
ガンズはつぶやく。ランズは見下ろす位置まで行き、止まる。
「俺は教会のやつ共に復讐をする為に必死で頑張ったんだ。同調してくれた者達も沢山いる。何よりもこの思いは、この恨みは、痛みや悲しみはどうすればいいんだ。」
ランズはその独白を黙って聞く。
「どうすればいい。俺には何もないぞ!戦争を起こさずに生きるにはどうしろというんだ!」
その声を聴くランズの肩はひどくうなだれていた。
「もう殺してくれ。」
先ほどまでの大声が打って変わりガンズは小さな声でつぶやく。
「いやだ。」
ランズの返答は早かった。
「もう殺してくれよ。」
「殺せるわけないだろう!」
そのランズの声はあの小柄な体から発されるものと思えないほど大きかった。
「一緒に飯食って、仕事して、戦って!戦場で背中を預けた友人を、同じ思いを持つ親友を殺せるわけがないだろう!あの天使との闘いだって私がもっと動けていたら、スミスも、リブも、両方助けられたといつも考える!」
ランズは叫んでいた。
「無理だ。あの戦場では、無理だった。」
「わかっているんだよ!我々の意志を考えるなら戦争はするべきだ。だけど、俺にはミズとアクスがいるんだよ・・・。あいつらをあの戦場に出すなんて事は俺にはできないんだよ・・・。」
ランズは泣いていた。ガンズからもすすり声が聞こえる。
「ああ、わかったよ・・・。俺の戦争のように譲れないものがお前の孫ってことなんだな・・・。」
その声のやさしさはまさしく友に語り掛けるものだった。
「勝負は俺の負けだ。俺は町長を降りる。あとはお前がやってくれ。」
「駄目だ。」
「なに。」
「俺にはお前ほどの手腕はないし町全体のとりまとめができない。ここまで復興し、さらに発展させたこの町はお前が作りあげたものだ。私はお前のようになんてできないよ。」
「お前、相変わらず本当にひどいやつだなぁ。くそう、ちくしょう、うああああ。」
そういって老人二人は大いに泣いた。気が付けば窓や扉や空いた屋根からたくさんの人が集まっていた。そこに殺気は全くなかった。
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