第100話末端


「水の竜に会う前に話しておきたい事が、

 幾つかあります。」


「?」

食後にフカフカの一人掛けソファで寛ぎながらぼんやりと考え事をしていたら、またもや真面目な表情の雷の竜から良くわからない説明を受ける事になってしまい、不思議な気分だ。なんだか今朝からライトニングさんは変に話を急いでいる気がする。


 正直私としては派手に吹き出した後で急には落ち着かない。とりあえず床に置かれたその鞄の中から頭だけを出している雷の竜にはせめてもう少しソコから出て来てもらわないとジワジワと笑いが襲ってくる事を伝えたい。しかし直に食事の後片付けを任されているメイドさんが来るのもわかっているので敢えてそのまま話をしてもらっていた。集中力を養う為の修業だ。精神統一。


「鋼の竜や私が世界を離れる事になったのは、

 友人にも一因がある事です。

 力を与え行使を許したのは我が王であり、

 我々はその末端として結果を収集し、

 自身は帰還することになります。」


「…うん。」

 何が言いたいんだろう?


「貴方がたは生まれ落ちた世界の主人公ですが、

 我々は違います。

 この世界にとって我々は、貴方がたの存在に、

 紐付けられたオモチャに過ぎません。

 もう一つ段階の違う世界の存在を考えた時に、

 我々はその世界の住人と名乗れる者です。

 魔女には理解してもらえるでしょうか。」


「……世界を跨ぐのが当たり前の世界の人?」


「それで構いません。」


「オモチャっていうのはわからない。」


「…正体がないのです。ここに在る私は、

 物質であり力であり意識ですが、この世界や、

 例えば魔女の住む世界の定義ではおそらく、

 私は全体の中の一部でしかありません。」


 ん?なんかどっかで聞いたような話だな。

「……竜は全部繋がってるんでしょ?

 それはもう聞いたし、何となくなら解る。」


「我々は深く潜ると同じものです。

 つまり水の竜と私も同じものなのです。」


 ………?は?

「ちょっとそれはわかんない。

 だったらなんで普通に情報共有出来ないの?」


「この世界では別の個体だからです。」


「だったら別の人じゃん。」

何が言いたいのか良くわからないが、私の感覚ではそれが正しいので言わせてもらう。


「その通りなのでしょう。ですから、

 火の竜と水の竜は別の人です。

 私もそのように聞いています。

 ですがそのような、この世界の理が、

 我々の本来の役割を阻害しています。」


「ん〜〜あ〜〜、この世界と人に合わせると、

 捻れる未来を何とかする仕事は、

 やりにくくなるだけ、ってこと?」

本当に何となくのイメージでしか掴めないけど、大雑把に言うと竜達の本来の能力に縛りが生まれてしまっているということだろう。多分。おそらく。

「無視したら駄目なの?ソレ。」


「勿論それも出来ます。友人次第です。

 つまりはそういうことですよ。」


「何が?」


「貴方が選び取るのです。

 それは貴方が選んだ者達に受け継がれる。」


 ………………………は???

 ………ぅえ!??

「ちょっと待った。………それって……。

 いや、でも、確かに、そうかも……だけど…。」


「どうしました?」


「それって、なんかそんな、単純で小っちゃな…。

 なんていうか、考え方とか発想の問題??」


「どうでしょう。私には判断出来ません。

 貴方がそう考えるのならそうなのでしょう。」


もっと物理的な、実際ナニカを掌握するようなコワイ存在なのだと思ってたんだけど。大魔女って、本当に何でもない只の人??

 …は!!私がそうなんだから、そうじゃん!!

この世界で私が大魔女と呼ばれている事実を、私自身が理解していなかった。これでも大魔女なんだから、コレが、大魔女なんだ。それでいいのかとは思うけど、これでいいと言うしかないのだ。


「……私も良くわかんないけど、それって、

 アイデアとか、文脈とか、見解とか……、

 なんかそういうのじゃない?」


「大魔女には力があるのでしょう?

 火の竜と水の竜が帰還しないのは、

 そういった事情もあると理解しています。」


「ユイマはそう信じてる。…そうなのかもね。

 ……でも私は偶然近くにいただけの人で、

 ユイマが知ってる大魔女とは違うものだし、

 …それはそっちも解ってるでしょ?」


「我々には貴方がたこそ正統な魔女です。」


「ユイマの事?」


「ユイマも含めて。」


「……どうしてユイマだったの?」


「貴方と似たような理由です。」


「大魔女って誰でもいいのかよ…。」


「突き詰めれば、その通りです。

 我々は何度でもやり直せる。」


「言い切ったね?」


「それでも完遂しなければならないのです。」


「……火の竜と水の竜は見張りでしょ?

 帰還しない理由、って、本当は帰るものなの?

 竜達は皆、帰りたかったの?」


「置き去りですからね。

 我々の一部であるからには気になります。」


「放っといて帰ればいいじゃん。」


「我々は始めに拒絶されました。

 それではいけないというのは、

 検証の結果です。我が王の決断です。」


「……それは………お気の毒様、です…。」

まだメイドさんは来ない。ついでに聞いておこう。

「私でも駄目なら、次はどうするの?」


「…私には返答出来ません。

 想定は存在しているとは言えないものです。

 過去と未来は常にそこに在ります。

 今の貴方が唯一無二である為に、

 時空は全てを内包するものなのですよ。」


 ……そっか。

さっぱり意味がわからない。やっぱりこの旅の行く末は心配することも出来ないものらしいな、ということだけが頭に残り、ようやくその先にライトニングさんが話していた事を思い出した。

 ………同胞に任せる…だったっけ?

雷の竜が帰還する未来は実はすぐそこに在るのだろうか。

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