第96話共感
「はじめまして。…私は、……え…、
エリアナ=クェスターニアー=ファルー、
といいます。……ウィーノの姉です。」
緊張した様子で話し始めたエリアナお姉さんだが、既に竜の能力を知っているのだろう。すぐに意識してしまった為に思うように話せなくなったと思われる。ウィノ少年とは正反対に、必要以上に固くなってしまうタイプのようだ。私には親しみやすい魅力的な容姿なのに、自分の身に起こった超常現象に恐れ慄き、遂には俯いてしまって目も合わせてくれない。
しかし…わかる…!ものすごく共感出来る。
いいひとだったらいいなぁ。
建物正面の両開きの扉の前には屋根が張り出したエントランススペースが設けられていて、その下に立つお姉さんは三段ほどの階段を降りて私達を迎えに来ようとしたのだが、緊張のせいか階段で一回、煉瓦道で一回、危うく転けそうになった。何とかウィノ少年の近くまでたどり着くと、自分の失態に自分でウケているようで、朗らかに笑っている。個人的には確かな姉弟の繋がりを感じるシーンだ。
「もう一人、妹がいるんですけど、
まだ小さいので遠慮させていただきます。」
躓きから立ち直ったエリアナお姉さんは、笑顔できょうだいの説明をしてくれた。何か吹っ切れたのか、畏まるどころかやけに押しが強い。キッパリとした言い方をする人だ。
妹…さっきの人影がそうだったのかな?
チラリと考えたが、小さいと言うほど小さな影では無かった気がする。
……領主家の人、かな?
率直に言えば領主家のお二人の名前が気になるのだが、領主家別邸の火災の件はファルー家の方々には直接関係のない事だから、ちょっと躊躇ってしまう。
「大魔女様は買い物を希望されていると…。」
お姉さんがウィノ少年の顔を見て確認を取っている。うん、と頷く少年に納得したようにコクコクと何度も首を縦に振ると、私の方に向き直った。
「手広く商売をしている友人が来ています。
あと…私は革製品をデザインから造っていて、
…良かったらそちらも見て行って下さい。」
見た目の印象からは意外に思えるけれど、エリアナお姉さんの声は聞くほどに細く脆い。けれど明るい話し方だとも思った。図々しい自分を笑うようなニュアンスで、ちゃっかりとセールストークを繰り広げると、フフ、とまた一人でウケているかのように笑っている。もしかしたらコレがデフォルトなのかもしれない。
自分で物を造って売っている先輩に興味を持ったのか、ナクタ少年が"皮か〜、皮も良いよなぁ"と謎につぶやいていた。土産物屋として、ちょっとやってみたかったのだろうか。
玄関(だと思う)扉に向かう途中で不意にハッと何かに気が付いたウィノ少年は、お姉さんの隣を歩きながら、あまり聞きたくはなかった実に残念な話を教えてくれた。
「鞄や靴はオーダーメイドも出来るんですけど、
今の状況だと難しいですよね?」
!
それをタダでやってくれるなら、是非とも欲しかった。オーダーメイドの鞄とか靴とか、お財布やカードケースだって…!しかし少年の言う通り、そんな呑気なことを頼んでいる場合ではない。
断腸の思いで首を縦にして頷く私。残念だ。本当に。心から!
雷の竜は私の足元を翼を閉じたまま歩いて?いる。どう考えても歩幅がおかしいので、足を動かしながら滑るように浮遊して移動しているはずだが、どうしてか私には歩いているように見えた。真面目にツッコむとキリがないから、これ以上竜について考えるのは止めておく。
おそらくドローンのように移動していると思われる雷の竜がエリアナお姉さんに話しかけた。
「長い年月を経てもあの湖は変わりませんね。」
「!!あ…えっと、そうですね。」
ガチガチだ。お姉さんを困らせるんじゃないよ。
「私がここに来たのは、もう随分昔です。
誰も知らないことですが、解りますよ。
貴方は何番目のクェスターニアーですか?」
「え!?」
ウィノ少年が驚いて声を上げた。
「!!………あ、ご存知で……。
私は、十七人目だと聞いています。」
「……ミドルネームが受け継がれるんですか?」
「え??……あ、古い名前のことですか?」
私も困らせてしまった。ミドルネームとは呼ばないんだな。
「ウチの血族には、大戦で活躍した英雄や、
当時の指導者達の名前が与えられます。
…弟はアルヴァラートというんですけど、
アルヴァラートもクェスターニアーも人気で、
クェスターニアーは同時に三人もいるんです。」
急にペラペラとおしゃべりになったエリアナお姉さんと話の内容に驚きつつも、何となく解ってきた。話のネタさえあれば積極的に喋れるのだろう。
わかる。そういうの。そうだよね…。
嘘付けないのに、下手に話も出来ないよ。
…いや、決めつけるのは良くないか…?
しかし有り得ると思う。傾向として明るくて面白い話が好みと見た。私の勝手な勘違いかもしれないけれど、この世界で初めて会った、自分に似たタイプの人を前に期待してしまう。
……ログラントで初めての、友達に、
なってくれ…ないかなぁ……。
本当にあった面白い話のネタなんて、そうそうない。話してくれそうな時に話しかけないと。
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