第92話意外
「大魔女については水の竜とも話しましょう。」
雷の竜はお座りしたまま淡々と結論を伝えた。
行方不明の大魔女は放置なのか…。
実感はほとんどないけれど、私も一応大魔女ということになるので、他人とはいえその行く末に関心はある。(本音を言うと、そろそろ大魔女らしい有り様というのを誰か教えて欲しい。)
ぶっちゃけ誰でもいいのなら、どうして為政者や権力者がならないのだろう、とも考える。
私は至上の力をも手に入れた究極の支配者なのだ!などと宣う唯我独尊の自称パーフェクトヒューマンが突如として牙を剥き、世界は暴力の脅威に支配され人々は恐怖の渦に飲み込まれてしまう…なんていうルートを想像してしまうのはやはり創作物の…。この流れ二回目か。人類が羽目を外す理由はパワーだと、頑固に信じている自分がいるな。有り得ないわけじゃないとは思うけど。
火と水の竜からすればあくまでも炎嵐と清流の大魔女は見張りのサポート要員なのだろうし、私はどうやら世界の危機を何とかする為の助手であって、そんなにいい気分でやってるものでもない。
実際は炎嵐と清流も私と変わらないのではないかと推測する。(何となく同級生みたいに呼んでしまったが、勿論全然知らない赤の他人。)人類サイドからの待遇は非常にいいはずだとユイマは信じていたのに割とそうでもなかった。パロマさんには人権なんかないと言われたくらいだ。
魔法は上位が有利だから、竜が上なのは、
何をどう頑張ってもひっくり返らないし…。
というか、この竜に反逆しようとしたら、まず頭の中を弄られる危険がある。やっぱり怖い。
……あ、そうだ、竜といえば……。
今ならちゃんとミズアドラスの人達にも教えてくれるだろうか。ちょっと緊張するけど…。
「水の竜はどうして出てこないの?」
少し驚いたように、ひくりと顔を上げてから竜の目が私を見た。瞼を降ろして首を傾げると再び琥珀の様な瞳を細く開いて見せる。なんとなく悪戯な光だ。愉快に思っている気がする。
「大魔女がいないからです。」
「大魔女がいなければ、
会えないわけじゃないでしょ?」
「大魔女がいないのに自由に会えるのならば、
大魔女はおそらくミズアドラスから、
排除されたでしょう。」
「は!?……え?そんな理由?
結界とか、すっごい困ってるんじゃないの?」
「それでも水の竜は便利な道具でも、
人類の脅威でもあってはなりません。
我々と人類の間に在る唯一の約束です。
守らなければならないルールです。」
「……竜はそう思ってても、
人類は助けてくれた方が有難いでしょ。」
「そうでしょうか。これはファルーの子にも、
理解出来ないことですか?」
「いえ、今なら解ります。ん゙ん、
多分…有り得ます。…恐ろしいことですけど。」
口に手を当て慎重に言葉を発するウィノ少年は、知的で随分と大人びて見えた。状況に合わせて驚くほど印象が変わるのが、私にはなんだか奇妙で、面白くも不思議。どうしたらそんなに器用に振る舞えるのかわからない。羨ましいスキルだ。
「……私は清流の大魔女じゃないんだけど。
だいたい雷光の大魔女だって、
ライトニングさんが適当に決めて、
勝手に連れて来られただけだし。
そんなのでも水の竜は出て来てくれるの?」
私なりに気張って長文を喋ったら、ウィノ少年が信じられないものを見るような顔で私をガン見してくるので、思わず息が止まってしまった。
え?また何か変なこと言ったか私??
歳下相手に動揺してしまう。ウィノ少年という子は対話に於いて妙に貫禄があるのだ。
「魔女が気負う必要はありません。
私が呼べば姿を見せるはずですから。」
あ、そうだった。そう言ってた。
竜の言葉を聞いて、前に話していた事を思い出した。そうだった。ミズァドラ湖からザパーッと出て来てくれるかもしれないのだ。ライトニングさんもカワイイ感じだから水の竜も期待大。そんな風に想像して、楽しもうとしていた時期が私にもありましたね。そういえば。
ぼんやりと記憶を辿る私を余所に、ウィノ少年は大げさに思えるくらい困惑した様子でドン引きしている。かと思ったら突然、疲れたように大きく溜息をついた。
「大魔女様って…なんなんだ?」
「人類の叡智を象徴する御方、とかだろ。」
「どういうこと?」
「知らん。」
ナクタ少年は呼応するように滑らかに会話を拾う。今更だけど、彼は目の前にある事を洞察して掬い上げるのが異常に上手い。本当に意外なことに、どちらかというとツッコミがナクタ少年で、ウィノ少年はボケの側だ。漫才に例えると。
相方に知らんと言われてもウィノ少年は嬉しそうに笑っている。よく笑う子だな。ツボが良くわからないけど。
それにしても"人類の叡智を象徴する"存在って、ウィノ少年の言う通り如何にも抽象的だ。
大魔女様ってミズアドラスだと、
思慮深くて凄く上品なイメージなのかな…。
それはウィノ少年もドン引きするだろう。全く反省するつもりは無いが従来のイメージをぶち壊してしまったのであれば申し訳ない事をしてしまった。リッカ少女の時といい、ユイマとも違う考え方をしている人々とは手探りで何とか関係性を築かなければならない。私には超難題であるから半ば以上諦めている。やっぱり現代世界と同じだ。
ユイマの知る大魔女様はもっと偉い人で、一般人には雲上人だと思われている。魔法使いの尊厳を守り、人々に恩恵を与え、魔法世界の頂点に立つべきであると火の竜という人外の頂点から認められている、知性と権威の象徴にして絶対不可侵の魔の最高峰だ。
……………誰の話してんのかわかんない。
信じられない。確かに。……今更だけど。
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