第87話約束
「…………。」
つまり、竜は私達に……自分で捜させている。
可能性に任せていると言ってもいいかも…。
"そのように聞いている"…てことは、
それが王様の意向なのだろうか。
私はその為に召喚された魔物みたいなもん?
近い世界だから相互に影響する…。
異世界から来てもいいものなのかな?
考えてもわかるわけがない。聞くのが一番だ。二度目になるけれど。
「どうして異世界人の私なの?」
「……………。約束を守って頂けたからです。
ユイマ=パリューストは、
神竜カーンの末端たる魔獣ホロンを呼んだ。
ログラントに流れる魔力の脈を巻き込み、
貴方の世界と水の竜に由来する道具を使って、
召喚という形で空間に触れてくれました。
失敗は問題ありません。座標は同じ。
この世界の存在ですから、
条件として必要なのは彼の地に在る事です。」
「……??え??」
言ってることが何一つわからない。
ユイマが魔獣ホロンを呼んだのは、上級魔法に挑戦するため、とかじゃないのかな……?
記憶では思考がハッキリわからないが、魔法のレベルとして不自然な難易度ではない。ホロンは召喚の入門として最適の、ありふれた魔獣だ。竜が与えたものと言われた矢尻はユイマの家に幾つかある、召喚などの魔法陣を描くのに便利な道具の一つであり、非常に上質なものらしいので所謂勝負用に使われていた物だ。パリューストの家の人間は大抵あの場所でホロンを呼ぶのが通過儀礼のようになっている。あの場所は……あの山のような丘は、特に何の変哲もない…パリュースト家の持ち物の一つである。近くに建物が無く開けた場所だから召喚魔法陣を描くのにはうってつけの……つまりは、家の人間にはほとんどそれ専用の場所になっている、ただの空き地だ。
「貴方に会うのは初めてですが、
ユイマに会うのは初めてではありません。
私の力は時間と空間に作用します。
更には貴方がたの記憶を狂わせる。
前にも言ったように起きてしまった事は、
無かった事には出来ません。しかし、
例えば…事によっては起きる前ならば、
物理的に跳び越す事も出来るのです。」
!!?は!!?物理的に!?
……ちょっと何言ってるのかわからない…。
「き、記憶を……書き換えるの?」
「貴方がたには、それに近い現象が起きます。
同時に私の存在する世界のもの、
或いは生き物、に限りますが。」
「…ユイマに会うのは、何度目なの?」
「二度目です。
領主の妻が言っていたでしょう。
フーリゼの雷光の魔女こそユイマです。」
「!!?え………?!!
………つまり………時間を越えたの!?」
「その通りです。
時間を超えた存在にも頼んだのです。
その結果として帰還したのは、
偶然ですが必然なのです。
ユイマは当時の魔の扱いに疑問を持ちました。
反発が酷く、世界に訴えると話し、
それを手伝うわけにはいかないという、
私と対立することとなりました。
我々への拒絶ではなく不信が理由です。
…何であれ竜と人類の対立はいけません。」
!!一回やらかしてるやん!!
それでなんで帰還が有り得ないとか、
堂々と言えるかな!?
そりゃ理由はユイマの方にあるけどさぁ…。
「……で、なんでまた同じユイマに?」
「ユイマの存在は十分に生かされました。
彼女は大魔女であることに使命を感じて、
我々と深く対話する姿勢を見せてくれました。
世界の行く末に解答が見つからない事を、
自らが果たせなかった課題と捉えていた為に、
出来うる限り我々に協力する約束をしました。
約束のひとつが貴方の使っている身体です。」
「?この身体?」
「異世界の来訪者を提案したのは我々ですが、
ユイマは反対し、この世界についての、
深い知識が必要だと主張しました。
魂を移す魔術が最適だと言いだしたのは、
ユイマ本人なのです。
生命は我々の扱える範疇外ですから、
身体を器として借りるなどという考えは、
我々が勝手に創れるものではありません。」
「……ユイマはそんな記憶ないよ?」
「私の力を使った結果でしょう。
しかしユイマは一人の魔女として、
約束の為にパリュースト家に跡を残した。
安全性を重視して万全の用意をしました。
パリュースト家は魔法使いの矜持を持ち、
認められた大魔女ではありませんでしたが、
私の存在を歓迎してくれました。」
「その当時の自分の家に、未来の自分の為の、
召喚のやり方を残した…ってこと?」
「素晴らしい。その通りです。
ファルーの矢尻は我々が差し上げたものです。」
「……。いつの、ユイマのこと?」
「貴方がここに来た時と近いはずです。
座標の一致を活かした方が合理的ですから。」
……そういえば、なんか変だったな。来た時。
どっちが自分かわからないような……。
この世界にやって来た私と、
魔石の中に入るユイマとが重なった…
だけじゃなくて、
時空を超えるユイマも近かったから、
記憶を狂わせるおかしな力でもって、
マゼコゼになってしまっていた、と。
つまりユイマは家の慣例に沿って魔獣ホロンを召喚するとともに、おそらく私の時と同じ様に時空を超えて過去のログラントを巡る旅をした。その直後に、いや帰って来ると同時に、今度は異世界人に身体を明け渡したということになる。なんてことだ。大忙しだ。合理的だからって、同じ処(座標とやら)に重ね過ぎじゃないの?
安全性の為の措置の意味は良くわからないが、条件が揃う程に安全なのだろう。多分。
そういえば……もしかしたら私も、
あの時に帰るのかもしれない……。
「……やりたい放題に見えるけど。
それのほうが危なくないの?
世界を捻じれさせちゃうんじゃない?」
「我々はやるべきことをやるだけです。
これくらいは王の手の内という事ですよ。
そうでなければ力の行使は許されません。」
力の行使…使えるなら許されてるって判断?
………まてよ!?
「グラ家は結界を張っていたと思うんだけど、
物理的に跳び越して、入った?」
「……少し違うものですが、
そうですね。あの時は力を使いました。」
やっぱり!!
「バチバチに帯電してたんだ…。」
「魔女はよく眠っていましたよ。」
「……そうかもね。」
おかげで全く覚えてません。
それよりすっかり失念していた。結界やら転移やら、魔法の事はユイマの知識が頼みなのに竜の力は魔法とは別物なのだ。生きた魔力には反応があるとは語っていたけれど、結界が破壊に至るとは言っていなかった。そういえばウズラ亭も守りは固いみたいなことをウィノ少年は言っていた。イド氏が恐れた理由はコレだ。
ぶち壊しすわけでもなく、なんの理屈も通用しない力で押し通ったのだ。その、物理的に跳び越える?力か、もしかしたら竜の周りの結界の効果かもしれない。
あの時、帯電してたかな?
風呂敷に包んでいたからか周りが騒がしかったからか、よく覚えていないが、魔法に守られている場所に竜のような存在が普通に入れてしまったのだから何かしらやっていたのには間違いない。
魔法使いとしての知識に自信がある者ほど、意味のわからない事態は怖い。そんな理外の力を目の当たりにするよりは解りやすく破壊される方が健全で、例え打ちのめされたとしても、ずっと心に優しい。
けどもっと恐いことに、それが確かなら、
<讃える会>は自力で結界をなんとかしたんだ。
……随分差がある。ここは聖地だと言うのに。
聖カランゴールは本気で守るつもりがあるのだろうか。イド氏じゃないが、なんだか心配になってきた。
水の竜が姿を見せない理由もわからない…。
朝から頑張ったおかげでやっと、今日やるべき事が少しわかってきた。
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