第24話知性


 ……そうですか。

 私には想像するしか無いし、それが合っているのかも正確には解らない。こうして生きた語り部がいない限り知りようもない事だ。話が大雑把なのが気にはなるけれど、確かめる術もないのだから信じるしかない。今のところは。

「竜が火や水を操るのは人類に力を授ける為、

 ではなかったの?」


「我々はその目的で能力を授かっています。

 世界に干渉出来る住人には知性が必要である、

 というのは我が王の考えです。」


「ああ…そうか、基本的にはユイマ達って、

 大魔女が現れてからの事しか知らないんだ。

 大魔女が語った事は竜から聞いた事か。」


「断言は出来ませんが……。

 世界に広く知られる事については、

 そうかもしれませんね。」


 …白々しい。好き勝手言ってる可能性がある、

 という意味なのか?いや、知ってるんだから、

 単に、言わないだけか。

 しかし大変だな火と水の竜。

 考えが裏目になることはよくあるとはいえ…。

 竜の王もこの苦労は知ってるのか?

 勿論私達としても、知性は大事だし、

 意図して奪われるなんて甚大な権利侵害だ。 

 それこそ冗談じゃない。

 ……扱いが難しいって、そういう事かも。

 あはは、何様?って、竜様か。

 あくまでも、与えている、というスタンスね。

 成程。事実なら仕方ないか。事実なら。

 

「炎嵐と清流が争う歴史はなかったでしょ?

 竜が止められたから、大丈夫だったの?」


「その通りです。」


「炎嵐と清流の大魔女は、大昔は、

 今とは違う所に住んでたの?」


「そうです。よく気づきましたね。」


「ノエリナビエはジャシルシャルーン、

 ネルロヴィオラはミロスの…農村の娘だっけ?

 それは本当の事?」


「……初期の争いの舞台は、

 ミロスでもカランゴールでもありません。

 ノエリナビエの伝承は、この地にあります。

 初代ネルロヴィオラについては、友人である、

 火の竜に直接聞くのが良いでしょう。

 資料を遺すことなど考えもしない、

 語られる他に伝達手段もない時代ですから。」


「他人の友人は悪く言わないルール?」


「そうではありません。

 お世話になった人やこれから会う人々の

 常識には口を出さない方が良いですよ。」


ああ、はい。余計な事を言われたくないんだな。慎重過ぎる気もするけれど、大魔女なのだからと言われたら、慎重過ぎて丁度いいのだろう。そんな事よりも今の私には大変に気になることがある。

「鋼の竜と冥闇の大魔女が現れたのは、

 本当のところ、なんでなの?」


「人々が望んだからですよ。

 さらなる知識と力を。」


 ……また、はぐらかされている気がする。

火の竜が水の竜を呼んだ経緯と同じように、貴方達が呼んだんじゃないの?と考えるのは普通だと思う。今回だってそうなんだし。

だいたい、水の竜が動けないというのなら、火の竜だってそのはずだ。水の竜だけが何の理由で困っているのだろう。この世界の困り事に、代表して水の竜が仲間を呼んだのか……。(魔法弓兵ファルーの矢じりが各地にあるから、バレないように力を使いやすかった?)

世界を越える為には大きな力が必要だ。竜であっても世界の内側からは境界を自由に越えられるものではないらしい。いや正しくは、人類にバレずに境界を越えて通信するには遠回りな方法を取らないと不可能であるらしい。

魔力の気配を消して、なんてことは確かに無理だろう。この世界では魔力は物理なのだから。

同一世界に来てしまえば、何かしらの方法で話が出来るみたいだけれど。……寝ている間にやってたみたいな事を言っていたな、そういえば。

ユイマが使った召喚魔法自体は微弱なものだけれ

ど空間に働きかける魔法には違いない。そこに竜の魔力と能力を上乗せ出来れば、それが出来るようなものならば、利用するには都合が良さそうだ。(この理屈だと同じ事が出来てしまう骨董品の剣や防具も残っていそうだ。)

彼の地、というのは何だろう。ユイマの学校の近くの山の中だったはずだ。特に意味はないのかな。

ちなみに、ファルーは聖地では有名な名前なのかもしれないが、ユイマは全く知らなかった。魔法弓兵が活躍したのは学校で習っているから、何となしに記憶している。

「竜は人類のせいで、この世界に

 縛りつけられてしまってるみたいだね。」


「基本的には、どちらかというと見張りですよ。

 下手に動かない方がいいという判断は、

 火と水の二人の考えであって、

 私もやはり、遠回りだと思います。」


「二人が残るのも、バランスを取るため?

 鋼の竜は帰ったんでしょ?」


「人類に退けられましたね。」


ガードが固い。よほどデリケートな問題か。

「もしかして大魔女って、

 体よく治める、鶴の一声みたいな役目?」


「……竜は人類の歴史を操る者ではありません。

 私は個として、各々の世界の住人に、

 何もかも全てを教えるのは避けたいのです。

 先程も伝えましたが、

 我々にも出来ない事はあります。

 世界を捻れさせることは止めたいのですが、

 元を辿れば我が王の創造物とはいえ、

 貴方達の生命は複雑で綿密な経緯の結果です。

 その生体はすでに貴方達の造ったものであり、

 我々が操れる事も限界があるのです。

 出来る限り、生命の行く末について、

 我々は干渉すべきではない。

 ……人類を納得させることは、

 恐らく魔女にしか出来ないと考えています。」


珍しくため息でも付きそうな雰囲気だ。無理解でスミマセン。竜としても気が重いのかな。

干渉すべきでないなら、一切干渉しなければいいのに。力や知恵を授けている時点で矛盾している。与えて思い通りに調整しようとするのは、余計にタチが悪いと思うのだけど。

 知性を与えるべきというのは竜の王の考えで、

 世界の捻れとやらを何とかしないといけない、

 というのが竜の立場だったな。

 ライトニングさんは個として、と言っている。

 てか、そもそもの王様が動けばいいじゃん。

 考えは素晴らしいけどね。結果最悪だよ。

 世界が消えてもどうでもいいのか、王様。

 竜も実際に起きた事の報告はしないの?

 お前の考えた通りにしたら起きた事だよ、

 お前が何とかしろよ、とはならないの?

 王だから偉い、というか、造物主なんだっけ。

 最初に造っただけで、責任者ではないか……。

 いやでも、知性与えて来いと指示してるなら、

 責任とれよ、てなるだろ普通。

 竜達に丸投げしてる感じで、気に入らんわ。

一方的に与えるだけで終わらないのなら、やはり支配したいか緊縛したいだけだ、というのは言い過ぎなのかもしれないが、そうなりがちな状況を作るだろうに。ここの人類の性格にも依るけれど。

 竜達は、親みたいな気分なのかなぁ。

 人類は、やりたい放題な子供で、

 手を焼かせてきた過去がある……。

しかし成程。竜というのは、こういう事を話してくれる存在なのか。ワリとありがたい。

 あ、でもそれはきっと私が異世界人だからだ。

 他の大魔女から見たら、どう映るんだろう。

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