第23話大戦


 へ?

「あ………や、そんな事言われても。

 何をどうすれば……何が出来るのか解らない。」

こんな事を聞かされて、どうしろと。助けるも何も、多分理解出来てもいないのに。


「すべて説明します。

 ユイマの召喚失敗は事故ですが、

 それ以外は我々に責のある事ですから。」


「まず、異世界人にしか出来ない事って何?」


「魂と肉体に縁故がありません。

 境界を越える事で、何者でもなくなり、

 祝福を与える事で、何者であったとしても、

 世界に適応出来る。」


「それが、いい事なの?

 この世界の人が選ばれるよりも?」


「そうです。火の竜と水の竜の判断です。

 開放を与えれば良いのですが、

 否定されましたからね。」


火の竜と水の竜だったのか、良く言ってくれた。

ちゃんと同胞の意見は聞くということか。いつ話したのかは知らないけれど。前から決まっていたルールなのか、良く解らない空間に集まる事が出来るとか、なのかもしれない。漫画みたいに。

「火の竜も知ってるんだね。

 目的は同じということ?」


「今も住みながら守るのには、理由があります。

 その世界の住人が、異界に干渉する術を持つ、

 ここは非常に稀な世界のひとつです。」


「私がいた世界もそうなの?」


「……それを不用意に教えるのは、

 良い事ではないでしょう。

 貴方自身の世界の事ですから。」


教えてくれない事もあるか。まあね。理解出来なくもない。


「水の竜が遠回りに自分の力を使って、

 竜の王に助けを求めるのはどうして?

 自分で何でも出来るでしょ?」


「水の竜は動けないのです。

 以前に冥闇の軍勢と戦って以来、

 信仰の対象であり、異常を起こせばまた、

 人類社会はどう動くか解らない。」


「また?」


「過去の話ですが……。この世界は、

 文明の初期に、友人の存在を拒否したのです。

 我々も人類と共に居たい訳ではありません。

 誤解や曲解は私には度し難い事です。」


 ……?ちょっと解らない。

眉根を寄せる私を無視して竜は続けた。

「冥闇の軍勢との戦いを、

 この世界は三竜大戦と呼んでいます。

 そこで広く竜の力が知られる事になった。

 ユイマは理解出来るでしょう。」


確かにユイマは学校で習っている。冥闇からの軍勢とは、鋼の竜と冥闇の大魔女が率いた魔法使いと魔物達のことだ。

ミロスの地方都市ダフロが襲撃を受けたことから始まり、周辺都市部各地に国家転覆を企む魔術師団体のネクロマンサー(これは言葉通り死霊使い)が蔓延ったのが、恐ろしい事態を招いた。

当時、各地で祭祀を司る者として地位のあった死霊使いが、他の国や地域においては忌まわしい術とされて差別された為に、魔術師団体には多くのネクロマンサーが参加したという。フィクションみたいな歴史だ。

ダフロ開戦は計画的蜂起であり、大きな魔力を持つ魔女と魔術師の召喚獣や召喚魔は人を殺し、それをネクロマンサーが操るという地獄絵図だったと、平和を尊ぶための授業で必ず語られる悲劇だ。

当たり前だが、とんでもないことで、魔法と魔術の非人道的使い方の見本のような大事件である。

都市中枢部では要人が洗脳されたと考えられていて、大戦と呼ばれるほどの大きな戦いになった。なんの防御もしていなかった訳ではないのだけれど(秘匿事項)、大魔女と竜がすべて覆したとされている。

 …………もしかして……。

 大魔女と竜はあんまり関係なかったとか……?

ハラハラしながら頷いて先を促す。竜は俯くと、慎重に話し始めた。


「火の竜と呼ばれる我々の同胞は、

 この世界では最古参の竜です。

 友人の存在を否定された火の竜は、

 人類の魔法と文明の発展に合わせて、

 もう一人、水の竜と呼ばれる同胞を呼び、

 孤立無援となることを防ぎました。

 人類に敵視されたために、対抗する力を与える

 べきと考えたのです。

 我々は対立しようもないものですから、

 人類自身の落とし所の問題ですがね。

 人類はそれくらいに扱いが難しくなっていた。

 その頃には、友人は受け入れられて、

 対話がある程度成立するようになりました。

 最初の対立は、この時代を基準にするなら、

 小規模なものでした。火と水の魔女と竜は、

 それぞれが分かたれた大陸に住む事で、

 分断を遠ざけて戦乱を防ごうとしました。

 そして一応は、世界は落ち着いたのです。

 ……しかしすぐに各地に戦争という、

 規模の大きな戦いが起こるようになります。

 すると人類側の何かしらの事情の為に、

 火の竜の友人は水の竜の友人と対立し、

 戦禍の火種を撒こうとした。

 水の竜が、魔女に異世界人を望むのは、

 そういう理由なのです。」


「それは……炎嵐の大魔女ネルロヴィオラと、

 清流の大魔女ノエリナビエの事?

 つまり二人は普通に……この世界の人で、

 私の方が大魔女として異例なの?」


「そうです。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る