第21話普通


 聞きたいことは山程ある。この時をずっと待っていたのだ。何がどうして私が三人目の大魔女なのか、そもそもこの世界に来た原因は何なのか。

右手には五百円玉サイズの小石が握られている。緑、黃、黒、白などの色が混ざった複雑な色合いの、ただの小石だ。

 精霊布が生きてれば、反応が見れたかな。

「……精霊布の魔力を食べたでしょ?」


思いきって、タメ口をきいてみる。怖くて俯いてないと無理だった。しかし表情は確認しないと。チラリと様子を伺うと、竜は驚いた風でもなく、暫く私の顔を見てから、丸い目を瞬いて言った。

「……不可抗力です。

 私の意志ではありません。」


知ってる。あれはそういうものだし、もうそんなもので腹の膨れる生き物ではないだろうなという予想もつく。……普通に話しても良さそうだ。

「あの……ハンディファンに興味があるの?」


我ながら前振りが長い。悪いけど、こういう性格なのだから仕方ない。


「似ているのに違うものは気になります。

 解除方法を見つけたかったのですが、

 損壊の方が早かった。」


私は、右手の中を見て俯いたまま上目遣いに竜を捉えた。半ば睨むように。まずは、わかり易そうなところから、だ。

「……この石は大魔女の魔石?」


「そうです。」


「祝福というのは、何の事?」


「光る球体の中を見たでしょう。あれです。」


「開放するとか言ってたのは何?」


「……あれはいけませんでした。

 魂の冒涜だと言われて、控えています。」


「私がずっと寝てたのは、どうして?」


「祝福によって私の力に触れてしまった為、

 と考えられます。我々の祝福は、

 世界で生まれ変わる事を意味します。」


「でも、開放すると言われて、

 意識を無くした記憶がある……。」


「魔女が自ら倒れ込んだのですよ。

 異世界を渡る疲れもあったのでしょう。

 今となっては、思い留まって良かった。」


「…………しつこいかもしれないけど、

 もう少し詳しく話してくれない?

 魔石は大体解るとして、それ以外全部。」


 予想が当たっていたのと、

 そうで無いのがあるなぁ。


「いいですね。友人らしくなってきた。」


なんだかやっぱり嬉しそうだ。不可解にしか感じられなくて、やはり奇妙に見えてしまう。

 ?友達ごっこがしたいのか?この竜は。

 何を言い出すかと思えば、

 人間みたいなことを……。


 祝福とは通常この世界でも、様々な宗教や信仰、記念行事などで使われる言葉だ。水の竜の信仰の場合は、魂の洗礼と考えられていて、ありがたくも大変なもの。敬虔たる誓いを立てるような意味がある。私の場合、はたき倒されただけで、何もありがたみはなかった。

実際、雷の竜が与えた祝福の効果は、生まれ変わるという言葉の通りであり、具体的には私にしか解らないと言われて、ちょっと私にも解らない。この世界で生まれ変わる……何か変わったかな?私。

開放を手伝うとか何とか言っていたのは、現代世界の私の魂をこのログラントに馴染みやすくする処置なのだそうだ。

クセになっている論理を組み直す事らしい。思考ルーチンをやり直すみたいな事か。って、何て事しようとしてくれてんの。無理矢理性格変えるみたいな話だろ、そんなの。竜って、そんな事出来るの?聞いた事も無い。常識的には魔法や魔術で可能な事ではないし、発想すら浮かばない。

確かに冒涜だ。誰だか知らないけど、言ってやった人は偉い。

 自己啓発を望んでいる人には、アリなのか?

 いや、自分の事だから許されるのであって、

 他人が出来るなんて想定されてないよな。

 ……いちいち出来ることが恐ろしいんだって。


本題はここからだ。

「私がこの世界に来たのは何故?」


「魔女だからです。」


……ん〜。足りない。ここからが大事なのに。

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