第17話信仰


 ここの人とは、もう顔を合わせるのも憂鬱なのだけれど、外に出たら生きていける自信もない。

泊めてもらって、只で食事まで出してくれたのに酷い言い草かもしれないが、私にしてみれば結構な事件だったのだ。気持ちの問題と言われればそりゃそうだけど。


 あの後ルビさんから話を聞いたラダさんがやって来て、詳しい事情を話してくれた。竜はある程度知っているのか澄ましていたが、いや、知らなくても何の問題も無いから無関心なだけか。

ともかく私は初めて聞く内容で、謝罪、とか言い訳、だけではないものだった。


ここミズアドラス自治領を治める領主様と奥方様は、現代世界で言うところのパワーカップル夫婦で、それぞれが親しくする集団があるらしい。


ミズアドラスといえば、水の竜と清流の大魔女ノエリナビエの聖地ミズァドラ湖を擁するために、南の大国カランゴールの中でも自治領として認められている特殊な地域である。

ノエリナビエ(傾向として昔の人は名前が長い)は、ミズァドラ湖周辺に古くから住む少数民族であった為、今も彼等が竜との橋渡しをしているという。

森と湖、渓谷、珍しい竹林など四季折々、風光明媚な景観でも知られ、聖地であり観光地のイメージもある所だ。外国語が得意な人がいるのは、その為だろう。


 ミズアドラスをきちんと理解するには、長くなるが、竜と大魔女とこの世界についても知らなければならない。


大昔から在る二人の大魔女は、名前と魔石を継承することで竜との絆を守り、この世界にその恩恵を与える偉大な存在と信じられている。

その経緯と系譜については謎だらけ。

初代ノエリナビエが、どうして大魔女となったのかも謎だし、今現在誰が大魔女であるかも明かされない。だから系譜といっても名前が残るだけ。何処で何をした誰だったのか、世界中の人々は何ひとつ詳しい話を公表されないまま、ただ噂や風の便りにその偉業やら活躍やらを耳にする。

これは火の竜と炎嵐の大魔女ネルロヴィオラも同じである。


 よく理解出来ないんだけど、

 それでも信じるのが、

 このログラントという世界の常識なわけだ。

 ある程度通信手段もあるのにレトロだよな。

ユイマの記憶では、ミズァドラ湖周辺の人々は民族総出で竜と大魔女を信仰する聖職者のような役割を担っているという話を聞いている。

 ………あれ?

 ジャシルシャルーンのことか。

 グラ家の方達こそ、その少数民族……。

 いや、種族が違うじゃん。

 民族って表現おかしいだろ。

 それともこれ位の違いは同種族に入るの?

 ユイマの学校が大らかすぎるんでは?

……一抹の疑念はあるけれども、魔法学校なら必ず習うレベルに有名な方々でした。私には現地の発音が聞き取れなかっただけ。

こういうの、ユイマなら聴き取れたのかな……。


ここは世界の半分を統べる聖地。

ミズアドラスの領主とは、法王や聖女にも近い意味を持つ竜と大魔女のお膝元に根を張る権力者でもある。

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