第18話謝罪

 長々と話を聞いていて感じたのは、まず何より竜の力の便利さ。恐ろしさ。

ラダさんは最初のカワイイ印象からは想像出来ないくらいに自治領の政治、権力構造や魔法と魔術界隈について事細かく話した。

(魔法は名前の通り法であり一般的な魔の理を利用する為、世界中で広く効果を発揮する。魔術は通常、個人や土地や扱う物による制約のあるものを指し、特定集団内で扱う魔法というニュアンスもある。)

途中からヒートアップして聞いてもない事まで自ら話し始め、かなり脱線していた気もするが、申し訳ないことに、正直、私には半分も理解出来なかったと思う。

解らない単語もあれば、言語変換が難しいこともある。解らないことは下手に理解しようとしない。知らんもんは知らん、で良しとしよう。

勉強不足は急には埋められないわけだから、仕方ない。必要なのは正しい情報だ。

そこが無条件に信用出来てしまうのが怖い。良いことなのか悪いことなのか。私達に都合はいいが、とんでもない悪者になった気分だ。

こちらからした質問にはすべて竜が答えさせているわけだから、他人の様を見ていると、ジワジワと恐怖に襲われる。

 ……まるで精神支配。いや、そのもの。

 ……大魔女は友人、か。

 コレが出来てしまう友人とは、

 良く考えて付き合っていかないと……怖。


 領主様はこの地域に昔からある信仰と魔術に熱心で、ラダさん曰く下々に理解ある人物のようだ。魔術は"グラ家の魔法"とルビさんが呼んでいたものだろう。ユイマも聞いたことのない呪文を唱えていたし、鏡を神聖視している様子も見ている。

領主様とラダさんは個人的にも親しく、例の魔導ローブは、領主様から貰ったものだと言う。魔術師ではないが、やはり魔術は得意で、ルビさんに教えたのもラダさんだった。

聖地は魔術のメッカである。資格や称号にこだわらなくても、住んでいれば一通り覚えるのが普通なのかもしれない。単純に頂いた物を大事な一張羅として使っているだけのようだ。(私はこんな感じの質問しか出来なかった。)


大分肩入れしているのは感じるが、ラダさんには嘘ではない事実として、優秀で目も届き、人脈も広いという。度々国内外から高名な専門家を招いたり、自ら研修に赴いたりと勉強家であることも推せるポイントのようだった。

歴史と伝統と信仰を支える責任者と言ってもいい立場な訳だから、職務熱心であるのは頼もしい。


対する奥方様は、前述の通り魔法使いとしては天賦の才を持つ魔女である。領主様とはまた質の違った影響力を持つと推測される。

ただラダさんが言うには、何と言うか、平たく言うとメジャー路線で常識的ではあるものの自分の世界を絶対正義と考えているタイプ、とのこと。

 覗きの時点で常識的ではないだろ。

ツッコまずにはいられない。

今迄の話からも、グラ家は奥方様の為に苦労している。公正な評価が難しいのかもしれない。身分の高い相手に自分自身を騙し騙し付き合っているのかな。わかる。そういうのある。


ともあれそのような背景の中、雷の竜がこの地にやって来た。

驚いた事に、竜は直接グラ家の庭に降り立ったのだという。結界やら魔除けやらは当然無視して。私と同じで、まさか竜が竜だとは思わないラダさんに、ルビさんが異常な魔力を持つ魔物だと進言した。確かに結界にも無視していいモノと悪いモノとがある。そこで領主様に報告したのだ。

ところが領主様は研修中で留守であり、事態の指揮を奥方様が執ることになった、というのが私の寝ている間に起きた事だ。

ラダさんは奥方様から、その魔物が雷の竜であり、一緒にいるのは三人目の大魔女である事実を知らされ、別々の部屋を用意してもてなすように指示を受けた。

そして件の通信手段を強要されたのである。

異を唱えることは許されない、らしい。領主様は権力者というだけでなく、信仰の上でも敬意を払うべき人物だからだという。尚更奥方様が厄介に思えてしまうのも無理はない。


「しかし、雷の竜の君と大魔女様を前にしては、

やはり私は間違っていたのです。

どうかしていたとしか申し上げられません。」


というわけで、奥方様を止められなかったことは、きちんと謝罪して引き上げて行った。

竜の前で嘘はつけない。まあ、本当なんだろう。


 何より、この話で一番気になるのは、奥方様が雷の竜を言い当てた事だ。

どうしてそれが出来たのか、全く想像がつかない。鋭い、なんてレベルではない。

少くともユイマの知る限り、雷の竜、という概念は、この世界にはなかったものなのだ。

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