第13話祝福
竜の帰還は早かった。
ついさっきまでルビさんと話をしていたところだった。帰ってきた理由は当然、マズイ事をしたことに気が付いたからだろう。そうであれ。
アイツは全部聞いていたのだから。
……………。
ダンマリである。詫びる気配なし。こっちは強めの静電気?でビビってしまったというのに。
ベッドに腰掛けて服の汚れや身体の状態を確かめていた時だった。お風呂に入りたいなぁとか当たり前の日常を恋しく思い出していたところで、
頭の上で恐怖のバチバチ音がしたと思ったら、何事もなかったかのように宙に浮いていた。今もその場に浮いている。眠っているようにも見えるけれど、このタイミングで出てきたら、狸寝入りにしか思えない。
「…………おかえりなさい。」
まただ……自分の言葉が出てこない。
酷い。自己嫌悪しか残らない。辛い。
何処で何をしていようがどうでもいいけど、勝手に連れてきておいて、見知らぬ地に独り放置したのは許せない。そう思っていたのに。
例え本当は違ったとして、
後で知っても意味がないんだよ。
どんだけ狼狽えたと思ってるんだ。
その間の時間を返せ。
トイレの水鏡で何か髪についていることには気付いていた。手で触って確認してみると、いつの間にか髪留めのピンに小さな石のようなものがついている。不思議なことに小石?はむしろ髪にくっついていて、髪留めに擬態しているかのようだった。気持ちワルッ。
竜の出現と同時に石は髪から外れて落ちた。
静電気は頭の上に感じた。
つまり、そういうことだ。偶然とは思えない。
何かしらの関連がある。
………………。
ダンマリである。何の反応もなし。多少怒らせてでも問い詰める権利はあると思う。
こんな石いつ何処で用意したのか知らないが、とにかく気味が悪いし、何かの呪いかと恐ろしくて仕方なかったこちらの気持ちを少しは考えろ。
自分で言って何だけど、何が"おかえり"だ。
そりゃ戻ってくるのを待ってはいたけど、
この状況自体がお前のせいだ。
穏やかな出迎えなどあると思うなよ。
ガチガチに恨んでいる。当たり前だ。
せめてもの意志表示にジト目で睨んでやる。
「…少し眠っていました。
我々は実体が起きるまでに、
長く時間がかかるのです。」
……だからなに?知らんがな。
しばらく睨み続けた眼力の成果か冥い怨念を感じたのか、ようやく竜は起き出して弁明を始めた。
そんなもの聞く気にはならないが、眠っていたというのは引っかかる。話を聞いていたわけでもなく、たまたま今起きただけか。
余計に腹が立つわ。
ふぅ〜〜〜。
怒りと反抗出来ない悔しさで顔が熱い。鼻の奥が痛くて鼻水が出そうだが、泣いたら負けだ。他人というのは、そんな恥辱をうけた人間を馬鹿にして笑うものだ。死ぬほど知ってる。
「開放はいつも同じではないようです。
異界の貴方が持ってきたのでしょう。」
?
爬虫類のような瞳が、ジッとこちらを見ている。
「其れは貴方のものです。
私が操れるのはこの世界の現象のみ。」
「祝福を受けた魔女。
我々は崩壊し再生するもの。」
「祝福は魔女を守ります。
しかし我々の力の前では、魔女も
このように再生の時間が必要なのです。」
……なんかわかんないけど、もしかして、ぶっ通しで眠ってしまったのは、自分の力のせいだと認めているのだろうか。祝福を受けた魔女、というのは私の事のはずだ。
祝福のおかげで私は守られているけど、竜自身の力を受けると長時間意識を失った状態になる。そういうものだと説明している。……恐らく。
いつ祝福なぞ受けたのかは謎だけれど。会って直ぐ話を聞いた記憶しかない。
……竜の力は…
開放を手伝うとか言ってたアレかな?
実際何をしたんだろ。
崩壊と再生……何かを崩壊させた?
……なにを?……いやでも再生してるのか。
??それって意味ある??
結局考えても真相は解らないし話もしたくない。
竜はベッドの上に落ちた小石に顔を向けると、翼を操りその近くに降り立った。届くところまで小石を浮かし上げて、小さな前足を使い、それを受け取る。
「"魔女と我々の力を繋ぐ石"です。」
何やら改まって、こちらに向け差し出した。
……お前の寝床じゃなくて?
内心毒づきながらその様子を冷めた目で見てしまう。コイツの言葉に不信感を持つのも仕方ないというものだ。
祝福だか何だか知らないが、コイツは私のことなど何も考えていないし何とも思わない。友人だとか繋がりがあるとか言いつつも、勝手に連れ回し放り出し、この小石の中で眠っていたのだ。
「ありがとうございます。」
私は素直に竜に感謝して有難く受け取る。
はぁ~〜〜〜〜。誰が言ってんだコレは。
確かにこの世界においては有難いものだというのは解る。それ故受け取る意思もある。
だが、断れるもんなら断りたい。
こんなやつ、住み慣れた現代世界にさえいられたなら、深く関わらないで逃げてやるのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます