第12話魔法


 日本の10歳位の子供にそっくりなルビさんは、よくよく見ると耳が少しギザギザしていて、笑うと犬歯が鋭く、手指が長い。言われて見れば身長の割に足のサイズもちょっと大きいし、日焼けと思っているのも素の肌の色かもしれない。黒い長髪は後ろで二つに分けて括っていて美しく、羨ましいストレート。

ラダさんとはあまり似ていなくて、カワイイというより、キレイに整った顔立ちをしている。

 あと、声が幼いな〜。

 種族の特徴か……遺伝かな?

 大人であの声は声優かと思うわ。

種族が違うとわかれば、シャム猫のような印象の方々と説明するのがいいだろうか。私には上手く聞き取れない種族名だった。ジャ〜〜〜ルーンだかなんだか長い名前。

こんなに教えてもらっておいて覚えられないのも情けない話だ。ユイマが知らない事を頭に入れるのは正直かなり苦労する。メモするものもないし。あまり何度も聞き返すと迷惑だろうし。

 他に出来ることも無い私は、このチャンスを逃すまいと聞き出せるだけ聞いて、この世界と地域の情報を集めようと必死だ。

未知の世界でたった独りなんて心細すぎる。

情報だけが頼みの綱のような気がしているのだ。これはもう本能的行動というか、焦り。

「私も聞きたい事があります。

 少しよろしいですか?」 

あんまりしつこくしたせいか、ルビさんからも提案があった。勿論引き受けると、意外なことを聞かれてしまった。

「雷の竜の君は大魔女様のことを、

 魔女とお呼びになりました。

 どちらが本当なのですか?」


 え?今更?

"この地の魔女"を知っているのに、そんな基礎知識を知らないなんてことある?と不思議に思ったが、グラ家の魔法が認められないという台詞を思い出した。

魔術師クラスのラダさんが魔法使いの常識を知らないわけがない。その妹のルビさんも……というのは私の勝手な勘違いの可能性もある。

そもそもラダさんは魔術師と名乗ってはいないし、ルビさんは高度な魔法が使えるだけで魔法使いの教育を受けているとは限らない。

"この地の魔女"がその名の通りこの領地一帯の魔法使いの世界に大きな影響を与える存在なら……

 まあ、現代世界の日本人の発想であって、

 事実はわかんないし。

 さすがにそこまで踏み込むのもな……

結局そこには触れないままに、モヤモヤしつつもユイマの知識を借りて無難な解説をする。


 "魔女"、"大魔女"とは人類が考え、その社会の中で勝手に呼び合っている呼称であり、人外の者が使う時は意味が異なることも多い。

竜や魔物や妖精が人類側の内情を気にする理由はあまりないからだ。

人類を真似ることを愉しむ者もあるが、少数である。

雷の竜は私を魔女と呼んだけれど、私自身はスゴイ魔法使いではない。雷の竜にとっては人類の友人="魔女"なのだろう(多分)。


 ……上手く伝わったかどうか解らないけど、

 私は頑張りました。


「…………ワカリマシタ。」

と言って目を伏せていたルビさんは、丁寧にお礼を述べると、誤魔化すように笑いながら私に断り退室していく。説明が解りにくかったのか、これ以上の質問攻めは許してほしいということか。引き止めたりは出来なかった。


 ……う〜ん。

人に教えるのは案外難しい。さらに外国語に変換するなんて、ルビさんはかなり明晰な頭脳の持ち主だ。魔法も得意になろうというもの。


ログラントには、"魔力は知の深淵より得られる"とか"優秀な魔法使いは求め続ける"といった格言があるという。これもなんとなくわかる。


 魔法使いは、その頭脳と魔力で科学では説明のつかない現象を起こす存在である。開墾、埋立、大規模工事や長距離移動を可能にしたり、自然災害や超常現象、厄災から身を守る。災害被災地や開発跡地をまた元通りの自然に戻そうという時も、急がせることが可能だ。

召喚術で魔獣や妖精の力を借りることも出来るし、魔物や精霊と交渉することで大自然や異界と通じる手段をも得られる。

他を害する魔物、悪霊、悪鬼などを撃退し、時には様々な理由から戦争になる。

悪い使い方をすれば、たくさんの命を奪うことも出来てしまう。そういった自らの行いの為に人間性を失った魔法使いも歴史上には珍しくない。

もっとも重い罪とされるのは、嘘と裏切りであり、相互バランス感覚に加えて精神的には公正かつ純粋な性質が求められる。

……というのが大体教科書通りの表現だ。

最後の一文は実質的重大事項と相当な教義が混ざっている気がする。実態を美化していないか心配になるレベルなんだがユイマの学校は大丈夫なんだろうか。まあ学校なんてそんなもんか。

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