第9話知識
クスクス笑いが聞こえて、恥ずかしいのとホッとしたのとが入り交じる。
「私で良ければお部屋の外をご案内しますよ。」
ああ、良かった。
「お屋敷内には庭園もございます。」
イヤそうじゃなくて。
「このお屋敷から出ることは出来ない?」
扉越しに聞いたはいいけど、この子に聞くことではないかもしれない。
「……私にはわかりません。
領主様からの連絡をお待ち下さい。」
……軟禁じゃんコレ。
「……分かりました。ありがとう。
あ、あと水と何か食べ物もらえますか。」
ものはついでだ。他に言えることもない。
「かしこまりました。」
返事の後で扉越しに何やらカチャカチャ音が聞こえてきた。向こうはキッチンなんだろうか。
先に水だけ運んでもらい、腹ペコなのでガブ飲みする。美味しそうなニオイがしてきて益々お腹が空いてきた。
めちゃめちゃお腹鳴るやん……
それにしても、置かれた状況が見えないのはキツい。私には何の力もない。どんな理由でここに居なきゃいけないというんだ。大魔女と呼ばれる人は大人しく引きこもらないといけないのか。
あの竜は何処にいったんだよ……
そもそもなんでこのお屋敷にいたの私?
竜が運び入れたのか………
と、初めて気付く。
竜から話を聞いている………何の?
竜はユイマのことなんか何も知らないでしょ。
私ですら知識しか使いこなせない。
記憶の映像や会話はどうも不確かだし。
……てか必要ないか。ユイマ個人の事は。
じゃ、なんだろう。
中身が異世界人です、なんてことを
突然話して信じてもらえるものかな?
雷光の大魔女。それらしいけど、竜が何かしらの力を使えば雷の竜であることはわかる。竜と共に在るのは大魔女である……。
いや、考えすぎか。
嘘ついてまで囲い込むことに何の得が?
……あるかも。大魔女様だし。
竜がいなくて不安だから、疑心暗鬼になってるみたいだ。きちんとした対応をしてもらえているのだから、大丈夫。何か理由があっての事だ。多分。少し落ち着け、私。
正直大魔女なんて、その存在自体が伝説みたいなもので、どんな意味を持ち何が出来る人達なのか、なんてリアルな事情を詳しく知っている訳では無いのだ。理由があったとして、私には理解出来ない可能性すらある。
…とはいえ、私の知らないところで話が勝手に進んでいるのは気に入らない。
理由があるなら納得させて欲しいし、言えない事情があるなら素直にそう言って欲しいところだ。
暫くして運ばれてきたのは、驚くことに普通のモーニングセットだった。パンとジャムと温かいスープ。ここの季節はわからないけど、長袖の時期にスープは嬉しい。建物はアジア風なのに、食文化的には西洋なのか。古風に感じるものだらけなのに、食べ物は現代に遜色ない。
……まあ、日本も似たようなもんかな。
外国人から見たら…………
ユイマも未体験の地域では、疑問など挟まず、ありのままを受け入れるしかない。
「どうぞごゆっくり。」
一礼して下がろうとする女の子に声をかけた。
「すみません。
いくつか聞きたい事があるんですが。」
「どうぞ」
「あの……大変失礼ですけど、
私よりずっと若く見えますが、
大人の方ですか?」
返事はやっぱり、はい、だった。
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