第4話意識


 光の中は、長くゆっくりと感じられた。

目を開けているのに、光しか見えない。

不思議だ。太陽を見てしまった時に似ているのに、眩しくない。外から見たら眩しく見えたはずなのに。

自分の身体は見えない。でも動かせる気がする。しっかりと意識は在る。手足の感覚も生きているのではないか…。

 ……似ているけど、違う。

こちらに来た時とは、同じではない。

 そんな気がする、としか言えないけど。

 ……解らないことばっかりだ。

 ……ここから、ずっと?

 魔女やら大魔女やらのいる場所で、

 所詮他人の知識だけのハッタリで、

 何とか乗り切らないと………

 どうなるの?……何されるか解らない、とか?

そんな世界であって欲しくない、と、切に願うのだが、ユイマも知らないことについては、一切ノーヒントというのが現実である。

 現実は残酷だ。

 あの言葉は本当だ。

知ってはいたけど、自分がここまで弱者とは。

 出来る出来るやれば出来る……はぁ〜(溜息)。

 熱くなれとか無茶言わないで欲しいよな。

 ……ダメだ。何の罪もない人を、

 批判したくなってきている。

 闇に堕ちるぞ、私。しっかりしろ。

 ……ふぅ(深呼吸)。

自分自身に現実逃避の気配を感じて、立て直しを図る。切り替えが大事。言ってるだけで出来るならば、苦労は無いんだけれども。

 

 それにしても、三人目の大魔女というのは、結構なパワーワードだ。

詳しい遍歴は知られていないものの、ログラント全体に偉大な恩恵と影響を与える二人の大魔女と竜の存在は、この世界では常識である。

代々継がれる系譜が在るらしい。

三人目ということは、新たにもう一人大魔女が現れ、その系譜が生まれたのだろう。

 ……自分で言っといて何だけど、

 よく知られてない系譜って、何だろ?

 名前だけ伝わってるとか、そんなのかな。

ユイマの知識は、驚く程の速さで思い出せる。

元々、頭のキレる娘なのだろうか。学校の成績も良かったみたいだ。記憶の中のヘンテコな文字があっという間に読めてしまうのは、少し不自然な感じすらする。

全てにおいて、速い。

私の意思より速ければ、条件反射的に身体が動くこともあるのでは……。

 いや、むしろ最初混乱してたのはそのせい?

 ……もしこれが"入れ替わり"だったら、

 ユイマさんは過酷な現実味わってるな。

何となく敬称をつけてしまう。


「目を開けてごらんなさい」


竜の声。

イケボ✕台詞が最高で、夢心地に陥りそうだ。

しかしやはり言ってることはヨクワカラナイ。

 ……いや、開いてますけど?


「もう一度」


 開いてますよ?

しつこいので、一度閉じてから開けてみる。

 ……………………あれ?

気の所為か、宙に浮いている気がする。

 浮いている………ね。

足元には何も無い。遠く下の方に、靄に霞んだ森らしき木々が見える。


「そう きちんと目を開けば

 魔女は 空を飛べるものです」


 何言ってんだろ。

思わずツッコミを入れる。

 ………え?魔女って言った?

 さっきから言ってた魔女って私のこと?

考え違いをしていたわけではないはずだ。

ユイマは魔女と呼ばれる程の魔法使いではない。

 人違い、でなければ、嘘?

 私を騙して何か企んでる?

 何の得があるのか知らないけど。

ユイマの知識は確かなはずだ。魔女が空を飛ぶのは、已の魔力を以て魔法や魔法具を起動した結果であり、備わった能力に依るものではない。

 魔力を使うから魔女でしょ。

 それじゃ超能力者じゃん。

とはいえ、ユイマは一度も直接的に魔女に会ったことが無いらしい。

王国立の学校の先生ですら、スゴイ人でも、魔導師(魔法学士国家資格保持者/所謂有識者:権威)或いは魔術師(魔法学会認定魔法使い/研究者:プロ)であり、恐らく大魔女の存在が頂点にある為であろうが、魔女という呼び名は、それらの更に上である。

 魔女は実はただの超能力者だったんだよ!!

 な、なんだってーーー!!!!

 ていうネタ、ネットで見たことあるな。

 ………なんか胃が痛くなってきた。

 何なんだ次から次に……

ただでさえ解らない事だらけの私のメンタルを、やたら引っ掻き回すのは、本気でやめて欲しい。


 種明かしをしてしまうと、友人である竜が力を貸してくれるから出来ることなのだと、私の前を悠々自適に飛びながらバチバチに帯電した竜が教えてくれた。力を使うと帯電しがちになることに、お詫びまで添える出来た竜であった。

心を許して聞けば軽妙なやり取りなのだろうが、それが胃にクるとは、話でよく聞く上司と部下の関係みたいだな、私達。

 私のせいか?

 いやいや、今も言葉を話さないでいるのは

 誰のせいだと思ってるんだよ。

友人ではないにしても、この竜の掴みどころが、なんとなく分かりかけてきた。

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