第13話

一ヶ月が経った頃、夕食を終えた後に僕は両親に話をした。三人でソファに座り僕が心づもりを持ちながら気が張っている様子を見て、父がかしこまらずにリラックスしなさいと言ってきたので、数回深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「話したい事とはなんだ?」

「あのさ、世の中の人たちのなかに性的少数派って呼ばれている人がいるのは知っているよね」

「ええ、要は同性同士の恋仲っていうものでしょう?そのことで話がしたいの?」

「僕、結構前からなんだけど相手の人を好きになる人が……つまり、女性じゃなくて男性なんだ……」


そう告げてから下を向き俯いては目を彼らへと向けると二人は少々無言気味で何も言えなくなってしまっていた。


「本当なら、異性でも結婚とか考えないといけないところを……それが、見込みがないっていうんだけど……やっぱり僕って気持ちの持ち方とか変だよね?」

「どう人を好きになるのはお前次第でいいと思う。ただ……その将来の伴侶が男が良くて安心するっていうのか?」

「そう、です。本当にごめんなさい。期待に添えれない息子で……」

「女性は一生好意を持つことはできないと考えていいんだな?」

「はい……」

「何も責めるわけではないわ。私は今まで通り働いていって欲しいし、好きになった人を呼んで紹介してほしいのは反対はしない。ずっと言えなくてつらかったんでしょう?ねえお父さん、翔がこうして話してくれたのだからそこは許してあげるのがいいじゃない?」

「色々複雑なところもあるな。周りの人たちにこれから何て言っていくんだ?」

「自分から発言するより、なぜ独りでいるんだって言われたらその人にだけ言っていこうと思う。オープンにしていくところはしていって、クローズにしてもいいところはそれでいいのかなって考えている」

「そうか。まあ、打ち明けてくれたことはそれで良いが、今はそういう好きな人でもいるのか?」

「はい、います。だから今度家に来てもらおうかなって考えているんだ。製薬会社で営業をしている。優しい人だよ。二人に会いたがっているんだ……」

「そう。それなら近いうちに来てもらうのもいいわね。お父さん、一度会ってみたらどう?」

「ああ。私達も色々予定があるからその人にもいつ頃がいいか聞いておきなさい」

「わかった。聞いてくれてありがとう」


先に席を離れようとした時に母が僕に向かって呼び止めた。


「翔も言えないことばかり抱えて辛かったでしょう。そういう大事な事は聞いてあげるから、また何かあったら話をしなさい」


僕は躊躇ためらうように頷き自分の部屋へ戻ると、一気に緊張感が抜けて深いため息を吐いた。猛反対されるかと思っていたが、久ヶ原の事を聞いてくれたことに二人を信じてよかったと胸を撫で下ろした。

早速彼に電話をかけて自宅に来てもらえる日を聞き、彼もまた安堵した様子で話すその声に心が頷いて物事が穏当に行くように願うことにした。


三週間後の日曜日。母と昼食の支度を手伝い衣服に着替えた後久ヶ原から電話が来てもうすぐで家に到着すると連絡がかかってきた。やがて彼が玄関前に立ちインターホンが鳴って僕が出るとスーツを着た彼が微笑んで挨拶をしてきた。

リビングの隣にある居間に通して座らせると、その後に父が来て向かい合わせで腰を下ろし、母が来客用の緑茶を運んできて緊迫した部屋の中に気がついて皆が堅苦しい表情をしているからもう少し息抜きしたらどうだと告げてきた。


「久ヶ原新と申します。翔さんからお話があったとは思いますが、今は製薬会社の方で営業課長として担っています」

「どちらの会社さまで?」

「光和製薬です」

「大手メーカーですね。私の医院でも薬品など使用させていただいています」

「はい、ありがとうございます」

「普段はMRとしてお勤めで?」

「はい。部下たちとそれぞれ担当と決めて各医療機関を訪問させていただいております」

「お父さん、会社の話はいいですから二人の事をお話してください」

「ああ。翔とはいつごろからお知り合いになったんですか?」

「今年の四月からです」

「きっかけは?」

「これが偶然なんですが新宿の飲食店で一緒に居合わせて。その際に僕が翔さんに声をかけてお話を聞いているうちに意気投合したんです」

「それから何度か食事に行って、お互いの事を話していくうちに……交友関係の話になってお付き合いする相手の対象が二人とも男性だという事を打ち明けたんです」

「たしか久ヶ原さんは過去にご結婚をされていたと伺っておりますが、お子さんはいらっしゃるのですか?」

「はい。中学生の息子が一人います。今は別居していて月に一度面会をしています」

「離婚された際に息子さんはあなたの方には行こうとはしなかったんですか?」

「彼がまだその歳ですし母親の方についている方が安心できるかと考えてその上で妻に預けました」

「そうですか。二人ともお互いに深い仲になっていきたいと話を聞いていますが、どういった伴侶として付き合っていく予定ですか?」

「異性と変わらないような関係で恋人としてお付き合いしていきます。複雑な思いをさせてしまっているかもしれませんが、できるだけ堂々として一緒にいたいんです」


「まあまだ世の中には同性の方の伴侶という関係性には、なかなか受け入れがたいところもあるでしょうが、一人前の歳であるお二人が決めたことですし、私達がそこに差し込むように介入することはしません。ただ、どうしても意に添わなくなってきた場合、その後の事はどうかお二人できちんと決めるように弁えてください。そのあたりはご理解していらっしゃいますよね?」

「はい。ご承知の上です」

「……久ヶ原さん、翔の事仲良くしてあげてくださいね」

「はい。僕も彼を信頼しています」

「翔、これからご飯出すから一緒に手伝ってくれる?」

「ご飯、ですか?」

「もしかしてもう済ませてきた?」

「いや、まだ何も食べていないです。いただいて良いんですか?」

「ええ。ご用意しますのでちょっと待っていてください」

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