おじさん行き詰まる
樹上穴蔵生活を始めてたぶん一ヶ月経った。
水は煮沸する手間はかかるが飲み水に困ることはない。かなり冷たいが水浴びもできる。野外で全裸になるのは羞恥心もあるし、いつ野性動物が出てくるかという恐怖もあったが不潔にしていて病気にかかりたくはない。
洗濯も水が大量に流れているので川岸に角スコップで穴を掘り、底と周りに大きな石を並べて簡易の洗い場を作った。
樹上の穴蔵も身体を伸ばして横になり少ない荷物や着替えを一緒に抱えたり枕にして寝ていられるように、さらに穴を掘り進めた。でかい木で良かった。木はダメになるだろうがすまん。こっちも生きるのに必死なんだ。
悩んだのは食料だ。ブロック栄養食は川にたどり着いて二日目で二箱と半分がノ残っているが、保存が効くので非常時のために二箱は残しておきたかった。
しかしこの時点で事故からの訳のわからない遭難コンボから、すでに十日程経っている。その間ブロック栄養食をかなり節約して食べていたが、水で空腹を誤魔化すのも限界だった。
このままでは飢餓感でブロック栄養食を食べ尽くしかねない。なんとかできないかと考える。
なんとかなりました。
パワーで解決した。禁止されているガ○○ン漁だ。こちらも生命の危機なので許していただきたい。違法なので詳細は省くがなんとか川魚を確保、大きな川で良かった。
三日おきに場所を変えてやっているが、川魚の数は一定して捕れている。おかしい気もするがそういうものなんだろうと思考を放棄し、捕れた川魚をありがたくいただく。
しかし料理はできないし、興味も薄かったので魚の処理方法なんて知らない。だが、頭を落として内臓を抜いてしっかりと火を通せばなんとかなる、と信じているのでなんとかなった。なったと思いたい。
調味料もないので味もほとんど焦げ味で、しっかりと火を通すのでパサパサだし、少しずつ食べるので常に空腹だ。
今のところ腹痛なども起きていないし、大丈夫なんだと思いたい。しかし量が圧倒的に少ない。
次に悩んだのは火だ。今も救助を期待して毎日煙を上げているが、ガスライターもいつガスが切れるかわからない。
これもパワーで解決した。ガスが無くなるなら火を絶やさなければいいという、とても頭のいい解決方法だ。なぜか脳筋解決とよぎるが気にしない。
熟睡しないことに慣れてきたのか眠りは浅い。でかくて太い枝を寝る前に火にくべ、浅い眠りから起きたときに長い枝を腕力任せに加工した長い棒を樹上から操って、地面の薪として集めた枝葉や腕力で砕いた倒木を火に近づけることで解決した。
そして川にたどり着いて約一ヶ月、焚き火の周りは灰や燃えカスがすごいことになっている。燃料の木や枝葉は常に回収しているので余裕はある。
しかし遭難してから約四十日が経過し、樹上穴蔵生活が低レベルで安定してきたところで行き詰まった。
いろいろ思考は回るが答えが出ないものばかりだ。頭のいい人なら別の行動を起こしたり、とっくに生還しているのだろうか。
救助を期待するなら煙を上げ続けて、この場を離れない方がいい。でも、もう一ヶ月同じ場所にいる。
生活も食料は少ないが生きてはいけるこの場を離れるのはリスクが高い気がする。でも、この場で一生を過ごすのか。
遭難初期の緑色の小さいのとでかい犬事件から野生動物を見ていない。あれはなんだったのか。
夜間に遠くから犬の遠吠えのような鳴き声は聴こえるが、日中は生物の姿どころか気配というか音すら感じない。
やはり常に煙を上げているからなのだろうか。煙も今は慣れたが目に染みるし、匂いも若干漢方薬のようだ。燃やしている木や枝葉に、動物のいやがる忌避成分があるのかもしれない。
などと考えながら森の中を、日課の食料調達のための散策をしていた。風向きで煙の範囲が大きく変わったか、野生動物を見かけないから危機感が薄まったか、行き詰まった環境に絶望しそもそも警戒なんかしていなかったかもしれない。
森の中ででかい猪みたいなのと出会った。
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