おじさん確認する

 落ち着け、落ち着け、落ち着け。


 冷静に、冷静に、冷静に。


 頭を冷やせ、考えろ。


 いや落ち着けるか! 冷静になれるか! 頭を冷やせってなんだよ。こちとら平凡なおじさんだぞ。キャンプもサバイバルも動画でチラ見する程度だし、緊急時の訓練なんてするどころか意識したこともない。


 せいぜい車に防災用具積んで、会社の避難訓練や防火訓練に参加したことがある程度だぞ。


 とりあえず現状の確認か?


 身体に目立った怪我はない、関節に違和感もない。光に目が眩んでまだちょっとかすんでいるくらいか。でも、興奮して細かい痛みに鈍感になっているかもしれないから、時間を置いてまた確認した方がいいかな。


 それに妙に身体が軽い気がする。まだ興奮しているのか?


 愛車は完全にダメだ。車体の前方が半分に潰れている。そんなにスピード出していたか? 電装系もダメになったのか配線が切れたのか全く反応しない。足周りもかなり歪んでないか? 車体が地面にめり込んでるし。どうなってんの?



 持ち物は


冬服上下とフード付き防寒具の上着

雪道を歩くためのブーツ


 肩かけ鞄の中

財布

スマートフォン

アパートの鍵

ペットボトルのお茶、一本

会社で着替える作業着の上下が、一組

替えのTシャツ、二枚

ハンカチ、一枚

ハンドタオル、三枚

ポケットティッシュ、二個

三色ボールペン、二本

ノート、一冊

ターボライター、一個


 車の中に

箱ティッシュ、一箱

緊急脱出用のハンマー、一本

発煙筒、一本

予備の作業着上下、一組

雪かき用の角スコップ、一本

車用雪下ろし、一本

スパイク付きのゴム長靴、一足

ビニール傘、一本

防寒用手袋、一組


 防災用で愛車の後部に積んでいたリュックの中

ステンレスの片手鍋、一個

二リットルペットボトルの水、三本

ブロック状のバランス栄養食、十箱

ヘルメット、一個

懐中電灯、一個

毛布、一枚



 持ち物の確認をしながらいろいろと思考が巡る。スマートフォンは圏外で位置情報も読み込めないから電源を切った方がいいのか? でもいつ電波が入るかわからないから電源は切らないことにした。


 持ち物で救助を待つまで耐えるのに使えそうな物は半分くらいか?救助を待つにしても連絡手段のない状況では、どうやって要請したらいいかわからない。


 森に火を放つ訳にもいかないが、最悪食料が無くなる前に生木や発煙筒で盛大に煙を上げるか? 駆け付けた消防に怒られるかなんかの罪になるかもしれないが死ぬよりいい。


 防災食料で最低三日長くて十日はいけるか? いや水が絶対不足する。水が無くなる前に煙を焚こう。いや会社もあるし手段があるなら、すぐに行動して煙を起こすべきなのだろうか。


 今すぐの救助要請は無理と言うか思い付かないし、確認をせずに盛大に煙をあげてすぐ隣が民家でした。では笑い話にならない。動かない愛車を中心に見失わないようにして周囲を散策してみるか。



 持ち物の確認をしながらいろいろと考えていたら、落ち着いてきたようだ。そして今頃気が付いた。


 雪がない? 明るい? 暖かい?


 え? 早朝の暗い時間帯に事故ったはずだよな?


 今は冬で雪だってくるぶしが埋まるくらいにはあったはずだよな? 冬真っ盛りに薄着でいたら少し肌寒いくらいの、こんなに暖かい気温になるか?


 いやいやいやいや、これ以上混乱させないでください。もうおじさんの許容力を大幅に越えているんですってば!



 どうなってんだ? とあらためて辺りを見回す。



 なんか変なのと目があった。

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