第10話

「ごめんね」


 彼女だった。忘れていた。そう。彼女が。感情を食って。夢を。夢に。ちょっと混濁している。まず夢ではなく現実の情報が欲しい。


「現実の情報?」


 そうか。しゃべれない夢か。彼女には伝わっている。会話はできる。しかし喋れない。


「現実のことは分からない。でも、夢を辿って、いま、あなたの夢にいる。たぶん。あなたは」


 しにかけてんのか。そりゃあ、そうか。死に際ぐらいにしか夢を見ない体質なのかもしれない。


「かもね。でも、会えた。よかった」


 元気でやってんのか。組織に狙われたりしてないか。いや狙ってたのは俺か。まだ見知らぬ誰かの悪夢を変えたりしてんのか。もういいだろ。


「ねぇ。いきなりたくさん喋るじゃん」


 忘れてたからな。


「あのとき。ホスピスの部屋で。目が覚めて。わたしのことを忘れてて」


 あっ。


「悪夢だなって、思った」


 ごめんなさい。


「なんで謝るの。あれでいいの。あれから、ずっと、どうしたらいいかわからなくて。悪夢が続いたみたいな感じだったから。わたしの悪夢はこれで終わり。あなたに殺されて、あなたに全てを返すの」


 そこで、起きた。


 覚えている。

 そして、現実のことも。


 別な任務でしにかけて、倒れていた。

 いちおう、刺し違えた相手を確認する。まぁ、死んでる。ちゃんと殺した。人ではないものは、殺した。


 通信を入れる。


「こっちの任務は終わった。そして、俺のメイン任務のほうだ」


 なんと伝えれば良いか。


「俺の感情を食ったやつが、どうやら心を獲得して人になってるらしい」


 としか言えない。なんともいえない。


「現実で日常生活を送っている、普通の人だ。そう。一般人」


 通信先。素早く検索をかけてくれている。


「さっきたまたま夢に来て、俺に感情を返していきやがった。たぶん、しにかけてる。助けに行きたい」


 間に合うか。

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