41話

 季節は巡り、王都に冷たい風が吹き始めた頃。


 魔物討伐の特別講義を控えたアルギス達4人は、各々の武具を纏い、校舎の裏口を目指して廊下を進んでいた。


 

「……階層主、倒せると思うか?」


 

「当たり前だ。たかが10階層の階層主だぞ」



 ジェイクが不安げな口調で声を掛けると、アルギスは足を止めることなく口を開く。


 呆れ顔を浮かべたジェイクは、つまらなそうにアルギスから顔を背けた。


 

「そうだけどよ……ダンジョン登り続けてるの俺達だけだぜ?」



(まさか、攻略にこれほど時間がかかるとは……。実際のダンジョンを舐めていた)

 


 ぶつぶつと愚痴を零すジェイクを背に、アルギスは難しい顔で考え込む。


 というのも、アルギス達4人は、10階層の攻略までに半年以上の時間をかけていたのだ。


 

(はぁ、罠の位置が毎回変わるとはな。……やはり、斥候を探さざるを得ないか)


 

 ゲームと同様の感覚でいたアルギスは、遅々として進まない攻略に、暗澹たる気持ちで足を進める。


 やがて、裏口の扉が近づいてくると、表情を引き締め直して、羽織っていたローブのフードを被った。



「さて……ジェイク」



「おう。前方の警戒と、敵の討伐だろ」



 背中越しに名前を呼ぶアルギスに、ジェイクは慣れた調子で言葉を返す。


 ジェイクの返事を聞いたアルギスは、満足げに頷きながら扉の取っ手へ手を掛けた。


 

「ニア」



「みんなの回復と、拡張バックの管理だよね」



「レイチェル」



「…………」


 

 続け様にアルギスがダンジョン内での役割を確認する中、レイチェルは思いつめたように口を閉ざす。


 下を向いて黙り込むレイチェルに、ニアは不思議そうな表情で顔を覗き込んだ。

 


「レイチェル様?」



「っ!ごめんなさい。でも今日は前に出たいと思って……」



(なに?)



 レイチェルの呟きが耳に入ったアルギスは、扉を開けようとしていた手をピタリと止める。


 そのままアルギスが後ろを振り返ると、レイチェルは遠慮がちに首を傾げた。

 


「ダメかしら……?」 


 

「……いいだろう。私が後ろに下がる」



 しばしの逡巡の後、アルギスは俯いて返事を待つレイチェルに指示を伝える。


 弾かれたように顔を上げたレイチェルは、パァッと表情を明るくして、アルギスの隣に並んだ。


 

「ありがとう」



「ああ。……問題があったら言え」



 レイチェルの笑顔を尻目に、アルギスは簡素な木製の扉を押し開ける。


 校舎を出た4人は、足並みを揃えて、裏手にそびえる天鎖の塔へと向かっていった。



(しかし、十階層ごとにボス戦とはな。面倒なダンジョンだ)


 

 不満げに顔を顰めたアルギスは、いつもと変わらず、白い雲を貫く天鎖の塔を見上げる。


 ややあって、石造りの扉を抜けると、洞窟の入り口で足を止めた。


 

「ニア、地図を」



「えーっと……はい」



 アルギスが片手を差し出すと、ニアは背負っていた拡張バックから地図を取り出す。


 1階層の順路を確認したアルギスは、体から魔力を揺らめかせ、静かに呪文を唱え始めた。



「――軍勢召喚。1、2階層は休憩なしだ、行くぞ」


 

「おう!」

 


 漆黒のスケルトンを先頭に、ジェイクは鼻息荒く洞窟を進みだす。


 一方、珍しく剣を手にしたレイチェルは、緊張した面持ちで背後のニアへ顔を向けた。

 


「……援護をよろしくね、ニア」


 

「うん、頑張ろうね!」


 

 不安げな表情を見せるレイチェルに、ニアは努めて明るい声を掛ける。


 不慣れな隊列ながらも、4人はたちまちの内に洞窟を奥へと進んでいった。



 それから2時間が経ち、3つの階層を超えた頃。


 洞窟を進む4人の前に、ぞろぞろとゴブリンの群れが姿を現した。


 

――グギャギャギャァ!――


 

「よし!」


 

「はぁ……。――棘氷柱」 


 

 スケルトンの間から飛び出すジェイクを、レイチェルは呆れ顔で援護しながら追いかける。


 一撃で頭を吹き飛ばすジェイクと、剣と魔術を操るレイチェルによって、ゴブリンの群れは次々に数を減らしていった。

 


「ギャギャ!?」


 

(……ふむ、レイチェルが前衛でも問題なさそうだな)



 2人がゴブリンの群れを光へ変えていく姿に、アルギスはスケルトンを遠ざけながら、満足げに頷く。


 しかし、アルギスの隣で2人を見ていたニアは、どこか悲し気に微笑んだ。


 

「2人とも凄いなぁ。私なんて、何もできないや」



「……お前の出番が来るのはまだ先だ。せいぜい、今のうちに暇を楽しんでおけ」



 小さな独り言を零すニアを尻目に、アルギスは不敵な笑みを浮かべながら腕を組む。


 独り言を聞かれていたことに目を丸くしつつも、ニアはコクコクと頷いた。



「う、うん」


 

「……進むぞ」



 やがて、全てのゴブリンが倒されると、アルギスはスケルトンを先に進める。


 すると、足元に落ちていた魔石を拾い上げたジェイクが、不思議そうな顔を向けた。

 


「魔石は拾わないのか?」



「不要だ。その程度の魔石を拾っていては、バックの容量が足りなくなる」 

 


 チラチラと魔石へ目を落とすジェイクに、アルギスは首を振って歩き出す。


 しかし、アルギスの返事に顔を顰めたジェイクは、持っていた魔石をポケットへしまった。


 

「勿体ないだろ」 


 

「……そろそろ上の階層へ向かうんだ。気を引き締めろ」



 ため息交じりに足を止めたアルギスは、非難がましい目で見るジェイクへ先を促す。


 再び魔石を拾ったジェイクが歩き出すと、4人はさらに上の階層へと進んでいった。



(さて、5階層か……ここから先は罠があるからな)

 


 3人に続いて階段を登り終えたアルギスは、じっと地面を見つめながら後を追いかけていく。


 

 それから歩くこと数分。


 先頭を歩いていたスケルトンの足元からカチッと小さな音が鳴った。



「うお!」



「きゃ!」



 次の瞬間、目の前に降り注いだ無数の槍に、ジェイクとレイチェルは、慌てて後ろへ飛びのく。


 2人の前を歩いていたスケルトンは、上から打ち出された槍に貫かれ、粉々になって魔力へと戻っていった。


 

「……ニア、地図をくれ」



「うん」


 

 アルギスが手を出すと、ニアはすかさず拡張バックから地図を取り出す。


 後ろを振り返ったジェイクは、足を止めて地図を眺めるアルギスに、目を瞬かせた。


 

「進まないのか?」



「ああ、確かこの辺りに……」



 首を傾げるジェイクをよそに、アルギスはニアから受け取った地図を広げながら、辺りを見回す。


 そして以前、魔物が少なかった小部屋を見つけると、横穴のような入り口を指さした。


 

「あれだな、あそこで一旦、休憩にするぞ」 



「あれって……ああ、あの穴か」



「……ちょうど良かったわ」



 アルギスの指さす先を見た2人は、ホッと息をついて、額に浮かんだ汗を拭う。


 油断なく辺りを警戒しつつ、4人は近くの小部屋へと向かっていった。


 

(……思ったより数がいたな)


 

 程なく、小部屋に足を踏み入れたアルギスは、部屋の光景に顔を顰める。


 というのも、10メートル四方の小部屋には、ゴブリンやコボルトなどの魔物が10数体も徘徊しているのだ。


 4人が入って来たことに気が付いた魔物たちは、今にも飛び掛からんばかりに身を低くしていた。



「どうする?アルギス」



「アルギス様?」



 ジリジリとにじり寄る魔物たちに、ジェイクとレイチェルは目線を逸らさず睨み合う。


 一方、後ろから様子を眺めるアルギスは、当てが外れたとばかりに大きくため息をついた。



「はぁ。……仕方がない、少し掃除しよう。――来い、”殉難王骸”」 



 アルギスが呟くと同時に、体からは膨大な量の霧が噴き出し、その場にいる全員の視界を覆う。


 やがて霧が晴れる頃には、背中を折り曲げてなお巨大な骸骨が、ボロボロに朽ちたマントをたなびかせながら姿を現していた。

 


「うげぇ。なんだよ、それ……」 



「味方、よね?」



「こ、怖いこと言わないでよ、レイチェル様……」


 

 殉難王骸を見上げた3人は、ひそひそと青い顔を寄せ合う。


 頬を引きつらせる3人の目線の先では、骨と皮だけの顔に嫌らしい笑みを浮かべた殉難王骸が、辺りを見回していた。



(……確かに、どう好意的に見ても見てくれは良くないな)


 

 否定的な3人の感想に、アルギスもまた、禍々しい雰囲気を纏う殉難王骸を見上げる。


 ややあって、弁明を諦めると、警戒するように距離を取る魔物たちへ目線を戻した。



「……まあいい。やれ、殉難王骸」



「――ギギギィ!」



 不快な声が部屋に響き、今度は殉難王骸の体から地面を伝って魔物たちの方向へと黒い霧が伸びていく。


 やがて、全ての魔物の前に集まった黒い霧は、続々と黒光りする鎧を纏った死霊へ姿を変えていった。


 

「亡霊勇士よ、端に追い詰めて処理しろ」



「ギャァギャ!?」 


 

 突如立ちふさがった亡霊勇士によって、魔物たちは悲鳴を上げながら小部屋の隅に追い込まれていく。


 そして、寄せ集められると、振り下ろされた剣によって、瞬く間に光へ変わっていった。


 

「……魔物とはいえあんな風に扱われてると、ちょっとだけ同情するな」



「あんなのに使うほど時間は余っていない。いいから、さっさと休憩にするぞ」 



 茫然とするジェイクに声をかけると、アルギスは1人、地面の平坦な小部屋の奥へ歩き出す。


 黒い霧へ戻っていく殉難王骸と亡霊勇士を見つめていた3人は、逃げるようにアルギスの後を追いかけていった。



 

 4人が腰を下ろして、しばらくが経った頃。


 壁に寄りかかっていたジェイクが、不意に隣に座るアルギスへ顔を寄せた。


 

「今日はずいぶん休憩が早いけど、何か理由があるのか?」



「……必ず攻略するために万全を期す。それだけだ」



 じっと横顔を見つめるジェイクに、アルギスは地図に目を落としながら言葉を返す。


 すると、ジェイクはアルギスから離れて、ポケットから取り出した干し肉を齧り始めた。

 


「ふーん」



「……レイチェル、問題はないか?」 


 

 興味が無くなった様子のジェイクをよそに立ち上がったアルギスは、少し離れた場所に座るレイチェルへと近づいていく。


 気遣いを見せるアルギスに目を白黒させつつも、レイチェルはぎこちない微笑みを返した。

 


「え、ええ。平気よ」



「そうか。ニアはどうだ?」



「うん、私も大丈夫だよ」



 アルギスに頷き返したニアは、やる気を漲らせて両手をぎゅっと握りしめる。


 然程疲れの見えない2人の様子に、アルギスはホッと胸を撫でおろした。



「よし、今のところは予定通りだな」 


 

「ねえ、この後はどうするの?」


 

 再びアルギスが地図に目を落とすと、レイチェルは辺りを見回しながら立ち上がる。


 レイチェルの声に地図から顔を上げたアルギスは、未だ壁際で干し肉を齧るジェイクへ顔を向けた。

 


「そうだな……。ちょうどいい、今後の予定を共有しよう。ジェイク、こっちにこい」



「はいよ」

 


 アルギスの呼び出しに、ジェイクは持ってた干し肉を口へ放り込んで、立ち上がる。


 モタモタと近づいてくるジェイクを尻目に、アルギスはしゃがみ込んで持っていた地図を地面に置いた。


 

「ニア、残りの地図も貸してくれ」



「う、うん」



 拡張バックへ手を入れたニアは、1枚ずつ取り出した地図をアルギスへ渡していく。


 受け取った地図を3人の前に並べると、アルギスは現在地の小部屋を指さした。

 


「いいか?今いるのが、5階層のここだ――」



 3人がじっと見つめるアルギスの指先は、地図上の最短順路を辿っていく。


 やがて、5枚に渡って地図の順路を説明すると、アルギスは顔を上げて3人の姿を見比べた。

 


「今の道順で行くぞ。覚えたか?」



「ええ、問題ないわ」



 早々に地図から目線を外したレイチェルは、薄い笑みを浮かべて肩を竦める。


 レイチェルの隣に座るニアもまた、地図を眺めながら、コクリと頷いた。



「たぶん大丈夫、かな?」



「無理だ……」



 明るい表情を見せる2人に対し、ジェイクだけが憂鬱な表情を隠すように顔を覆う。


 三者三様の姿にため息をつきつつも、アルギスは広げていた地図を片付け始めた。



「……これからは階層を超えるたび小休憩をはさむ。今はおおよそを把握してくれれば結構だ」



「お前、よく覚えてるよな。そこまでする理由でもあるのか?」



 ニアへと地図を渡すアルギスに、ジェイクは両手を頭の後ろで組みながら声を掛ける。


 返答に困ったアルギスは、そそくさとジェイクへ背を向けた。



「……地図を覚えるのはダンジョン攻略の基本だ」



「お前、この国の貴族だろ?なんで、そこまでダンジョンに拘るんだ?」 



 アルギスが小さな声で尤もらしい理由を話すと、ジェイクはなおも不思議そうな顔で質問を重ねる。


 すると、前方に座るニアとレイチェルの視線もまた、アルギスへと注がれた。



(また、この手の質問か……。いい加減、答え飽きたな)



 これまで幾度もされた質問に、アルギスはローブに着いた土を払いながら立ち上がる。


 そして、ゆっくりと後ろを振り返ると、ジェイクを見下ろす形で口を開いた。



「私は私の望む道を征く、そこに他人や家は関係ない。理解したか?」



「お前……」



 不敵な笑みを浮かべながら言い切るアルギスに、ジェイクは呆れた表情でため息をつく。


 一方、2人のやり取りを聞いていたレイチェルは、信じられないものを見る目でアルギスの背中を見上げていた。



「……貴方は、本気でそれが叶うと思っているの?」



「私の邪魔をするなら、叩き潰すまでだ。――それが、誰であろうともな」


 

 体の向きを変えたアルギスは、真剣な表情でレイチェルと見つめ合う。


 腹の底から響くような低い声に、レイチェルはアルギスから逃げるように目を伏せた。



「…………」



(……まずい、つい熱くなってしまった) 



 辺りに広がる静寂に失敗を悟ったアルギスは、内心で頭を抱える。


 そして、黙り込む3人の姿を見回しながら、慌てて言い訳を考え始めた。



「……まあ、要するに10階層程度で止まる気はないということだ。どうせなら、最後まで付き合ってもらうぞ」


 

「貴族なのに、そんなにダンジョンが好きなのか。やっぱり、変なやつ」 



「わ、私はいいと思うよ!」



 捻り出すように口を開くアルギスに、ジェイクとニアは対照的な表情で声を掛ける。


 ジェイクの視線とニアの気遣いにいたたまれなくなったアルギスは、トボトボと小部屋の出口へ歩き出した。



「……そろそろ行くぞ。これほど長い休憩は、階層主の前までしないからな」


 

 のそのそと立ち上がると、3人はアルギスに続いて出口へと向かっていく。


 程なく、小部屋を出た4人は、再びスケルトンを先頭に、洞窟を進み始めた。


 

(ん?あれは、コボルトの群れか。まあ、スケルトンで対処できるか………)


 

 前方に数体のコボルトを見つけたアルギスは、スケルトンを囲むように2つに分ける。


 しかし、僅かに空いた隙間から、レイチェルが剣を手に飛び出したのだ。


 

「――棘氷柱!」



(やたらと気合が入っているな。……空回りしなければいいが)


 

 いつにも増して前のめりなレイチェルに危うさを感じつつも、アルギスは何も言わずに戦いを眺める。


 やがて、コボルトの群れが全て倒されると、歩き出そうとするレイチェルの肩を掴んだ。



「レイチェル、一旦場所を代われ」



「あら?どうして?」


 

 後ろを振り向かせるアルギスに、レイチェルは息を整えながら微笑み返す。


 小さく息をついたアルギスは、呆れ交じりに首を振った。



「お前には階層主との戦いで前に出てもらう。ここで消耗されては、私の計画が狂うんだ」



「……いいわ。その代わり、約束よ?」



 躊躇いがちに頷いたレイチェルは、疑うような目でアルギスを見つめる。


 ややあって、レイチェルが剣を鞘へ仕舞うと、アルギスは入れ替わるように前に進み出た。



「ああ。ニアからポーションを受け取っておけ」



「……ええ」 


 

 アルギスの指示をよそに、レイチェルは顔を顰めながらニアの後ろへ下がる。


 隊列を整えて再び進み出した4人は、これまで以上の速度でダンジョンを攻略していった。



 そして、ダンジョンへと入って10時間近くが経過し、日付も変わる頃。


 遂に4人は、10階層の最奥――階層主の扉の前に到着したのだった。



(これが階層主の部屋。この奥にボスがいるのか)



 アルギスは奇妙な彫刻が刻まれた、巨大な金属製の扉を見上げる。


 チラリと横を見やると、3人の顔にも隠しきれない好奇心の色があった。



「ついに来たな!」



 ウキウキとした表情で扉に近づいたジェイクは、早々に開こうとする。


 しかし、アルギスはジェイクへ駆け寄り、慌てて扉を押さえた。



「おい、待て。まだ入るな」



「……なんだよ」



 やる気に水を差されたジェイクは、唇を尖らせて、扉から手を離す。


 不満げなジェイクの視線を感じつつも、アルギスはどこ吹く風とばかりに肩を竦めた。



「一先ず、ここで止まる。階層主に挑むのは、仮眠を取った後だ」



「ちぇ、せっかくやる気だったのによ」


 

 くるりと踵を返したジェイクはつまらなそうに扉を離れていく。


 一方、辺りを見回したレイチェルは、土がむき出しの地面に顔を顰めていた。


 

「……ここで寝るの?」



「あんまり眠れなさそうだね……」


 

 動揺を見せるレイチェルに、ニアは苦笑いを浮かべながら首肯する。


 しかし、2人へ顔を向けたアルギスは、ニヤリと口角を上げて、ニアの持つ拡張バックを指さした。



「安心しろ。テントもバックに入っている」

 


「なんで先に言わないのよ……」



「間違えて取り出さなくて良かった……」

 


 レイチェルが咎めるような目線を送る横で、ニアは震えながらホッと胸を撫でおろす。


 全員が揃って口を閉ざした洞窟には、ひゅうひゅうと風の抜ける音だけが聞こえ始めた。



「……土の上でなど、眠るわけがないだろうが。さっさと移動するぞ」



 何とも言えない雰囲気が4人を包む中、アルギスは欠伸をかみ殺しながら歩き出す。


 呆気にとられつつも3人がアルギスの後を追いかけると、4人は仮眠を取る場所を目指して移動を始めるのだった。

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