激変

今年の春も、卵を産んだうちのオカメさん。

ケージの隅で、胸と腹の羽毛をぶわりと毛羽立てて、毎日毎日、それはそれは健気に卵を温め続けました。

本能とはいえ、その母性溢れる姿に、ケージの外から見ている家族もほっこりしていたら……。


ガーッッ!

フッ! フッ! フッ!


オカメさん、鬼の形相でケージの入り口まで走り出て来て、全身で威嚇しました。


……すみません、お邪魔しました。



抱卵中のオカメさんは、普段のふんわかおっとりした様子から激変し、とてつもなく警戒心の強い、気の荒い鳥に変貌します。


少し離れた所から様子を見ていても、警戒した目でこちらを見つめ、いつでも飛び掛かれる体勢です。

家族が横を通ろうものなら、ケージを嘴でガンガン突いて警告する程です。

卵を守ろうとする本能なのでしょう。

通るたびに激高するので、ケージの通路側は毛布で覆い隠しました。


……まあ、オカメさんがどんなに守って温めても、無精卵なのでヒナはかえらないのですが……。




一日に一、二度、ため糞を出すためにケージから出るオカメさん。

その時におやつ場で栄養補給します。

しかしその食べ方も、普段の倍速。

笑ってしまうくらいの早食いです。


卵を守る為、オカメさんは急いで食べて、急いで羽繕いし、急いでケージへと戻ります。

その間、五分弱。


あ、あの、オカメさん、ちょっとだけ匂い嗅がせてくれませんかね…?

インコ臭不足の禁断症状に耐え兼ねて、スキンシップを求めて手を出せば、容赦ない嘴攻撃を喰らわされます。


……ブロークンハート。

彼氏(疑似)認定までされたのに、この仕打ち。

ううっ、寂しい。




でもよく観察すると、私だけはケージの側を通っても襲い掛かりません。

一応、おバカ飼い主は特別なのだということで、寂しいのを我慢します。


そうして抱卵に飽きるまで、オカメさんは約三週間をその調子で過ごすのでした。

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