抱卵

今年の四月、オカメさんは四個の卵を産みました。


ケージの隅で、ただひたすらに卵を温めるオカメさん。

本能とはすごいものですね。

教えられたわけでもないのに、ちゃんと嘴の先で卵を一ヶ所に集め、胸の羽毛をぶわりと毛羽立てて、お腹の下へ入れるのです。

そして、ごはんを食べて水を飲む以外は、ひたすらに動かず温め続けます。


普段は短い間隔でう○ちをするオカメさんですが、抱卵期は、卵の側では決して排泄しません。

一日に二度ほど、ケージから出たそうにするので開けてあげると、外に出てケージから離れた所で、もうびっくりするくらいの量を出します。

いわゆる“ため糞”というものです。


卵を汚さない目的もあるのでしょうが、自然界では、頻繁に巣の近くで糞をすると、外敵に巣と卵の存在を知られてしまうからなのだそうです。

お家は安全なはずですが、それも全て本能か…。




そんなオカメさんですが、初めて卵を産んだ年は、なかなか初々しいものでした。



ものすごい挙動不審で、初めての卵を産み落とした後。


『……おかあしゃん これなあに?』


という顔で、卵をツンツン。


その内本能に火がついたのか温めようとしますが、たった一個の卵が上手くお腹の下に入らず、あっちへコロコロ、こっちへコロコロ。

二個に増えると、一個は別の所に転がったまま放置されていたり。

温めるのも、あまり根を詰めず、すぐケージから出てお散歩していました。



そんなある日のこと。

卵二個をケージに放置して、放鳥中のオカメさん。

何だか落ち着かない様子。

その内私の肩に飛んできて、聞いたことのない小さな声を出しました。


次の瞬間。


パシャッ


私の足元に落ちて割れた、小さな卵……。


なんとオカメさん、私の肩で三個目を産んでしまったのです!


私の肩には、羽根と嘴を少し開いて、ガニ股みたいな格好のオカメさんが呆然としていました。

自分でも気付かない内に産気付いちゃったのでしょうか…。




そんな感じで、一年目は大騒ぎでしたが、年々上手に抱卵しています。

出来れば産ませたくないのですが、おバカ飼い主を彼氏(疑似)にしてしまっては、春の発情を止めようがないのです…。

はあ、悩ましい。

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