第15話  せっかく遊園地に来たことだし普通に楽しむのも良いだろう①

 いざ満を持して物販コーナーへと意気揚々と来たは良いものの、どうやら陰陽聖戦コラボが始まったのが丁度今日らしく、入場可能時間が一部と二部で分かれている事が発覚した。


 それぞれ一部は事前予約勢、二部は当日勢という扱いなのだが、丁度今は一部の時間帯。


 当然事前予約をしていない俺たちは参加できないため、既に形成されつつある二部の長蛇の列に加わるか、今更並んでも大した差は無いと一旦別の所で時間を潰すか、あるいは物販自体を諦めるかの選択を迫られる事となる。


「今から並ぶ!」

「今更並んでもメリットは薄いだろうし、時間まで適当にぶらつかないか」

「そもそも物販とか行く必要あるわけ? そんなのより普通にアトラクションで遊ぼうよ」


 そして見事に三者意見が対立していた。


「今から並ばないと全部売り切れちゃうもん!」


 空那がぴょんぴょこ子供のように跳ねながら訴えかけてくる。


「全部は流石に売り切れないだろ。人気商品はなくなるだろうが、どのみち今から並んだって人気商品は手に入らない。それにコラボは一ヵ月以上あるらしいし、今日売り切れたとしても後日また補充されるのは確実だ」


 実際、TVランドの過去のコラボグッズ情報をSNSで確認すれば、再入荷しましたという呟きが多くみられる。まさか陰陽聖戦だけ例外なんてことはないだろう。まぁ高い値段払ってまで行く気無いけど。


「ならそもそも今日物販行く意味なくない? 別の日に再挑戦すれば?」

「入園料幾らかかると思ってるんだ」

「まぁそりゃ安くは無いけどさ」


 俺の指摘に姫井が半目になりながらため息を吐く。

 駄目だな。このままじゃ埒が明かない。

 いっそのこと空那の言う通り並んでしまうのも手か? もとより空那に比重を置くとは決めていたしな。


 空那の方へと視線を向けようとすると、そんな俺の考えを見抜いてか見抜かずしてか、姫井が俺の服を引っ張ってくる。


「じゃあさ、これとか行ってみる? コラボお化け屋敷」


 スマホの画面を差し出されるので見てみれば、TVランドの公式サイトに陰陽聖戦のお化け屋敷コラボが紹介されていた。


「なるほど」


 そんなのもあったのか……。だとしたら案外良い案かもしれないな。それに時間帯も絶妙だ。


「空那、コラボお化け屋敷とかあるみたいなんだが先にそっち行ってみないか」

「え、そんなのあるんだ! 行きたい!」


 早速伝えると、空那は目を輝かせ食いついた。

 

♢ ♢ ♢


 という事でやってきましたコラボお化け屋敷。

 古民家のような外装に朽ち果てたような装飾を所々施されており、雰囲気はそれなり。入り口の前にはコラボキャラの等身大パネルが置いてあった。恐らく期間によって内容が変わるタイプの所だろう。


 一応平日な上、陰陽聖戦ファンは物販の方に集中しているためか待ち時間なしで入れそうだ。


「きゃ~闇隠やみがくれ君がいる~!」


 空那が陰陽聖戦キャラの等身大パネルへと駆け、パシャパシャ写真を撮り始める。


「わーこわそー」


 横から淡々とした声が聞こえてくる。


「そう言う割にまったく怖くなさそうだ」

「ま、アニメとコラボしてるお化け屋敷なんてしれてるだろうし。そういう元宮は……」


 姫井がこちらの顔を覗き込むと、楽し気に八重歯を覗かせる。


「こんなとこで怖がる奴じゃないか」

「いや分からないだろ。まじこエー」

「声のトーンが路地裏に連れてかれた時と同じなんだけど」

「バレてたのか」


 あいつら騙せてたから俺もしかして演技の才能あっちゃいました? ってラノベ主人公みたいな事思ってたのに。


「そりゃ元宮があれくらいでやられる奴なわけないし」


 俺がやられるわけない、か。


「なぁ、お前……」


 姫井の言葉に思う事があり口を開きかけるが、先に入り口の引き戸が開いたため遮られる。


「お待たせしてごめんなさ~い!」


 スタッフと思しきお姉さんが顔の前で申し訳なさそうに手を合わせるが、バイトなのか遊園地独特の雰囲気なのか口調が軽い。


「三名様でよろしかったでしょうか⁉」

「いえ、まーくんと空那の二人です!」

「え?」


 空那の言葉にスタッフのお姉さんが困惑気味に姫井の方を見る。


「あ、その子頭おかしいので無視してください。入るのはあたしとこいつだけで」

「え、えっと?」


 姫井の言葉にお姉さんはさらに困惑した様子だ。


「は~? まーくんは空那と入るんですう!」

「あ? おめーが外で待ってろよ」


 やいやい言い合う二人を交互に見ると、最後にスタッフは俺の方に目を向け指でゲッツしてくる。


「なるほど、つまり修羅場ですねっ?」

「違うので普通に三名でお願いします」

「はーい、では罪なお兄さんと可愛い彼女候補さん計三名様ご案内で~す!」


 なんだこいつ。

 つい胡乱な視線を送り付けてしまうが、お姉さんは動じた様子もなく俺たちを中へと誘導してくる。


 まぁ遊園地のスタッフってエンターテイナーみたいな側面あるからその延長戦なのかね……。

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