Ⅲ 入植者の剣士
新天地へ渡る際、船の出る西の大海に面した港街グラーブルで、ジャンは思わぬ人物と再会を果す。
「……あ! あなたはこの前の!」
「…ん? おお! よく見ればそなた、我が命の恩人ポールではないか!」
それは、あの戦場で倒れているジャンを発見し、フランクル軍の陣まで運んでくれたポール少年であった。
なんでも、あの戦場で漁った武具を売って金ができたため、それを元手に主人のもとを出奔すると、やはり成功を夢見て新天地へ向かうつもりなのだという。
「そうであったか。ならば共に参ろう。先日の恩返しだ。俺は
旅は道連れ世は情け。ここで会ったも何かの縁と、ジャンはポール少年を伴い、知人に紹介してもらった貿易船で新天地へと出航した。
そして、その船旅の道中、彼はポールからある島の話を聞く……海賊達の巣窟〝トリニティーガー〟である。
「海賊か……カタギで成功するのも難しいだろうし、それなら剣の腕も活かせそうだからな……海賊稼業もいいかもしれん……」
少年から聞いた島の話に興味を覚えたジャンは、同じ考えのポールとともにその海賊の島トリニティーガーを目指すことにした。
新天地の海賊達が獲物とするのは、主に祖国の敵対するエルドラニアの船である。
「──少々剣には心得がある。どうだ? 俺を雇って損はないぞ?」
エルドラーニャ島で貿易船を降り、密輸業者の小船に乗り換えてトリニティーガーへと渡ったジャンは、どこか特定の決まった一味に属するのではなく、臨時で船員を募集している船にその都度乗り換え、フリーで稼ぐ雇われ海賊となった。
そこには、例の戦で宮仕えが真底嫌になったという彼の心情が影響していたのかもしれない。
それでも、フランクル屈指の腕前を持つ彼の剣はすぐに海賊達の間でも評判となり、多くの船長達からしつこく専属契約を求められるようになった。
「貴様がジャン・バティスト・ドローヌか? 最近、調子に乗ってるようじゃねえか。そのご自慢の剣の腕前、どれほどのものか俺がみてやるぜ」
また、その評判を聞きつけて、腕に覚えのある海賊達が決闘を挑んでくることもあったが。
「よかろう。遊び相手になってやる……」
彼の剣の前に、それは赤子の手を捻るも同然であった。
「おらあっ! …あひぃっ…!」
時に振り下ろされたカットラスを細身のレイピアで受け流すと、返す刀で拳を打って剣を叩き落とし。
「せやあっ! …うぐっ…!」
時に刃を斬り払っては、相手の二の腕を軽く刺突する。
そうして、息があがることもなく、対戦者を軽々とあしらっていった。
「先生! 俺達を弟子にしてくだい!」
やがて、決闘を申し込む者も見かけなくなると、今度は彼に剣の指南を求める者が現れ始める。
「いや、俺は別にフェンシング・マスターじゃないし、弟子をとる気もないんだが……まあ、自分の稽古にもなるし別にいいか……」
そんな軽い気持ちで引き受けるジャンであったが、あれよあれよという内にその弟子達は増えてゆき、いつしか彼の取り巻き達は、剣術道場の一門を構えるかの如き様相を呈するようになった。
一方、その間も雇われ海賊稼業は続けていたので、彼とその一門は集団で雇用される傭兵団のような形態を経て、さらには独立した海賊の一味へと変貌してゆく。
「こうなると自前の船がいるな……とりあえず中古の船でも買うか……」
これまでの仕事でだいぶ蓄えも溜まっていたので、ジャン達は皆で金を出し合い、小ぶりながらもスループ船を一隻購入した。無論、
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