第33話
全ての部活のチェックした後、私はまた生徒会室で書類整理を再開していた。
「私も手伝いますよ。会長」
「助かるわ。ありがとう」
今こうして書類整理を手伝っている彼女の名前は
この生徒会で副会長の役職を任している。
真面目でしっかりしていて生徒会には欠かせない人間だ。
業務内の仕事もそつなくこなし、周囲の気配りもできていることからこの生徒会では彼女のことを悪く言う人はいない。
実際、私も彼女が副会長だからここまで生徒会長をやってこれたと思っているわ。
「会長は高等部にあがっても生徒会に入るのですか?」
書類整理をしながら平沢さんは私に話しかけてくる。
「どうかしらね。そんなに意欲的ではないかもしれないわ」
私がそう返答すると平沢さんは意外そうな顔をする。
「1年の時から生徒会に勧誘されて2年生からあれだけ生徒会長を立派に務め上げたというのに…」
「それは私だけの力じゃないわよ」
これは謙遜ではない。本気で私が思っていることだ。確かに平沢さんが言うとおり、私は生徒会長としてそれなりに役目を果たしてきただろう。
しかしそれでもこれが私に合っているかといえば話は別だ。
橘家の方針で人の上に立つことを強いられているから仕方なくやっているがどうにも私の性に合っているとは思えない。
「私は高等部にあがっても会長と一緒に生徒会に入りたいですよ」
平沢さんのその言葉は私の胸を高鳴らせる。彼女はこう言うことを平然と言ってくる。
「…な、なんだかそう言われると嬉しいわね」
気恥ずかしさもあり、感情がバレないように取り繕う。
しかし平沢さんはさらに思いを伝えてくる。
「会長!私本気で言ってるんですよ!」
そう言いながら顔を近くに寄せてくる。
ちょ、近いわよ…!平沢さん!
「あれ?会長なんだか顔赤くないですか?」
「き、き、気のせいよ!」
我ながら情けない返しね。
心では平静を装うと心がけているが平沢さんの前だとどうにもこうなってしまう。
「体調が優れないのなら今日は早めに切り上げませんか?」
「え、えーと…、そうね。今日はこれくらいにしときましょうか」
私たちはキリのいいところまでやって生徒会室を後にする。
平沢さんと一緒に下駄箱に向かっている途中、廊下の向こうから数人の集団が目に入る。
「…あれは澤田さん」
「そうね。相変わらずいつものように取り巻きを引き連れているようね」
澤田さんは私たちに気づくと目の前で止まる。
「あら、橘さんに…えーと、平川さんでしたっけ?」
澤田さんは貼り付けたような笑みを浮かべながら私たちに話しかけてくる。
「平沢さんよ。何回も言ってるでしょ。いい加減に覚えなさいよ」
「あー、すいません。覚えるように努力はしてるのですが…。生憎、庶民の人とは交流を持つ機会がなくて」
澤田さんはあからさまな態度で平沢さんを馬鹿にする。
「ここは学校よ。外ではともかく今は関係ないはずよ」
「橘さんがそれを言うのですね。…まぁ、一理ありますし、今日はこの辺で失礼しますね」
嫌味たらした笑みでそう言って澤田さんたちは私たちを通り過ぎて行った。
下駄箱で靴を履き替えながら、私は平沢さんにフォローを入れる。
「さっきのことは気にしなくて大丈夫よ」
「…い、いえ。いつものことなのでもう慣れっこですよ」
平沢さんは苦笑いをしながらそう答える。その表情にはもう何かを諦めているように見える。
黒白院は資産家の令嬢の者が大多数を占めている。だからみんな小さい頃から社交界やパーティーなどで顔合わせをしたことある人が多い。
しかし平沢さんは一般家庭出身だ。
そこから外部受験で高い成績を残し、黒白院に中学から入った。
定期テストでも常に上位の成績を収め、生徒会では副会長を務めている。
保守的な黒白院の生徒からしたら面白くないないだろう。
先ほどの澤田さんは極端な例だがだいたいの生徒は今だに平沢さんをはれものように接する。
私はそれが納得できない。家柄なんて親の力であり、自分が努力して得た者ではない。
それを我が物顔で得意げにしてる黒白院の生徒の気持ちを理解することなどできない。
私たちは分かれ道まで一緒に帰り、そのまま互いの帰路についた。
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