第30話
「驚いたよ。橘さん。まさか黒白院の高等部に進まずに百合ヶ丘第三高校に進学するなんて」
「………」
「この前駅で会った時は急に走っていなくなってしまったし…」
「………」
「あ!そういえばこの前駅で会った時に橘さんと一緒にいた人って新しくできたトモダ————」
「何しにきたのよ」
私はあえて言葉をかぶせてそう言った。
私の態度から察したのだろう。平沢さんの表情も変わる。
「これでも私けっこう心配していたのよ。橘さんアレからまったく学校に来なくなって黒白院からいなくなってしまったから」
「………」
「やっぱり私のせいかな…?」
平沢さんのその言葉を聞いて私は抑えつけていた感情が昂りそうになる。
「その…ごめんね。私のせいで橘さんが築き上げてきた居場所を壊してしまって…」
「………」
「学校が違くても…私たち友達のままだよね。それに他の黒白院の生徒だって橘さんに会いたがって————」
「自惚れないで!!」
平沢さんを前にして冷静にいられるなんてできなかった。私は感情的にそう言い放った。
「アンタ如きが私の居場所を壊したなんて思い上がりもここまできたら救いようがないわね!私は…逃げたんじゃない!自分であの黒白院に見切りをつけたのよ!!アンタに心配される筋合いなんてないわ!!」
普段の私からは考えられないくらい感情を表に出してしまった。
「そ、そうだよね。ごめんね。橘さん」
平沢さんは俯きながらそう言った。
そして小さな半分に折り畳まれた紙片を差し出してきた。
「一応だけど私の電話番号が書いてるよ。また後日、今度はもう少し落ち着いた場所で2人で話そう。いつでもいいから連絡してね」
彼女はそう言った後に私の耳元である言葉をささやく。
「なっ!?…アンタ…」
私にしか聴こえないほどの小さな声。
しかしその言葉には私の心臓を握りつぶされるような不快感があった。
「それじゃあまたね」
何事もなかったのように平沢さんはその場から去っていった。
私は去り行く彼女の背中をただ見ることしかできなかった。
しばらく間、その場に立ち尽くし動くことができなかった。
〜〜〜〜
自宅に帰った後私は最後の平沢さんの言葉がずっと頭の中で流れていた。
百合ヶ丘第三高校に入ったばっかりの時だったらあんな言葉無視することができただろう。それくらい私の心は凍っていた。
なのに…なんでなのよ。
その言葉を聞いた瞬間、真っ先に私の脳裏によぎったのは他でもない彼女。
美波恭華だった。
認めたくないけど私にとって美波さんはそれほどの人になっていたのかしら。
そう考えている時に着信音がなる。
相手は美波さんだった。
普段なら絶対に取らないが不幸にも今日はいろいろなことが起きた。
私らしくないが誰かと話がしたかった。
私はスマホを手に取り、電話に出た。
「何よ。電話なんかかけてきて」
『橘さん。今時間はあるかしら?できればこれからあなたと会って話たいのだけど』
「普段なら断るけど今日は特別よ。今から私の部屋に来て。それなら会ったあげるわ」
そう言い終えたあと、電話を切る。
そして今すぐに部屋のインターホンがなった。
私はドアを開けて美波さんを部屋に入れる。
「橘さん。あなたと話したいことが2つあるわ」
「2つ?1つなら心当たりがあるかともう1つは何かしら?」
「1つ目は今日の藤沢さんの件よ。2つ目は今日の下校の時、校門前にいた他校の生徒のこと」
私はその言葉を聞いて驚きを隠さなかった。
「まさか私たちの会話を聞いていたの?」
「全部聞いた訳ではないわ。たまたま帰るタイミングで重なっただけよ。それにあの時は幸運にも私以外人はいなかったわ」
私はそれを聞いて少し安堵する。
「今までは橘さんの気持ちを考慮してあえて聞かないようにしてたけど今日の藤沢さんの一件のように無闇に人に当たり散らすのなら話は別よ」
少し癪に障るが彼女の言ってることも一理あった。
「橘さん。あなたは中学の時、一体何があったの?」
百合ヶ丘第三高校の生徒に私の過去、そして生い立ちを言うつもりなんて毛頭なかった。
だけど…不思議なことに私は美波さんに話し始めた。
無論、いくつかはぼかしながら話す。
この一夜が私の高校生活において大きな分岐点となる。
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