第28話
「お邪魔するわ」
私はシャワーを浴びたあと、美波さんと一緒に彼女に部屋にあがった。
美波さんの部屋は良い意味で言うならならシンプル、悪い意味で言うなら何もない殺風景な部屋だった。
必要最低限の家具、そして本棚には学校の教科書と問題集が並べられていた。
本来、部屋は住人の性格、趣味、嗜好などが色濃く反映されるはずだ。
しかしこの部屋にはそれがまるでなかった。
ほんの少しだが何か歪な感じがする。
けどすぐに頭を切り替える。いくらなんでも部屋一つでそこまで深読みする必要なんてない。
「橘さんの部屋に比べたら地味かもしれないわね?」
私の様子を見て美波さんがそう問いかけてくる。
「別に部屋なんて本人が落ち着くならなんだっていいわよ」
私は適当にそう答えた。
考えてみたら私、美波さんのことあまり知らないわね。
まぁ、出会ってからあまり時間も経ってないし何より興味ないから別に良いけど。
「橘さんの部屋は女の子感満載だものね」
「それバカにしてるでしょ」
「そんなことないわよ。可愛らしくて良いと思うわよ」
そう言った後、美波さんは話を続ける。
「今みたいな感じで話したら学校でも話せる人が増えると思うけど。橘さんの場合、表現もキツいから一概には言えないわね」
「余計なお世話よ。言ったでしょ。私は1人が好きなの。これからの3年間、このスタンスを変えるつもりはないわ」
「うーん、まぁ私は橘さんの考えを尊重するわ」
納得はしていない様子だが美波さんはそう答える。
これ以上この話をするのも面倒だから私はあえて違う話題に変える。
「そういえば今日は確か4月の22日よね?」
「ええ、そうだけど。それがどうかしたのかしら?」
「来月の5月19日から25日までの4日間、1学期の中間テストが行われるわ。そこでもう一度私とテストで勝負をしてくれないかしら?」
私はあらかじめ学校の一年間の行事一覧をしっかり確認していた。
来月の19日、20日、23日、24日の4日間は中間テストが実施される。ちなみに21日と22日は土日だから休みである。
以前、私は美波さんと実力テストで勝負をした。勝った方は負けた方に1つ言うことをきいてもらうと言う条件をつけて。私はそれで圧勝して金輪際、関わらないで欲しいと言うつもりだったが結果は1点差で負けてしまった。
もう別に言うことをきかせることについてはどうでも良い。
けど負けっぱなしなのは私のプライドが許さない。
「私は構わないけど。また結果によって何か賭けるのかしら?」
「いいえ、今回は別にそのつもりはないわ。
ただ純粋にあなたともう一度勝負がしたいだけよ」
「うーん、けどやっぱりそれだとなんだか張り合いがないわね」
「どういう意味よ」
「やっぱり前と一緒のルールにしましょう。
勝った方が負けた方に1つ言うことをきいてもらうやつよ」
美波さんに悪意がないことは分かっているがその言葉は私の神経を逆撫でした。
「随分と強気なのね。言っておくけど前回勝てたからって今回も勝てるとは限らないのよ」
このわたしも舐められたものね。
いいわよ。次私が勝てばいいだけよ。
そしたら私に関わらないように命令することができる。私としては願ったり叶ったりね。
私は心の中で闘志を燃やすのであった。
〜〜〜〜
美波さんのベットの隣の床に布団を敷いた。何気に床布団で寝るのは人生で初の経験だった。
なんだか腰が痛くなりそうね。
私がそんなことを考えていると美波さんが声をかける。
「じゃあ、そろそろ休みましょうか」
「そうね」
美波さんはリモコンを手に取り、照明の明かりを消した。部屋は一気に真っ暗になる。
「おやすみなさい。橘さん」
そう言ってベットの中に入っていく。
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「私、真っ暗だと寝れないのだけど」
私はいつも豆電球にして寝ている。
真っ暗だと落ち着かなくなって眠れないからだ。
決して怖いとかそう言うのではない。
「…橘さんって、なんだかめんどくさいわね」
部屋は真っ暗なので彼女がどういう表情をしているかは分からないが声色からして少し呆れているのはわかった。
「仕方ないでしょ。そういう体質なんだから」
そして美波さんはすぐにリモコンで照明を豆電球にしてくれた。
おかげで辺りの様子が見えるようになった。
「橘さんの彼氏になったらいろいろと大変そうね」
「うるさいわね。別に問題ないわよ。彼氏なんて作るつもりないし」
私がそういうと美波さんは少し驚いたような表情をする。
「橘さんすごく可愛いのに…勿体無いわね」
「どうでもいいわよ。そんなの。それに…容姿ならアンタだってすごく綺麗じゃない」
「あら、橘さんからそう言われるとなんだか嬉しいわね」
「だけど性格は私にウザ絡みしてくるなら嫌いだけどね」
「もう、すぐそういうこと言うんだから」
そんなどうでもいい話を続けているとだんだんと睡魔が襲ってくる。
気がついたら私の意識は途絶えていた。
〜〜〜〜
朝になり、私は目を覚ます。
上半身だけ起き上がり、軽く身体を伸ばす。
慣れない床布団で寝たから熟睡できないと思っていたけど疲れやダルさは感じない。
快眠だった。
「床布団も案外悪くないわね」
そう言って布団の方を見るとそこは床布団ではなくベットの上だった。
「は…!???」
私は一瞬、思考が止まってしまう。
寝起きなのでまだ頭はちゃんと回ってないが昨日寝る時私は床布団で寝たはずよ。
美波さんがベットで寝ていたのになんで私がベットにいるのよね。
ま、まさか美波さん、私が寝ている間に勝手に私をベットに連れ込んだのかしら?
そういえば昨日私のこと可愛いって言ってたし。自分の中で変に考えが飛躍してしまう。
辺りを見渡すが美波さんの姿がなかった。
すると部屋のドアが開いた。
濡れた髪の毛をバスタオルで拭きながら美波さんは部屋に入ってくる。どうやらシャワーを浴びていたようだ。
「起きたようね。おはよう。橘さん!」
私の顔を見て笑顔でそう言ってくる。
普通なら返事をするだけだろう。しかし寝起きで頭が混乱していた私は違った。
「こ、この…ケダモノッ!!!!」
「ん!?」
美波さんはポカンとした顔をする。
「寝込みを襲うなんて卑劣よ!!」
「橘さん、何を言ってるのかしら?何か誤解してない?」
「え!?」
美波さんは訳を話し始める。
「橘さん、夜中にトイレか何かで起きて済ませた後に寝ぼけて私のベットの中に入ってきたのよ」
「は…!?」
私の動揺などつゆ知らずに美波さんは話を続ける。
「しかも私のことを抱き枕か何かと勘違いして思いっきり抱きついてきて寝づらかったから仕方なく私が床布団で寝たのよ」
話を全て聞き終えた後、おそらく私は今にも火が出るほどに顔が真っ赤になっていただろう。
「あー、でも普段はツンケンしてる橘さんを見ている私からしたらギャップがあって可愛かったから別に迷惑だったわけではないわよ」
私の様子を見てか気を使ってフォローを入れてくれる。
しかしそれが余計に惨めに見えて恥ずかしくなった。
「あんた!絶対にこのことクラスの人に言うんじゃないわよ!!」
私の声が部屋中に響き渡るのであった。
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