第26話
美波さんからのリクエストの料理を作り終えて時刻を確認する。
18時50分。
美波さんとは19時に私の部屋で晩御飯を一緒に食べることになっている。
「予定通りね」
出来上がった料理をお皿に移してテーブルに並べた。
出来立ての料理を食べれるなんて美波さんは贅沢ね。
準備が整い、あとは美波さんがくるのを待つだけだ。
その瞬間にインターホンが鳴った。確認をすると美波さんだった。
玄関を開け彼女を家に入れる。
すると美波さんは片手に何かをぶら下げていた。
「なに持って来てるのよ?」
私がそう尋ねると美波さんは満面の笑みで答える。
「食後に橘さんと一緒に食べるスイーツよ」
美波さんはそう言って中身を見せてくる。
袋の中にはコンビニで売られているモンブラン、抹茶プリン、フルーツプリン、イチゴと生クリームのプリンなどあった。
「橘さんが料理を作ってくれている間に近所のコンビニで買ってきたわ」
正直に言うとどれも私の好きな物ばかりだった。食後の楽しみができたことにより愉悦を感じるが悟られないようにあえて平静を装う。
「ふーん…。アンタにしては気がきくわね。まぁ、いいわ。冷蔵庫に入れとくから食後に食べましょう」
私はそう言って冷蔵庫の方に向かう。
美波さんに背を向けて冷蔵庫にスイーツを入れていく。すると後ろの方から美波さんが話しかけてくる。
「よかったわ。橘さんも喜んでくれてるみたいね」
「気遣いとしては悪くないけどコンビニスイーツの時点で減点よ」
私はいつものように冷たい反応をする。
「あら、その割には喜んでいるのを必死に隠しているように見えるけど?」
「は!?隠してなんかないわよ!」
私は内心を覗かれたような感覚になり反射的に否定した。
「本人は自覚してないようだけど橘さんって相当分かりやすいわよ」
美波さんはイジワルな笑みを浮かべながら言う。
「うるさいわね!いいからさっさとご飯食べるわよ」
私は無理やり会話を終わらせ、料理があるダイニングの方に向かう。
テーブルに置かれている料理を見て美波さんは話し始める。
「相変わらず美味しそうなオムライスだわ。食べるのが楽しみよ」
美波さんがリクエストしたのはまたオムライスだった。以前に一度食べたので次は違う料理を頼むと思ったけど。
よほどオムライスが好きな料理なのかしら?
お互いに対面して席に座り、料理を食べ始める。
「美味しい!」
美波さんはオムライスを一口食べて開口一番に言う。
「やっぱり橘さんの料理はすごく美味しいわ!」
「オムライスなんて誰が作っても一緒よ」
「そんなことないわよ。私、橘さんの作ったオムライスすごく大好きよ」
美波さんは満面な笑みでそう言った。
「………」
その嘘偽りのない言葉は悪くないものだった。少なくとも今までの人生では経験したことがないものだった。
「橘さん?どうしたの?食事が止まっているわよ」
私の様子を不思議に思ったのを指摘してくる。
「いえ、なんでもないわ。それよりアンタこそオムライスばかり食べないで味噌汁も飲みなさいよ」
本来ならオムライスにはコンソメスープが定番だが今日の冷蔵庫の材料的になめこの味噌汁を作らざるえなかった。
なめこは保存期間が短いから仕方ないのよ。
それに今日急にご飯を食べに来た美波さんが悪いのよ。
「なめこ……」
味噌汁の具を見た美波さんが露骨に嫌そうな顔をする。
「美波さん、なめこ嫌いなの?」
「あまり…好きではないわね」
美波さんって学校では勉学も運動も非常に高いレベルでこなす完璧人間なのに。
プライベートだとけっこうガキくさいわね。
「せっかく作ったんだから出された料理はちゃんと食べなさい」
「はい…」
なんで私がこんなお母さんみたいなこと言わないといけないのよ!
美波さんは嫌々ながらも味噌汁を一口飲む。
「あっ、美味しい」
美波さんはそう言って味噌汁を全部飲み干した。
「なめこは好きじゃなかったけど意外と悪くないわね」
「もう高校生なんだから食わず嫌いしないでなんでも食べなさいよ。食べてみたら案外なんでも食べれるものよ」
私がそう言うと美波さんはクスッと笑う。
「何よ」
「橘さんさっきから口うるさいお母さんみたいなことばかり言うから」
「誰のせいだと思っているのよ!」
〜〜〜〜
食事を終え、皿洗いなどの片付けも終わり、私は美波さんの話を適当に相槌をうっていた。
スマホで時間を確認すると時刻は20時だった。
「アンタいい加減帰りなさいよ」
「確かにそろそろいい時間ね」
やっと1人になって落ち着けると思った瞬間、美波さんから予想外の提案をされる。
「今日は金曜日で明日、明後日は学校休みだし橘さんの部屋に泊まってもいいかしら?」
「絶対にいやよ」
普段、美波さんと一緒にいるだけでもしんどいのにお泊まりなんて考えられないわ。
「いいじゃない!橘さん。寝る時はガールズトークで花咲かせましょうよ」
「いやよ。というか部屋隣りなんだから自分の部屋に戻りなさいよ」
「分かったわ。最後は自分の部屋に帰るから。もう少し遅い時間まで居させてほしいわ。こういうのって一人暮らしじゃないとできないことだし」
「はぁ…。仕方ないわね。それぐらいならいいわ」
さっさと帰ってほしいけどお泊まりという最悪を回避できたならなんでもいいわ。
「橘さん、テレビつけてもいいかしら?」
「テレビ見たいなら自分の部屋で見なさいよ」
「2人で適当に見たいのよ」
「いいわよ。私は別に見たい番組なんてないから美波さんの見たいやつでいいわよ」
「分かったわ」
美波さんはそう言ってテレビをつけてリモコンで番組表をチェックした。
「これ面白そうね」
そう言って美波さんはチャンネルをその番組にした。
しかしその番組を視聴したことにより私の今夜のプランが崩れることになる。
番組名は「実際にあった怖い話」だった。
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