第24話
それなりにケーキを食べてお腹は満腹になった。
「まぁ…、これぐらいで終わりにしようかな」
私はそう言ってフォークをお皿の上に乗せる。
すごく美味しかったけどちょっと食べ過ぎだかもしれないわね。
しばらくは食事に気を使わないと健康にも良くないし、体型も崩れてしまうわね。
私がそんなことを考えている中、目の前の美波さんの視線を感じる。
彼女は何か言いたげな表情をしていた。
「橘さん…、よくそんなに食べれるわね」
「今日は特別よ。普段はこんなに食べないわよ」
「…本当かしら?」
美波さんは私の発言を信じてない様子だ。
「本当よ。私は美波さんと違って自炊をちゃんとしてるから栄養管理も抜かりなくしてるもの」
「…そ、それを言われると何も言い返せれないわね」
美波さんはバツの悪そうな顔をする。
「それと前から気になっていたけど美波さんってあんなだらしない食生活をしているのにどうして体型を維持できているの?」
以前、私とスーパーに食材を買いに行った時、彼女はカップ麺やインスタント食品ばかりを買っていた。
どう考えても不摂生な食生活だ。
というかよく親御さんは一人暮らしさせるのを許可したわね。
「うーん。そう言われても分からないわね。とりわけ何か気をつけているわけではないわね」
この女、まさか私の嫌いな「ワタシどんなに食べても太らない体質なの〜♪」って言うつもりじゃないでしょうね。
しかし美波さんが続けて発した言葉は私の思っていたものではなかった。
「だけど私、身体を動かすのは好きだからよく1人でランニングしたり軽い自重トレーニングとかはしてるわよ」
「へぇ、意外ね。自主的に運動をする習慣があるのね」
「そういう橘さんはどうなの?中学時代はサッカー部だったのでしょ?」
「…え?」
私は美波さんのその発言に驚きを隠せなかった。
「ちょっと待って!なんでそのことを知っているの?私あなたに一回も中学のことを話してないはずよ」
前回の体育の私のプレーは確かに周りの人たちより秀でていたと思う。それに連想して適当に言っているなら私もこれほど動揺はしない。
けど美波さんの発言にははっきりと断定した口調で話している。
「急にそんなに驚いてどうしたの?」
「べ、別に驚いてはないわよ。ただなんで私がサッカー部に所属していたのを知っているのか気になっただけよ!」
「その反応だとどうやら合っているよね」
「どういう意味よ」
私が疑問をぶつけると美波さんは理由を答え始める。
しかしその瞬間美波さんの雰囲気が少し変わったように見えた。
「体育の授業で橘さんのプレーを見て中学の頃にサッカー部に属していたのは容易に想像ができるわ。明らかに経験者の動きだものね。だけど…、あの感じだと中学というよりもっと昔、おおよそ小学校の低学年くらいからやっているわね」
私はその言葉を聞いて背筋が凍りついてしまう。私が体育で見せたのはあくまでもワンプレーのみだ。たった一回ドリブルで上がりFWにクロスをあげた程度だ。それ以外はほとんど試合で活躍などしなかった。
なのに美波さんはあれだけで私が小学校低学年からサッカーをしているのを見破ったのだ。
だがそんなのお構い無しに美波さんは話を続ける。
「人は言葉を発しなくても意外と他人に己の情報を開示しているのよ」
「どういう意味よ?」
「目つき、しぐさや動作そしてあとはオーラよ」
「…オーラ?」
私はさらに意味がわからなくなってしまう。
「どんな人間も何かしらの物事に時間をかけた場合、習得の個人差はあっても皆経験者特有のオーラを発してしまうものよ。橘さんの感じからしてけっこう前から鍛錬を重ねているように見えたのよ」
私は美波さんの説明を聞いて驚きを隠さなかった。
彼女は間違いなく人を見る目を持っているからだ。
そしてその事実は同時に私にとって言葉にできないきみ悪さと誰にも知られたくない過去に踏み込まれる恐怖すら感じた。
「美波さん。前からずっとに気になっていたけどどういう意図で私に絡んでくるの?
あなたなら私に執着しなくてもすぐに誰とでも友達になれるはずよ」
私が神妙な口調で話す。
すると私には聞こえない程度の小さい声で美波さんが何かを言った。
「…少し踏み込みすぎたわね。」
「え?何て言ったの?」
私がもう一度聞き返すと気のせいか美波さんはいつも通りの優しい雰囲気に戻る。
「なんてね!別に深い理由なんてないわよ。私はただ純粋に橘さんと友達になりたいだけよ!」
お淑やかで物腰が柔らかくついつい気を許しそうになってしまう。
いつもの美波さんだ。
正直に言えば美波さんはいい人だ。
鬱陶しくてわずらわしく思う時もあるけどこんな気難しい私にも話しかけてくれる。
それでも…私は美波さんの全てを理解できてない。今みたいにたまに私の予想を超えたことをしてくる。
だからこそ……私は…怖いのよ。
また裏切られるかもしれないから…。
〜〜〜〜
お店を後にして私たちは駅で帰りの電車が来るのを待っていた。
美波さんは私に他愛もない話題を話しかけてくる。
それを適当に聞きながら時間を潰していた。
すると後ろの方から1人の女性が話しかけてきた。
「…か、会長?もしかして会長ですよね?」
その呼び方に聞き覚えがあった。
私のことをそうやって呼ぶのは黒白院の人だけだ。
そして私が最も会いたくない人物だった。
「……平沢さん…」
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