第23話

「正直に言うとあまり友達が多かった生徒ではなかったわね」


 まあまあ悲しいことなのに美波さんは平然とした様子でそう言った。


「なんだか意外ね」

「あら、そうかしら?」

「少なくとも私が見てる中では友人付き合いが苦手なタイプには見えないわ」


 あっ…、いやそういえば美波さん距離感はおかしいわね。

けどそれだけで友達が少なくなるとは考えられないわ。

容姿だって凄くいいし自分から行動をしなくても勝手に人が集まってくるタイプに見えるわ。


「軽い世間話をする程度の人ならいっぱいいたけど心から信頼できる人はいなかったわね」

「なんだ…。話しかけてくれる人いたのね。

てっきり1人も友達のいないぼっちだと思ったわ」

「今の橘さんみたいな感じかしら?」


 美波さんは冗談めかした様子でそう言ってきた。


「何よ。…悪いけど私は自分から1人でいることを選んでいるだけよ。集団に馴染めず独りぼっちになってる人とは違うわよ」

「やっぱり意地でも独りでいることを選ぶのね」

「ええ、そうよ」


 私はそう返事をしてショートケーキを一口サイズにして口に運んだ。

すると今度は橘さんが私に疑問をぶつける。


「橘さんこそ中学ではどんな生徒だったの?」

「別に…普通よ。特別な話なんてないわ」


 そう…。本当に何もないわ。

ただ私が無知で愚かだっただけ…。


「ふーん、まぁ乗り気じゃない人にこれ以上昔話を強要させるのは良くないわね」


 美波さんはそう言って取り皿にあるモンブランを食べるのを再開する。

しばらく無言でお互いにケーキを食べているとまた美波さんが会話を持ちかけてくる。


「じゃあ、さっきと話題を変えてもう一個橘さんに質問してもいいかしら?」

「次は何よ」


 美波さんは人差し指を上に立てながらこう問いかけてきた。


「橘さんって彼氏できたことあるかしら?」

「ぶっ!!」

 

 私はその言葉に反応してむせそうになってしまう。

急いで手元のコップの水を口に流し込む。

 予想の斜め上どころか圧倒的に予期しなかったことを聞かれたので驚いてしまった。


「急に何をいうのよ!?」

「え、いやただの恋愛話のつもりだったのよ」


 私の様子を見てほんの少し申し訳なさそうになる。


「橘さん、大丈夫かしら?」

「…問題ないわ。美波さんからこういう俗っぽい話をされるとは正直思ってなかったわ」

「あら、それは心外ね。私だってありふれた普通の女の子なのよ」


 は…?何言ってんのよ。こいつは。


「悪いけど私女子中だったから出会いなんて一切なかったわよ」

「あー、そうだったわね。じゃあ、今クラスで気になってる人とかいな—」

「アンタ、それ答えが分かっていて聞いているでしょ?」


 私はあえて美波さんの言葉を遮る。


「まぁ、いないわよね。好きな人どころか橘さん学校ではまったく誰とも話していないし」


 私の態度を見て美波さんもこれ以上この話を続けても意味がないことを悟る。


「そういうアンタはどうなのよ」

「残念だけど私も誰とも付き合ったことはないわよ」 

「本当かしら?」


 私は美波さんを凝視する。

こいつ…、もしかして清純ぶっているんじゃないんでしょうね。


「本当よ。私は普通の公立中に行っていたから男子もいたけどそういう発展にはならなかったわ」

「けど告白とかはされたでしょ?」

「まぁ…、それは秘密よ」

「自分からこの話題をふってきたのに何よ。それ」


 こんな感じでこの話は終わるかと思ったが最後に美波さんは興味深い話をした。


「けどね…、告白とかそういうのはなかったけど面白いなって思える子は1人いたわね。

訳あってその子とは1ヶ月程度しか関わりがなかったけど」

「へぇ、どんな感じの人だったの?」

「普通の後輩よ」

「後輩……、アンタ意外に年下に手をだすタイプなのね」

「人聞きの悪いこと言わないでよ」


 そして私たちは目の前をケーキを食べるのであった。

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