第22話
「やっと着いたわね」
学校終わりに急いで電車に乗り、2時間かけてようやく目的地に到着する。
「さぁ、早くお店に入るわよ」
「2時間も電車に乗ったのに元気ね。橘さんは」
美波さんは珍しく顔を引きつらせている。
確かに学校終わりに電車に2時間乗るのはハードである。
私と美波さんの住んでいるアパートは百合ヶ丘第三高校から歩いて行ける距離にあるので長時間の電車移動はする機会がない。
正直に言うと私も少し疲れたがスイーツバイキングのためならこれくらい何の問題にもならない。
お店の中に入ると、女子高生や女子大生そしてカップルで溢れていた。
「けっこう人がいるわね」
「ええ、人気店だから仕方ないわ」
私たちは店員に案内されて席につく。
一通りの説明を受けて、バイキング形式のケーキを取りに行く。
私はついついケーキをいっぱい取り皿に取ってしまう。
フルーツケーキ、ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキなどなど食べたいものがたくさんだ。
言葉にはできない内からくる高揚した気分になる。
やばい…。楽しいわね。
私は席について取ってきたケーキを食べ始める。
はじめは無難にショートケーキから食べる。
口の中に入れた瞬間、ほどよい甘さが広がっていく。生地はふんわりしていて生クリームも良い。何よりこの甘さにイチゴの酸味が完璧に調和している。
私が美味しくケーキを食べている中、目の前に座っている美波さんの視線を感じた。
「何よ。ジロジロ見て」
「橘さんって本当に美味しそうに食べるわね」
美波さんはいつものようなお淑やかな笑みをしながらそう言ってくる。
「そういうあなたはせっかくケーキバイキングに来たのに全然食べてないわね」
彼女の取り皿にはモンブランが一つだけのせられていた。
それを徐々に食べている。
「こういうのはゆっくりと味わいながら食べて楽しみたいのよね」
「それ嘘でしょ」
私は美波さんにさりげなく指摘する。
美波さんはほんの一瞬だけ目を丸くしたがすぐにいつもの様子に戻る。
「あら、それはどういう意味かしら?」
「入学してからずっとアンタにウザ絡みされているのよ。しかも四六時中。少しぐらいはアンタのことも分かってくるわよ」
確かな自信があったわけではなかったがどうやら図星だったようだ。
「美波さんって甘いものそんなに好きじゃないでしょ」
「上手く隠せていると思ったけど…。橘さんにはバレてしまったみたいね」
「以前ホットケーキが名物のカフェに行った時もそれを注文していなかったし、スーパーに行った時も身体に悪いインスタント食品ばっかりの中ジュースなどの甘味系は一切なかった。それに学校でもいつもサンドイッチなどの惣菜系のパンを食べているからそうかもしれないと思っただけよ」
私がひと通り話し合えると美波さんはさっきよりも目を丸くしていた。
「…驚いたわ。橘さんって意外と私のこと見ているのね」
「ハァっ!?何よそれ!!」
私は少し取り乱してしまう。
「橘さん、普段は人に関心なんて無さそうだから正直びっくりよ」
「…い、いや…たまたまよ!適当に言っただけだから!」
私はそう言って話を終わらせて目の前にあるケーキを食べるのを再開する。
私はケーキを食べながら少し思考を整理する。
美波さんはあまり本音を言わないし、何を考えているのかも正直よく分からない。
普通の人間ならポーカーフェイスを装っているつもりでも表情に表れたりするものだ。
私は環境的要因や育ちも多少関係していると思うが昔から人の感情を読み取ることには長けていると自負している。
だからこそこの美波恭華には違和感を感じてしまう。
ここまで読めない人間は私の経験上出会ったことがないからだ。
そこで私は美波さんに一つ疑問をぶつける。
「ねぇ、アンタって中学の頃からそんな感じなの?」
「橘さんが私のことを聞いてくるなんて…
やっぱり甘いものを食べている時は上機嫌になるみたいね」
「何言ってるのよ。別に…嫌ならいいけど」
私がそう言うと意外にも美波さんは中学時代のことを話し始めてくれた。
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