第20話
「え〜!?じゃあ2人とも同じアパートで部屋も隣同士なの!?」
「はい。私も初めは驚きました」
「すごいわね。そんな偶然あるのね」
美波さんも身体を洗い終え、浴槽で合流したことにより2人は談笑していた。
「初めての一人暮らしで不安な事だらけだと思うけど近くに友達がいると心強いわね」
「はい。そのとおりです」
私を挟んだ状態で会話が盛り上がっていた。
というかなんで私真ん中にいるのよ。
それに私勝手に美波さんの友達認定されているし。
「友達じゃないです」
私が口を挟んだことによって2人の会話が止まる。
「あぁ、…そうなの?」
野坂先生は少し戸惑った様子になる。
私の発言により一気に空気が悪くなる。
よし。これでいいわ。
ここで私を挟んで変に会話が弾むくらいならこっちの方が断然マシよ。
それに湯船にもそれなりに浸かったし私はそろそろあがろうと思っていたし。
一度会話の雰囲気を最悪にしたんだから私が1人であがろうとしても引き止められたりしないはず。
しかし美波さんはそんなのまったく意に返さなかった。
「もう!橘さんったらまたそういう事言うんだから」
は?
美波さんはそう言って話を続ける。
「野坂先生。橘さん学校ではいつもツンとしていますけどプライベートでは可愛らしい一面を見せるんですよ」
ん?ちょっと待って。コイツ何言ってんの?
「この前一緒にカフェに行った時もパンケーキを食べた時なんて満面の笑みを浮かべていたんですよ」
「え〜!?そうなの!?全然想像できないわ」
「ちょっと!?私満面の笑みなんてしてないわよ!」
私がそう指摘しても美波さんは止まらない。
「橘さん、意外にも甘いもの好きなんですよ」
先程まで気まずい雰囲気だったが美波さんの一言で一気に変わってしまう。
「それに橘さんって料理もすごく上手なんですよ」
「すごいわね。橘さん女子力高いわね」
「普通です。大したことないです」
何なのよ。これ。
私は会話から外れたいというのに一向にそうさせてもらえない。
というか美波さんと野坂先生なんでこんなに話が噛み合っているのよ。
そして美波さんが少し話題を変える。
「そういえば、野坂先生って今年から赴任された新卒の先生ですよね?」
「ええ、そうよ。先生になったばかりで正直まだ右も左も分からないわ」
「とてもそんな様子には見えないですね。
授業だってすごく分かりやすく丁寧ですし」
「そうね。それは私も同意見よ」
一度勉強しているところなので授業は真面目に聞いてはいないが客観的に評価するなら野坂先生の授業は完成度の高いものだ。
「そう言ってもらえるだけでも嬉しいわ。けどそれなら授業中におしゃべりしないで真面目に受けて欲しいわ」
野坂先生は耳のいたいことを言ってくる。
「たしかにその通りですね。これからはそのようなことがないようにします」
「橘さんもよ」
野坂先生はそう言って私の方に視線を向ける。
「…分かりました」
そもそも授業中に美波さんが話しかけてこなければこんなことにならなかったのに…。
私がそう思っていると美波さんがこっそりと耳元に話しかけてくる。
野坂先生には聴こえないよう小さな声だった。
「私の顔に見惚れるのはいいけど次からは私に気づかれないように見ないとダメよ」
美波さんはからかいのつもりで意地悪めいた笑みを浮かべる。
この女ぁ…!
だから私あんたの顔なんかに見惚れてなんかないわよ!
もういい!
こんなやつといてもロクなことなんてないわ!
私は2人が談笑してる中、湯船から出る。
「橘さんもうあがるの?」
「はい。これ以上浸かっているとのぼせそうなので」
「あっ、橘さんそこ滑りやすいみたいだから気をつけて…」
「分かってるわよ」
私はそのまま脱衣所に向かうつもりだったがここで予想外のことが起こる。
突如視界が上の方に向く。
あれ?
あっ…、これ足を滑らせてしまったわね。
こういうとっさのハプニングの時、人間は普段の倍の速さで状況把握することができる。
周りにつかめる手すりなどもなかったのでそのまま倒れるだろう。
ダメージを最低限にするため軽く受け身を取ろうとするがその必要はなかった。
「橘さん!!!!」
美波さんが湯船から咄嗟に出て倒れるのを支えてくれた。
しかし床のタイルが滑りやすくなっていたため踏ん張りが効かずに私たちは軽く倒れてしまった。
気がつくと私の眼前には超至近距離の美波さんの顔があった。
えっ…、ちょ……。
一瞬言葉に詰まってしまう。
「いたた、ごめんなさい。橘さん。私まで倒れてしまったわ」
私が下で美波さんが上から覆い被さっている状態になる。
「…いい…から、早くどきなさいよ!」
私がそう言うと美波さんは立ちあがろうとする。
すると胸の方に違和感を感じる。
胸の方を見ると美波さんが倒れたはずみで私の胸を掴んでいたのだ。
「あっ…」
美波さんもそう言って自分が掴んでるものを見る。
なぜか美波さんは2.3回掴んでいる胸を揉む。
美波さんは複雑そうな顔をしながらこう言った。
「…えーと、橘さんって着痩せするタイプなのね」
「…っ!…、アンタねぇぇ!!」
私の声が浴室内に響き渡るのであった。
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