第19話
「こんなところで会うなんて偶然ね」
「はい…。そうですね…」
気まずすぎる…。なんでプライベートで学校の先生に会わないといけないのよ。
しかもよりにもよって銭湯で…。
私は基本的に学校の先生は好きではない。
私のいた黒白院では生徒と先生は厳格な壁が存在した。上手く先生に気に入られる子もいたけど生憎私の性格ではそれは不向きだった。けど学校なんて学業の成績と部活動による結果これらがあれば先生は生徒を評価せざるえない。
まぁ、もし仮にこれらで結果を出せていなくてあの親の子供の私なら関係なかったかもしれないわね…。
平等なんて言葉、この世の中にないんだから…。
い、いや!
そんなこと今はどうだっていい!
私はもうあそこにはいないんだから!
そう思い込んで思考を止める。
私は黙ったまま湯船に浸かり続ける。
隣り合わせで野坂先生と一緒に浸かっているが一切の会話がない。
静寂の中、野坂先生が口を開ける。
「学校にはもう慣れたかしら?」
野坂先生は優しいそうな口調でそう問いかけてくる。
「慣れるも何もまだ始まって2週間弱ですよ」
「うーん。確かにそうね」
せっかく話を振ってくれたが私はそもそも野坂先生と会話を弾ませたいわけではないのであえてつれない返事をする。
下手に会話を続けさせるとめんどくさいものね。
今の返しでもう会話は続かないだろうと思ったが野坂先生は私の予測の範疇を超える人だった。
「だけど橘さん、美波さんとすごく仲良くなっているじゃない」
「ハァ!そ、そんなことないですよ!」
予想外の言葉に思わず変な声が出てしまった。
「橘さんは黒白院の附属にいたから正直学校に馴染むには少し苦労すると思っていたけど先生の杞憂だったわね」
野坂先生は明るく優しい口調で話す。
「余計なお世話です。それに美波さんとは仲良くないです。あっちが一方的に絡んできているだけです」
「本当かしら?先生にはそう見えないけど」
先生はそう言いながら少し意地悪めいた笑みを浮かべる。
ぐっ、めんどくさいわね。この先生…。
今年から就任した新卒の先生。
あの有名な撫子学院高等学校を卒業して有名大学に進学しこの春から百合ヶ丘第三高校の英語教師として教鞭をとっている。
美人で誰にでも優しい野坂先生は多くの生徒に人気だ。
まだ先生になって間もないというのにもうここまで皆の信頼を得ている。
授業もまぁ控えめに言ってすごく分かりやすい。
これほどの能力を持ち、人格も優れている。
学歴だって申し分がないのにどうして学校の先生になったのだろう?
大企業に行った方が給料も良かったはずなのに。
私は以前からそんな疑問を持っていた。
「橘さんはこの銭湯の近くに住んでるの?」
「一応そうですね」
「帰りは気をつけないとダメよ」
先生は小うるさい事を言ってくる。
「分かってますよ。…というか先生もこの近くに住んでいるんですか?」
「ええ、そうよ」
それなりに会話を続けていると美波さんがこちらの方に来た。
「待たせたわね。橘さん」
そう言って湯船に入り美波さんは野坂先生のいない逆側の方に来る。
「ちょっと!近いわよ!」
「あら、そうかしら」
私の指摘など関係なく美波さんは私の隣に居座る。
そして野坂先生が美波さんに話しかける。
「え?美波さんまで来てたの!?」
「すごい偶然ですね。野坂先生」
こうして野坂先生と美波さんに囲まれながら私は湯船に浸かることになる。
なんでこうなるのよ!
私は1人でゆっくり入りたいのに!
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