第16話

 4月18日月曜日

 

 私は5時間目の英語の授業を受けていた。

昼食も挟んだことにより猛烈な眠気に襲われる。

黒板を見るともうすでに中学時代に学習している範囲を勉強していた。

ハイレベルの中高一貫校では中3のあたりから高校の範囲を先取りして勉強するのは珍しいことではない。

それに私は中学の時に家庭教師の先生から高校生で習う範囲の英語は全部教わっている。

だからこの授業では新たな学びなどない。

復習として活用するしかないからだ。


 退屈ね。もう終わらないかしら。

そう思って教室の時計を見る。残り30分もあった。

思ってたよりも全然時間は経過していなかった。


 最悪ね。この暇な時間があと30分も続くなんて。

この際もう居眠りしようかしら。

いや、それは私のプライドが許さない。

授業中に寝る奴なんて勉強ができないバカな人間がすることよ。

……けど私は別にバカじゃないし。

黒白院女子高等学校附属中の時はずっと1位だったし。

この百合ヶ丘に来てからは今のところはたまたま2位が続いているけど…。

まぐれは3回も続かないわ!

3度目の正直よ!

次の中間テストでは絶対に美波さんに勝つんだから。


 ふと隣に視線を向ける。

席が隣の美波さんは真面目に集中して授業を受けていた。


 へぇ。案外ちゃんと授業は受けるのね。


 美波さんは先生の言葉をしっかり聞いてノートもきちんととっていた。


 側から見たらただの生徒が授業を聞いているだけというありきたりな風景だ。

しかしなぜかしら?

お世辞抜きで美波さんだとそれすら特別な風景へと変わる感じがした。


 やっぱり美人だとなんでも絵になるわね。

再三言うけど美波さんの性格は気に入らないけど彼女は容姿は本当にレベルが高い。

 一括りに美人と言っても彼女の場合次元が違う。

容姿が整っていて一般的に美人と呼ばれる人はいる。

けど容姿の良し悪しなんて結局は他者による主観だ。

10人中8人が美人と思っても2人はそうでもないと思う場合だってある。

まぁ、美波さんの場合だったら10人中10人が美人と思うにちがいないわね。


 入学してそろそろ2週間近くになるというのに今だに休み時間になったら他クラスや他学年の生徒が美波さんを見るためにわざわざ教室に来るくらいだし。


 そんなことを考えながら美波さんを見ていると急に美波さんが私の方に顔を向ける。


「さっきから視線を感じるけど私の顔に何か付いてるの?」


 美波さんはいつものような物腰のやさしい感じで話しかけてくる。

ちなみに授業中なので小声だった。


「べ、別に見てないし。気のせいでしょ」


 やらかした。流石にガン見しすぎたわ。

なんとなく癪だったので私は誤魔化すことにした。


「あら。思いきり私の顔見ていたじゃない」

「だから見てないわよ!自意識過剰なのよ!」


 私がそう言うと美波さんは少し出方を変える。


「ふーん。あくまでもシラをきるのね」

「だからそんなんじゃないわよ!」

「そんなに強く否定するなんてなんか怪しいわね。もしかして私の顔に見惚れていたのかしら?」


 彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべて挑発めいたことを言ってきた。

そして私はその言葉にムキになってしまった。


「ハァ!そんなわけないでしょ!!」


 私は思わず席から立ち上がり声を上げて言ってしまった。


 あ……。


 先程までクラス皆静かに授業を受けていた。なのに私が急に声を張り上げて話してしまった。

当たり前の話だがクラス全員が私の方を見ていた。


「橘さん。声大きすぎよ」


 美波さんは小声でそう言った。

今更声を小さくしても遅いわよ!


「授業中に随分と楽しそうね。2人とも」


 英語教師の野坂先生がほんの少し注意まじりの様子で話しかけてくる。


 野坂先生は空気を変えるため軽い咳払いをする。


「橘さん!10ページの問1の空欄に入るのは4択のうちのどれかしら?」


 野坂先生は急に問題を出してくる。


 私はすぐに10ページを確認する。

4択の記号問題だった。


「②です」


 私がそう答えると野坂先生は分かりやすく顔をひきつらせる。


「うっ…、正解」


 野坂先生はすぐに切り替え、美波さんに問題を出す。


「美波さん!問2の答えは?」

「①です」


 即答だった。


 野坂先生の表情を見るにどうやら正解のようだ。


「えぇ…。2人とも正解しちゃうの。ここは間違って次からちゃんと聴きなさいって注意するパターンでしょ」

「なんですか。パターンって…」


 野坂先生の発言は私は思わずツッコミを入れてしまった。


 野坂先生はまた咳払いをする。


「2人とも内容は理解できてるようだけどみんなの授業の邪魔はしてはダメよ」


 これは先生の言うとおりだった。


「すいません」

「すいませんでした」


 私と美波さんが謝罪をする。


「まぁ、先生も高校生の時はよく授業中に話して注意されていたからこんな偉そうに言えないけどね」


 野坂先生がそう言ってフォローしてくれた。


 教室の空気は落ち着き授業を再開しようとした時クラスのお調子者らしき男子が先生に質問をした。


「野坂先生!その話していた人って先生の高校時代の彼氏っすか?」


 その質問で一気にクラスの空気が変わる。

女子は分かりやすいようにテンションが上がっていた。


「ちょっ!?そんなんじゃないわよ!」


 先生はわかりやすく慌てふためく。

どうやら図星だったようだ。


 このあと授業はあまり進まずに終わるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る