第15話


 美波さんが帰ったあと料理で使った皿洗いや洗濯などの家事をした。

シャワーを浴びて明日の学校の準備をする。

家事や準備を終わらせたあとは息抜きの時間だ。


 私は今日購入した小説を手に取る。

ページを開いて文字の羅列を読んでいく。

面白い本はあっという間に時を忘れさせ物語の世界に熱中させてくれる。

そのまま1時間読書をしてキリのいいところまで読み進めた。

残りは明日読むことにして本を閉じる。


「そろそろ寝ようかしら」


 洗面台で歯磨きを済まし、スキンケアをする。


 ベットに入り、寝ようとしたが今日の美波さんと一緒に過ごした出来事を思い出す。


 いろんなところを回りそれなりに会話もした。主に美波さんが一方的に話しかけていたけど。


 入学してまだそんなに時間が経ってないのに美波さんは既にクラスで高い人気を得ている。

教室ではいつもいろんなクラスメイトに話しかけられていて友達にも困ってないはずだ。

なのにどうして私にこんな執拗に絡んでくるのか理解できない。

今日だってわざわざ私を誘わずに他のクラスメイトを誘えば良かったのに。

みんな美波さんから誘われたら目の色を変えて喜ぶはずよ。


 品行方正で超絶美人そして勉強と運動もトップクラス。

悔しいけどこの私が認めざる得ない程の完璧超人ね。


 まあ、でもそんな完璧超人な美波さんにも料理ができないって弱点があるわ!

これが知れただけでも今日一日を犠牲にした甲斐があったわね。

 家に呼んで料理を作ってあげたのは予想外だったけど…。

いや、あれは私が美波さんの挑発に乗っただけね。

他の奴らの安い挑発なら受け流されるのにどうしてアイツの挑発には乗ってしまうのよ!

だけどまさかあんなに料理を喜んでもらえるとは思ってなかったわ。


 そう思った時、美波さんの言葉を思い出す。


『こんなに美味しい料理を食べるのは久しぶりよ!…ありがとう!!』


 今までの人生であんな風に誰かに感謝されたのは初めてだった。


 小さい頃から私は常に高いレベルの成果を求められ続けてきた。

勉学、スポーツといった学校で評価されるものが出来るのは当たり前でその他のあらゆる教養も高い水準が求められた。

料理はその内の一つにすぎない。


 ふと昔のことを思い出す。


『いいか。橘の名に恥じないよう常に結果を出し続けろ』


『これぐらいはできてないと橘家の人間として失格ですよ』


「……くっ、…」


 嫌なことを思い出した。

私はあの家から…あの親から離れたくてここに来たんだ。


 気分を変えるため私は違うことを考える。

考えを変えるとまたさっきの美波さんの言葉が脳裏に蘇る。


 何なのよ!なんでさっきからこの言葉が頭から離れないのよ!

しかも気に入らないのはその言葉が不快ではないということだ。

なんというか…心の奥底が暖かくなる感覚だった。


 いや、気のせいね。もしかして体調を崩しかけているのかしら?


 私はベットに入る。

今日は疲れたし、もう寝よう。

まぶたを閉じて睡眠に入ろうとする。

しかしそれでも美波さんの顔が頭によぎる。

今日一緒に回った風景やカフェでの会話が頭の中で流れていく。


「あーもう!なんなのよ!あの女!」


 ちょっと褒められただけで何意識してるのよ!


 ムカつく!今日一日アイツに付き合わされたっていうのに1人の時もアイツに振り回されるなんて。


「もう寝る!」


 そう言って布団を上げて顔を被せる。


 しかしその夜、中々眠ることができず次の日寝不足で学校に行くのであった。

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