第14話

「お邪魔します」


 美波さんはそう言って、私の部屋に入る。


「オムライスのいい香りがするわ」


 私の食卓には2人分のオムライスと野菜サラダとコンソメスープを用意している。

スーパーから帰った後に一時的に解散して私は美波さんから要求された料理のオムライスを作った。

一応付け合わせにサラダとコンソメスープも付けた。

料理ができたので美波さんを家に呼んで今に至る。


 部屋に上がり込んだ美波さんは私の部屋を見回す。


「ずいぶん綺麗にしているのね」

「ちょっと!あんまり人の部屋ジロジロ見ないでよ」

「ごめんなさい。私掃除とか苦手だから…

あまりにも綺麗だから…つい…」


 美波さんは申し訳なさそうにそう言った。


「あんたって意外に生活能力低いのね」

「それを言われたら何も言い返せないわね」


 今日一日で学校では見ることのできない美波さんの意外な一面を知ることができた。

上手く言えないがほんの少しだけホッとした。


「まぁ…いいわ。アンタもちゃんと人間なのね」

「さすがにそれは失礼すぎないかしら?

橘さんって私のことなんだと思っているのよ」


 美波さんは少し不満げな様子でそう言っているが私の言葉に対して言い返しているだけだ。

本気で不快に思っているわけではなかった。


「それより早く食べるわよ。せっかく作ったのに冷めてしまうわ」


 私はそう言って食卓に誘導する。

私の家のダイニングテーブルは偶然にも2人用である。

家具店で用意してもらったやつがたまたま2人用だった。

誰かを招待して一緒に食べるなんてそんな馴れ合いをするつもりなんて微塵もなかったが今回だけは仕方ない。


 次はない!!

本当に無いんだから!


 お互いに対面となる形で椅子に座る。


「すごく美味しそう!こんな上手に作れるなんて橘さんすごいわ!」

「いちいちそういうのいいから」


「いただきます」


 美波さんは手を合わせてそう言った後にスプーンを手に取る。

私もそれに合わせてスプーンを手に取り、オムライスをひとくちサイズに分けてスプーンに乗せ口に運んだ。


 うん!

オムライスなんてひさしぶりに作ったけど悪くない出来ね。

続けてひとくち、ふたくちとオムライスを口に運ぶ。

子供みたいな料理だと思ってバカにしてたけどたまに食べるくらいなら問題ないわね。

それにこの完成度なら美波さんも満足しているんじゃないかしら。


 私はそう思って美波さんの方に視線を向ける。


「え?」


 美波さんはひとくちオムライスを食べてからまったく食が進んでいなかった。

ほんの少し下の方を向いていたので前髪に隠れて目元が見えなかった。

そのせいで表情を読み取ることができない。


 ウソでしょ!?

もしかして口に合わなかったの!?

私はそんな不安を覚える。


 その瞬間、美波さんがボソッと何かを発した。

あまりにも小さな声でなんて言ってるのか私には聞き取ることができなかった。








「……温かい、………おいしい……」



「ちょっと、あんた今なんか言ったでしょ!」


 急に美波さんは黙り込むし、もし料理が気に入らなかったとしたら別のものを出すしかないと思い話しかける。


「あーもう!悪かったわね!今からなんか違うもの作って用意するわよ」


 美波さんから返事がないので変に気を使われていると思い、少しイラついた気持ちでそう言った。

しかし次の瞬間美波さんは急に顔を上げて私の両手を掴んできた。


「ちょっと!?」


 急な行動に私は理解できず驚いてしまう。


「何よ!!アンタ、急に手を掴んで」


 両手を掴まれていて美波さんの顔がほんの数センチの近さのところまで来てる。

この光景だけを赤の他人に見られたらまるで今から愛の告白でもするかのようだ。


 やばい…。

性格は嫌いだけど美波さんって顔だけはものすごく綺麗で整っているからこんな美人に接近されるとなんだかこっちまで変な気分になってしまう。


 いや、待って!落ち着きなさい。橘季月!

たとえ美人から言い寄られたとしても私はそう簡単に落ちるようなチョロイ女じゃないわ!


 私が言葉を出そうした時、同じタイミングで美波さんも話し始めた。


「美波さ——」

「橘さん!すごく美味しいわ!!」

「へ?」


 美波さんの言葉に私は普段なら絶対にしない言葉を発する。


「こんなに美味しい料理を食べるのは久しぶりよ!…ありがとう!!」


 私は美波さんの表情を確認する。

その言葉に嘘偽りなどは感じられなかった。


「お、大袈裟なのよ!感想なんていいからさっさと食べて!」

「ええ。そうね」


 美波さんはそう言って食事を再開した。

その後はいつものように他愛もない会話をするだけだった。


〜〜〜〜


 食事が終わり、美波さんは自分のアパートの部屋に帰るところだった。

一応玄関で見送りだけはしてあげることにした。


「今日は楽しかったわ。ありがとう。橘さん!」

「ふん!私は散々な1日だったわ」

「そんなこと言って本当は橘さんも楽しかったんじゃないの?」


 美波さんは含みのある笑みでそう問いかけてきた。


「……そんなことないわよ」

「今少しだけ間を空けたわよね?」

「バカ言わないで!!もういいでしょ!

早く帰りなさい!!」


 美波さんの指摘にムキになってしまう。

私はなぜだかこの女のペースに乗せられてしまうことが多い。


「そうね。また明日学校で会いましょう!」


 美波さんはそう言って部屋から出て行ってしまった。


 


「はあ、疲れたわね」


 誰もいなくなった部屋で私は1人そう呟くのであった。

こうして美波さんとの1日は幕を閉じた。

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