第12話

 本屋で買い物を終えて、用が済んだので私たちはモールを出た。

私たちは適当に話しながら帰路についていた。


「もうそろそろ解散にしてもいいんじゃないの?」

「そうね。確かにいい時間帯ね。」


 今日は美波さんと半日も2人でいさせられたけど案の定疲れたわね…。

行きたい場所などのプランは基本的に私の好きなようにやらせてもらったのは感謝するけど美波さんと会話をするのは本当に疲れる。


「それにしても橘さんが恋愛小説を買うなんて意外だったわ」

「うるさいわね。別にいいでしょ」


 先程本屋で買った本はレジ袋に入れて持ち運んでいたのだが偶然にも透けてしまい本のタイトルを美波さんに見られてしまった。


「その本ってシリーズ物よね。中学の時にクラスメイトで読んでいる人多かったわよ」

「あんた、学校で私がこの小説読んでいるの言わないでよね!」


 忠告の意味を込めて少し強めに言う。


「別に誰にも言わないわよ」

「どうかしら。私、美波さんのこと信用してないから」

「もう!橘さんって本当に素直じゃないんだから!」


 そう言って私の肩に軽くこづいてくる。


「冗談じゃないわよ」

「そんなこと言って今日だって私と一緒に遊んでくれたじゃないの」

「約束を守っただけよ!勘違いしないで」

「ふーん…約束ね」


 美波さんはそう言って含みのある笑みを浮かべる。


「何よ」

「橘さんってなんだかんだ言ってすごく優しいわよね」

「はぁ?言ってる意味が分からないんだけど!」

「1つ気になっていたのよ。橘さんはどうして無理して独りになろうとしているか…ってね」


 私は美波さんのその言葉に不快感を覚える。


「無理なんかしてないわよ!…私は…独りでいるのが好きなだけよ」

「…そう。それならそう言うことにしとくわ。けど1つだけ橘さんに伝えたい事があるわ」


 美波さんはそう言った瞬間、ほんの少しだけいつもと雰囲気が変わる。

おっとりとしたお淑やかな声色から落ち着いた口調に変わる。


「何よ。…そんな改まって」


 私はなんとなく直感だがいつもと違うものを感じる。



「この先、この私がいる限り、橘季月。

あなたが独りになる事なんて万に一つありえないわ」

「………」


 私はその言葉を聞いてすぐに返事をすることができなかった。

上手く言語化できないけど美波さんは今まで出会ってきた人達と何か違う。

それだけは理解していた。

けど…それが何なのか今の私には分からなかった。



〜〜〜〜



 私たちの住んでいるアパートが目前になった時、美波さんが急に声を上げる。


「あっ!私、今食材を切らしているの忘れていたわ。ごめんなさい。橘さん。私これからスーパーに行って食材を買うことにするわ」


 私たちのアパートの近くにはスーパーやコンビニ、チェーン店などがある。

立地的には悪くないアパートだ。


「私も食材の買い足したいから一緒に行くわ」


 同じアパートに住んでいるんだし行く場所は同じだ。

時間をずらしたりするのもできるけどせっかくだし、今日は仕方なく一緒にスーパーに行くことにした。

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